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茨木の過去に思いを馳せて
2019/08/30 07:31
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投稿者:Miki - この投稿者のレビュー一覧を見る
私が今住んでいるところから、それ程離れたところでもない場所で過去にこのような歴史が刻まれていたと考えるだけで感情移入。何かと平将門は”反乱者”のように表現されがちであるが、この小説では愛すべき武人として描かれている。
直木賞発表前に他の候補作も含めて読破した時点で、この小説が受賞するのではと思っていたが、結果は違った。確かに「渦」も良かったが、個人的には一押しでした。
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皇族の僧侶は将門をどう見たか?
2020/10/31 18:45
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は澤田が読売新聞に連載したものをまとめて単行本化したものである。なお、本編は第161回直木賞の候補作品となった。
平安時代中期の宇多天皇の子に敦実親王がいた。この敦実親王は、和歌、蹴鞠、管弦などの音曲に精通していた。寛朝という仁和寺に入れられた長男がいた。この寛朝は梵唄に傾倒し、その師匠として東国に下った豊原是緒を追いかけていく。
この東国に下った寛朝を取り巻いていたのが、平将門、平貞盛、興世王、藤原秀郷など、武蔵、常陸、下野などの官人たちである。ストーリーの中身は平将門に関するものである。とは言っても、これまで著名な作家が描いてきた平将門の物語とはやや異なる。それは主人公が将門ではない点が最も大きい。
主人公は寛朝であるし、その寛朝が見た東国の戦である。今でいえば、皇族である寛朝にとっては、全く別の世界に住むようなものであったろう。その辺りがよく描かれている。本編で描かれている将門や貞盛の戦場となったのは、どちらかといえば、現在の茨城県の霞ケ浦周辺であるように読むことができる。
これまでの作家、たとえば海音寺潮五郎が描く戦場は将門の人となりを描いているので、石井営所など霞ケ浦とは縁のない場所であった。しかし、本編では常陸、武蔵、下総、下野などの国府を回っているので、どうしても霞ケ浦の水路を利用するのが自然である。
そういう意味ではだいぶ澤田の趣向が加わっていて、面白く読めた。乱後の寛朝の行方や行動は読者任せであるが、続編にでもまとめて欲しいと思った。
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魅入られた人たち。
2022/08/17 11:53
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投稿者:名取の姫小松 - この投稿者のレビュー一覧を見る
宇多天皇の皇子、敦実親王の長子である寛朝は至誠の声を求めて坂東に下る。梵唄を極めようと名人を探そうとする中、平将門の兵乱を目の当たりにする。寛朝の家人の千歳は琵琶の名器を求め、とてつもな策を巡らす。
人々の思惑を超え、欲と生存を賭けた行動が悲劇をもたらす。
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平安の東国を舞台に、天皇家の血を引く僧侶を主人公に、平将門の乱の背景と東国の人間模様を作者独自の視点で描く作品。
若冲とこれの2作しか読んでいないが、若冲同様史実の中に作者の創作をうまく落とし込み、あたかも史実であったかのように描かれていて改めてこの作家のすごさに感銘を受ける。
寛朝、豊原是緒、蝉丸を違和感なく同時代に存在させてしまう物語がなんとも面白し、また伝説ばかりが一人歩きする将門についても、民に良く目をかけ、信念を貫き通し、妙に人を引き付ける人物としての描かれ方がとても清々しく武将の祖という感じさえ受ける。
それだけではなく、都にいる時の血生臭さと、東国においての血生臭さ、戸惑いながら寛朝なりにその違いを受け入れて自分の梵唄に落とし込んでいくことも、自分には何かを変える力があるわけではなく、そういう世を伝えていくという覚悟を描いたように感じとてもずっしりと印象に残ってしまった。
次回作はもちろん他の作品ももっと澤田さんの作品読んでみよう。
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平安時代の東国が舞台。
後の大僧正 寛朝の目を通して、平将門の乱を描く。至誠の声を求めて都を出て東国まで出向いた寛朝の理解した将門の俠義心、楽を極めようとする中で生まれる葛藤、そして侍従 千歳の野心。
残酷で報われないシーンも多く目を背けたくなるが、ページをめくる手が止められない著者の筆力に導かれ、ほぼ一気読み。
どんな内容の話か全くの予備知識なし、題名に惹かれて手に取ったが、読んで良かった。
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将門の道理か、京の倫理か! 幻の師を追って、坂東を訪れた仁和寺の梵唄僧・寛朝。そこで彼は、荒ぶる地の化身のような男に出会う。
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初出2017年読売新聞
平将門を純粋な人間としてとらえ直した直木賞候補作品。取れるといいな。
貴族の音楽管弦朗詠の天才である父敦実親王に嫌われ仁和寺に入れられた寛朝は、父が関わらない梵唄(読経)を極めるために「至誠の声」の持ち主豊原是緒に師事しようと、その消息を尋ねて板東へ下り、そこで平将門に出会う。
寛朝は心慶という僧になっていた豊原是緒から避けられ、彼の持つ琵琶の名器「有明」を手に入れて出世しようとする従者千歳と共に板東に留まるが、まっすぐな気性の将門が、彼を頼って逃げ込んでくる不逞の輩のために戦をする様子に「至誠の声」を聴いて、自分が何のために何を極めようとしているのかを考えてしまう。
やがて将門は寛朝はの諫めを聴かず、国司を追放して反乱を起こしてしまう。国衙や国分寺が焼かれて夥しい人が殺され、戦場で武者たちが殺し合う様子を、寛朝は心を揺さぶられながら客観的にとらえる。
心慶があこやという盲目の少女に与えた「無明」と名を変えた「有明」を、千歳は少女を殺して強奪し、千歳は半殺しにされるが、寛朝によって都に戻され蝉丸になるらしい。ということは寛朝も帰っちゃうわけね。
せっかく「この世の音に優劣などありはしない。あまねく声は至誠の声であり、同時に乱世亡国の声。我ら愚かな凡百が気付かぬだけで、世の中はすべて尊ぶべき妙音に満ち満ちているのではあるまいか。」と気付いたのに。
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世は朱雀帝の御代。坂東で平将門が暴れていた時代。
主人公は敦実親王の長子で真言声明の第一人者、寛朝。
敦実親王って、源雅信の父親…くらいの認識しかなかったけど。こんなに癖の強い人だったのか?いつ都に戻るのかと思って読み進んでたら、とうとう坂東の地で終わってしまった(涙)
残念ながら、将門は美しく描かれ過ぎてて感情移入できません。まだ香取の傀儡女達の方がリアルだった。
更に、え、千歳が蝉丸??そりゃ確かに、盲目の琵琶法師で名器「無明」を手に入れるけど…でも「女のような容姿」ってあったよ、百人一首の絵札とか月岡芳年の『月百姿』とかの蝉丸はオッチャンだよ…!
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平将門の乱の下の楽を追求する僧侶とその下僕の歴史小説。
この時代を描く歴史小説は希少なので期待しました。
自分の平将門の原体験は大河ドラマの「風と雲と虹と」です。
この物語の将門像もそれに重なったので読みやすかったです。
主人公は「至誠の声」を求め関東に下った僧寛朝とその従僕で天下の名品の琵琶を求める千歳です。
千歳の畜生道への転落ぶりが凄まじく、最終的に寛朝がそれでも千歳を抱きすくめるのはいつもの澤田節っぽいです。
有明が無明となってあの名器につながって、千歳が百人一首のあの坊主になるとは、すごい想像力です。
寛朝が成田山新勝寺の開祖であることは物語から窺えないのと、生き残った将門の娘の「うそ」が史実のだれなのかがわかないのが少し残念でした。
それにしても、平将門の乱をこの視点で描けるのは澤田さんならではでした。
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寛朝と蝉丸と将門を交差させて,平安時代の藤原道長の絶頂の時代の少し手前の大和朝廷の横暴の内に飲み込まれてしまった将門の姿が哀しく美しく響く.また千歳の琵琶「無明」に固執する姿は何やら恐ろしく,芸のためというより芸術より出世のためのようでこれが蝉丸かと驚いた.寛朝もまた音曲に囚われたところは同じだがさすがにのちの大僧正で,将門の戦の中に至誠の声を聴くという奇跡を見る.とにかく音曲に囚われた者と権力争いの戦に囚われた者達,そして哀しい傀儡女の織りなす世界は見事だった.
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「至誠の声」を求める寛朝。人の道を外れても琵琶の名器「有明」を求めた千歳。同じ傀儡女なのに正反対の在り方である如意とあこや。罪を背負いそれを償い続ける心慶。秩序のない坂東の地で真っすぐに生きる平将門。
坂東の地は血で染まる。
戦は全てを灰じんに帰す。
その中で寛朝は何を感じて何を見、何を得たのか?
そもそも「至誠の声」とはなんぞや?
読み進めると初めと最後の寛朝の見方がずいぶん変わって行くのを感じた。
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落ち着いたたたずまいの表紙からはちょっと考えられないほど熾烈なお話でした。
読み応えという点では候補作中ナンバーワンでしょう。巻末の参考文献を見ても分かる通り、大変な労作であり力作であります。
時は平安の世。宇多天皇(寛平法皇)の孫であり、仁和寺の僧である寛朝は、音楽(梵唄)を求めて従者である千歳とともに東国に旅立ちます。
盗賊が跋扈し、荒ぶるかの地で出会ったのは、のちに朝敵となる男・平将門でした。
時代小説には詳しくないのですが、どうやら平将門を不器用にしか生きられない男として描いた点が新しいようです。合理主義に侵された現代の価値観で将門をみると、何てアホなやつなんじゃいと言いたくなる向きもあろうかと思いますが、謀反人の汚名を着せられてもなお自らの信念を貫き通す姿は単純にカッコよかったです。特に第五章で、寛朝と将門が再開・対峙する場面はぐっと胸に迫るものがありました。
もう一つの読みどころは音楽に憑りつかれた男たちのドラマです。梵唄に魅せられた寛朝と、琵琶(有明)に魅せられた千歳は、まるで合わせ鏡のようで面白かったです。彼らを含めた登場人物たちが抱える様々な屈託が明らかになっていく展開も、時代小説というよりはミステリ小説を読んでいるようでなかなか新鮮でした。
ただ前回の候補作『火定』と比べると人間関係が入り組んでいる分、読み進めるのがちょっと大変かもしれません。名前も似てますし。
傍らで人物相関図を書きながら読むといいと思います。
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平将門の乱を僧侶・寛朝目線で描いた物語。
至誠の声を学ぶため京から東国に下った寛朝は、京の理論が全く通らぬ荒ぶる東国の土地柄と、何にも縛られず自由奔放に生きる人々の姿を目の当たりにする。
そして謀反人・平将門と出逢い、その人となりに魅せられ親しくなっていく。
混沌とした世の中で、己の信じた義を守るため戦いを繰り返す将門。
後戻りすることなど決して出来ない不器用さに好感を持った。
雅な都と対比することで東国の荒々しさ獰猛さがより強調され、将門の苦悩も浮き彫りになっていく。
京の「音楽」と東国の「戦」、静と動、一見相反するこれらが折り重なると戦の不条理さを感じずにいられない。
貴族社会から武家社会へと移る変わり目をまざまざと見せつけられた気がした。
平将門目線の話も読んでみたくなった。
寛朝目線のせいか、戦の場面も淡々としていた気がする。
もっと荒々しさと盛り上がりも欲しかった。
特に後半、話の展開がちょっと強引すぎたかもね。
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安定感ある面白さ。文章が流麗で描写に過不足なく、人物像がイメージしやすい。自分の思っていた平将門像とほぼ一致していて、とても読み易かったです。
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時代は平安時代だろうか。至誠の声を求める寛朝と琵琶の逸品を求める千歳が坂東(関東)へと旅をする。その中で、平将門や傀儡女、盗賊の異羽丸らと出会う。千歳は琵琶に取りつかれ、人の道を外す。寛朝は戦場の平将門に至誠の声を聞く。落花は綺麗な花なのか、戦場の血なのか。地獄を見ながら芸術を追い求める二人。
登場人物が多いので、最初は人物のメモをとりながら読むのが良いだろう。無駄な人物はおらず、誰もが歴史の中で翻弄されながら、歴史に流されていく。それを無常と言っても良いが、ここでは“落花”と表現するのが良さそうだ。