魔王の島
著者 ジェローム・ルブリ , 坂田雪子・監訳 , 青木智美・訳
――彼女のはなしは信じるな。 2019年度コニャック・ミステリ大賞受賞、幾重もの罠を張り巡らせた真のサイコ・ミステリー。祖母の訃報を受け、彼女は孤島に渡った。終戦直後に祖...
魔王の島
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商品説明
――彼女のはなしは信じるな。
2019年度コニャック・ミステリ大賞受賞、
幾重もの罠を張り巡らせた真のサイコ・ミステリー。
祖母の訃報を受け、彼女は孤島に渡った。終戦直後に祖母とここで働き始めた者たちだけが住む島。本土への船が来る日までを島で過ごす彼女は、やがてこの島に漂う不吉な影に気づきはじめる。ここには何か忌まわしい過去がある。そして若き日の祖母の手記にも謎の「魔王」の影が……。
島で行われていたというナチスの実験。
この島に逗留し、やがて海で死んだ子供たち。
何かを封じた開かずの扉。
すべての核心となる「サンドリーヌの避難所」事件。
積み重なる謎。高まりゆく不安と恐怖。
誰かが誰かを欺こうとしている。
誰が誰を欺こうとしているのか?
いったい何が真実なのか?
読めば読むほど深まる謎また謎。曲折しながら突進する行先不明のストーリー。反則スレスレの大驚愕。――この種の不敵なミステリーの名産地といえばフランス。そこから新たな鬼才が登場しました。不吉なイメージの乱舞と恐ろしい出来事の連打の中に編み込まれた幾重もの罠!
『その女アレックス』のルメートル、『黒い睡蓮』のビュッシ、『パリのアパルトマン』のミュッソに続くフランスの刺客、ジェローム・ルブリ。その大胆不敵な怪技をご体験ください。
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嘘の物語
2022/10/24 10:08
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
カバー・デザインが決め手となって買った。CDのように本の「ジャケ買い」。『ギャラリーフェイク 35 』レビューで書いた、お気に入りの象徴主義のスイス画家アルノルト・ベックリンの『死の島』が使われている。日本語タイトル『魔王の島』とか、孤島で繰り広げられる不安、恐怖、そして死のイメージと数々の謎という紹介文を表現するのにぴったりなデザインだ。カリブ海の島で繰り広げられるゾンビ物語である「生ける屍」(ピーター・ディキンスン著ちくま文庫2013)でも使われており、2冊目だろうか(この絵画にインスピレーションを得た福永武彦の「死の島」の本で使われたことはないが)。
ということで内容は二の次であったが一気に読んだ。仏ミステリは初めてだが、よく読む独ミステリとは展開が違っている。折しもNHKで放映されたフランス発の犯罪ミステリ『アストリッドとラファエル』のシーズン1が終わったところだった。全10話を見て仏ミステリというのはこういうつくりとテイストなのか、と感じた。フランス語が「理性の言語」だからか、劇中登場人物から、欧州の歴史と文化を感じさせるような知識・言葉が自然と出てくる(中でも二コラ警部がその中心)一方で、米国文化への対抗的な扱い(自閉症アスペルガー症候群のアストリッドを主人公にするところはTVドラマ『名探偵モンク』、映画『マーキュリー・ライジング』だし、『レインマン』になぞらえもする)も垣間見える。犯罪捜査をパズルに見立てて、ピースをひとつずつ積み上げ解いていき、毎回予想出来ないような結末が特徴となっているのだが、本書も同じような展開だ。
大学の精神医学講座のケース・スタディという形で事件の概要が述べられていく。主人公と思しきサンドリーヌが、亡くなった祖母の遺品整理のため、ノルマンディー沖の孤島を訪ねるところから始まる。いわくありげなその島には、年老いた四人の島民が暮らしていた。彼らは島に秘密があることをにおわせる。だが、正体不明の何か、ゲーテの詩の「魔王」に擬せられる、に怯えているようで、決して島の秘密を明かそうとしない。1949年と1986年の時空を跨いで謎めいた物語が断片的に展開する。ナチス的テーマ「生命の泉」も登場し、ホラー的要素もある。
ところが次の章では、1986年血塗れの服を着たサンドリーヌが保護され、いきなり殺人事件の様相を呈し現実的な世界へと引き戻される(仏原書の表紙は血塗られたドレスを着た女性の姿で、「死の島」ではない)。精神を病んだサンドリーヌの証言は島の経験による不可解な内容。担当刑事ダミアンと担当精神科医ヴェロニクがパズルを解く展開となる。トラウマを負った患者は、心の「避難所」(仏原書タイトルLes refuges)をつくってそこに逃避する。多くは虚構の世界で、そのおかげで患者は目を背けたいトラウマ体験から守られている。だが、現実の一部が含まれており、二人は鍵となる言葉(「道しるべ」)を探し、「パズル」を解くように捜査していく。クリストファー・ノーラン/ディカプリオの映画『インセプション』のように、深層心理の深奥に入っていくかのように物語が展開する。
そして一つの「道しるべ」から殺人事件に結びつき、新たなサンドリーヌの証言を得て彼女の経験が明かされるのだが、それも実は新たな「避難所」で嘘だったのだ。それでもダミアンは「道しるべ」を探し、ついに真相にたどり着いて事件は解決…と思いきや、これらの講義内容は全て嘘という展開。これでは物語は終われない。パズルを解く最後のピースが示され驚愕の結末となる…。そのピースは残酷な「現実」であった。まるで精神医学の講義のようなミステリである。