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本当のホントに「除染」しなくちゃいけないのは??
2020/04/23 15:23
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オカメ八目 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本当のホントに「除染」しなきゃいけないのは、撒き散らされた放射性物質か? それとも、それを、取り除くための「カネ」に群がるニンゲンどもか????ーーーーもし、その放射能に、色々な意味で「やられた」人間たちを、仮に「助ける」としたら、一体、誰を「助け」りゃいいのか?!ーーーー本書の底流に流れる「怒り」と、悲しみと、底無しのクヤシさ。 実際に、このまんまの話は無いとしても、「除染作業」と言う、上はカネ。下は汚れ作業と言う、どの道「キタナイ」仕事(失礼!)を体験し、そして、そこから脱した、著者氏でならではの力作。
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苦しい小説だった。
いろいろなものにがんじがらめにされて、息苦しかった。
でも、最後、主人公の怒りに満ちた思いが噴出したとき、涙が出た。
心の中で拍手喝采した。
読んで良かった。
薄い文庫1冊だけど、濃密な読書時間だった。
たくさんのことを学んだし、私には起こりえない人生を疑似体験できた。
これぞ読書の醍醐味。
この赤松利市さんという作家のことを知ったのは、今月号(2019年4月号)の『ダ・ヴィンチ』の、『らんちう』という新刊についてのインタビュー記事。
「住所不定・無職」で、〈会社経営者からホームレスまで経験した〉人が、「私の63年を舐めるなよ」と語るのを読み、ぜひともこの人の話を聞いてみたい、この人の書いたものを読んでみたい、いや、読まなくては、と思った。
読んでみて、改めて、この作品がデビュー作であることに驚く。
東日本大震災を題材にした作品はあまたあれど、赤松さんは実際に除染作業員を経験した人なので、ただ取材して書いたのとは違う、それぞれの立場にいる人たちの心の叫びが、生々しく伝わってくる。
だからこそ読んでいて苦しくなるのだ。
私はこれからもこの人の話を聞いていきます。
赤松さんが大藪春彦新人賞を受賞し、こうして作品を読ませていただけるようになったことに感謝します。
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第一回大藪春彦新人賞受賞作。
木島雄介は飲み屋街にあるパチンコ店の店長。
東日本大震災、50キロと離れていない福島第一原発で爆発が発生する。
何故か雄介は愉快な気持ちになっていた。
何かが変わる。変わらざるを得ない。
そんな中、高校時代の同級生、純也から除染作業の仕事を持ちかけられる。
その月給は約50万。
常軌を逸した金額に戸惑いながらも、予想通り変わっていく。
「除染現場のすぐ近くに、あんな清流があることなど、こいつは知らない。
ましてやそこに棲むヤマメのことも、藻屑蟹のことも知らないだろう。
知られないまま、汚染されていると忌避されて、やがて忘れられてしまうのだ。
ヤマメや藻屑蟹だけではない。
こいつらにとって、原発避難民の孤独も、それを受け入れた住民の傷も、
もちろん俺の苦しみも、原発事故の収束という大事の前では、道端に転がる
小石ほどの重みもないのだ。」
人間は動物である。
だから本能で生きている。
他の動物と違うのはそれを抑える理性。
本能と理性の狭間で、雄介の激しく揺れ動く心が描かれている。
軽い気持ちで読んではいけない。
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時たま、期せずしてホンモノにぶち当たることがある。
読んでいて、久しぶりにその感覚を思い出した。
これは、ホンモノだ。
序章にて、福島第一原発が爆発する様子を見ながら「ザマアミロ」と呟く、福島県のとある市のパチンコ店店長の木島雄介が原発処理をめぐるカネに翻弄される姿を描く。
「町に流れ込んできたのは、復興目当ての土木作業員だった。
次に流れ込んできたのが除染作業員だった。
そして、除染作業員以上に俺らの神経を逆なでしたのが、原発避難民だった」
原発事故から六年後、除染作業の元締めをしている高校の同級生からの誘いで除染作業員になることを決意した。
しかし、依頼されたのは、とある作業員の始末をどうにかしてほしいというものだった。
その作業員、高橋は、除染作業中に不注意で高濃度放射線を浴びてしまったが、そのことを隠蔽する意思を持っていた。
木島は、高橋の焼身自殺を手伝い、ガソリンをかぶった高橋に火をつけた。
その翌日、高橋の死体はゴミ置き場から発見され、自身のタバコの不始末の結果の事故として処理されることになった。
そして、木島には330万円の月給が入り始める。
誰もが触れてこなかったタブーに触れている。
「原発乞食」と書ききっていることは、明らかに物議を醸す。
そのことを分かっていながら、あえて書ききっている。
著者のプロフィールは1956年香川県出身、除染作業員という情報しか分からない。
そして、あとがきには路上生活を繰り返し、ネットカフェで小説を書ききったとある。
久々にホンモノを見た。
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東日本大震災から8年が経ち、人々の意識からもあの大惨事の記憶が薄らいでいると思う。当時の日本を覆い尽くす暗い雰囲気を忘れたい気持ちは自然な事ではあるが、今も先の見えない福島原発の廃炉作業が続いており、震災のダメージから回復が出来ていない人もいる事は心に留めておかなければならない。
震災後の各補償問題について当時、色々な情報が流れていた事を思い出した。最終的には補償イコール金銭となるが、実際の金額と向き合うと人の別の面が表れてくる。
高額な補償金額、より多くの補償を望む気持ち、その補償を受け取る人々への嫉み、被害者意識などが交差してより嫌な雰囲気になったと思う。
この作品はストーリーの展開の中で当時の人々の気持ちを描いている。重く考えさせられる作品だと思う。
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東北で大震災、津波が起こり、原発が爆発した。その光景をテレビで見ていたパチンコ店の店長、木島は世の中が変わると思った。彼はその変化に期待し、愉快な感情さえこみ上げた。
そして、数年後、彼に訪れた大きな変化。彼は崩壊した原発の利権に携わることになり、大金も手に入れた。身近な人が亡くなることもあった。自分じゃ理解できない事件にも巻き込まれた。
変わったのは木島だけじゃない。避難民たちは賠償金額の大小に嫉妬し、一喜一憂する。「立入制限区域に住んでて良かったね」、「他の地震の被害者じゃなくて良かったね」、「家族が死んで良かったね」。陰ではそんな言葉さえも飛び交う。
タブーとも言える原発避難民の格差や闇、批判を正面から描かれた作品だが、原発事故をカネのために利用することに躊躇する主人公が存在することで、バランスが保たれ、エンターテイメントとして成立している。
「原発乞食」という言葉が強烈な印象を残す。
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原発事故、震災を経た人々の情と利の物語。
利が生む安定と分断。情が手引きする救いと成し得ない理想。この狭間で揺れ動くハードボイルドなストーリーラインと文字通り「救いようがない」エンディングにニューシネマ的なロマンと切実なリアルを感じた。神代辰巳に映画化して欲しい。
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人間とはまったく厄介な生き物だ。本書を読んでつくづくそう思った。
「一号機が爆発した。セシウムを大量に含んだ白煙が、巨象に似た塊になって、ゆっくりと地を這った」
本書の書き出しであるが、読み終えた後、あらためてここを読んでみると、著者の物語を紡ぐ巧みさにあらためて気づかされる。
2011年、起こるべくして起こった原発の爆発は、原爆のときのような即死者こそ出さなかったものの、人々の日常を大きく変えていった。本書は、爆発によって産み出されたもやもやとしたものによって、いつしか人生を変えられていく人々の様子を、高いところで浮いている権力者でなく、地面の上で生きている普通の人々に焦点を当てて描いた小説である。故郷を奪われた人、降って湧いた補償金で高額な買い物をする人、それを嫉妬する人、身近な人の死と引き換えに金を受け取ったという罪悪感に苛まれる人、不幸な人災を商売の好機としか見ない人、そして、自分の信ずるものを変えまいとする者は、どのような道を選んだか。かろうじて平穏に保たれていた日常が破壊された結果、見えないところに仕舞われていた人の様々な本性が露わになっていく様子を、著者は淡々と描いている。
釣りをする場面がある。釣ったヤマメを捌き、はらわたを川に投げると、藻屑蟹がそれをハサミで掴む。その蟹も人にとっては、旬が来れば食されるべき存在である、或いは、あった。再び、印象的な文を引用する。
「釣り場の近くに、夥しい量の、蕗の薹や土筆が、生えていた。汚染され、誰にも見向きもされず、生えていた」
本書執筆当時、作者の住所は「路上」であり、書く場所は漫画喫茶だったと、あとがきにある。本書は(私の嫌いな)「感涙必至」という言葉で形容される物語では全くない。文学部は要らないなど公然と言い放つ者には、本書は向かないだろうが、私は本書を強く薦める。
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初赤松。原発事故を題材にした人間ドラマ。すべてが真実なんじゃなかろうかと、感じる程の力強い作品。確かに批判もあるだろうが、私は推したい!星五つ。
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原発事故が残した様々な問題が書かれている。エンタメとしても面白い。主人公がミイラ取りがミイラになるんではないかと思っていたけどそうではなかった。ラストシーンは、まだ続きがあるのかとページをめくって確かめた。なんとも言えないラストシーンで、どう受け取るべきなのか考えた。
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2019年、26冊目は、新設の大藪春彦新人賞受賞作。先週までの不調がなかったかのような、一息、一気読み。
東日本大震災、福島の原発事故。その様子をテレビで見ていた木島雄介は、「何かが変わる」と感じていた。震災から六年が経ち、木島はパチンコ屋の雇われ店長ではあるものの、将来の見通しもないまま、仕事に忙殺されるような日々を繰り返すだけだった。そこに、高校時代の友人から、東相馬市の除染作業員となる誘いが舞い込む。
「一号機が爆発した。」という書き出しから始まる物語。ノッケから、なかなか衝撃的だ。
地方の閉塞感に苛まれる青年、木島が、除染作業の裏側に見たモノ。物事の表と裏。隠蔽、癒着、そこで動く金
250p級、わずか数ヶ月の出来事ながら、なかなかドライブ感がある。そして、被災地は福島だけではなかった。被災者にも、表と裏があった。
ラストは、心がガッサガサなオッサンにも、グッと来た。
★★★★☆評価文句なし。しかも、久々、他人に、充分ススめられるレベル&中身。
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除染作業員をやっていた経験を活かしての描写かと。。フィクションではあるが、この物語の中の事が本当にあったら、被災者、被災地に関わる人は、かわいそうだ。
上級国民との言葉があるが、一番底辺で暮らしている人の弱さや憤りを描いている。
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主人公が見せる矜持は果てしない欲の裏返しでもあり、単純に被害者加害者が割り切れない、人の性を鮮やかに描き出す
都合よく話が展開しすぎなきらいはあるけど、だからこそ表と裏を同時に覗き込んだような読後感を短い小説で感じることができると思う
原発という重たいテーマを文学にまで昇華させた見事な小説と思う
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『3.11』から6年後の福島。パチンコ店店長として、なんの希望もなく細々と暮らしていた木島は、原発の保守点検を請け負う会社で成功を収めている友人・純也に誘われ、高額な報酬を手にするが…。原発の事故で生活を奪われた人々、原発に関わるあらゆる企業、除染作業員を狂わせる何十、何百、何千、何億という金、金、金。そのドス黒い渦の中に木島も取り込まれていく。これは現実に起こっている事なのか?実際に除染作業にも携わった、住所不定無職の62歳の作者が漫画喫茶で書いたという本作、強烈としか言いようがない。
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1月-6。3.0点。
震災後の福島原発。近隣でパチンコ店長の主人公。
幼馴染みに誘われ、原発関連の仕事を始めようとする。
この作家らしい、転落もの。
デビュー作だけあって、ライトな感じ。