紙の本
表題作と「帰還兵」が秀逸
2016/08/11 15:07
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
カレン・ラッセルさんの2作目の短編集です。
どの作品も、ジャンルの枠にとらわれない独創的なコンセプトと書き味です。「レモン畑の吸血鬼」は設定はコメディタッチなのに終始哀愁を感じさせる雰囲気があってしみじみと読ませる文章でした。その他にも、明治時代の日本の紡績工場から着想を得た「お国のための糸繰り」は耽美的なホラー要素があり、「ダグバート・シャックルトンの南極観戦注意事項」は食物連鎖の哀愁をかき消すようなコメディ作品です。
個人的に最も好きな作品は、マッサージ師と帰還した若い兵士の不器用な心の交わりを描いた「帰還兵」です。他の作品に比べると、ややファンタジー性が薄くドキュメンタリーな一面すら感じさせますが一番引き込まれました。トム・ジョーンズの「拳闘士の休息」に似た雰囲気を感じました。
癖のある作品が多いですが、日本人作家には出せない海外文学らしい自由さを感じました。
紙の本
おもしろいなぁ
2019/03/21 10:02
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:おどおどさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
吸血鬼の夫婦にも倦怠期がある・・という発想が面白い!!
2作目の短編集ということなので、是非「初の短編集」の方も読んでみたい。
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細かい事を気にしないで読める方にはオススメ
2020/10/30 02:03
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Renne - この投稿者のレビュー一覧を見る
表題作の「レモン畑の吸血鬼」はとても素敵な話でした。
‥‥‥が、続く「お国のための糸繰り」で山形県最上郡の鮭川村が''海辺の村''と書いてあったのが気になってしまい、妙な引っ掛かりを覚えました。(実際は新庄市の隣ですから内陸の土地です)
これも話自体は素敵で奇妙な独特の着想が光る作品だとは思いましたが、入念にリサーチしたというなら土地の位置まで調べてほしかったかなぁ、というのが正直な感想です。(海外の方にそこまで求めるのは酷かもしれませんが)
3本目の「一九七九年、カモメ軍団、ストロング・ビーチを襲う」''プルメ『ニ』アの茂み''と記載してあった事で脱力してしまい、「証明」以降を読むのは諦めました。
翻訳をしている方が植物に詳しくなかったのかもしれませんが、だとしても訳文のチェックをする方なども指摘しなかったのでしょうか?
(プルメリアの綴りはPulumeriaなので、rとnを見間違えたのかなぁ、とも思ったのですが、普段英訳をされている方ですよね‥‥‥? このようなミスは起こりえるのでしょうか)
期待していた本だっただけに、できれば文章の細かい点を気にせずに読みたかったです。
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カレン・ラッセルの第2短編集。
前作『狼少女たちの聖ルーシー寮』同様、奇想天外というか、ぶっ飛んでいるというか、とにかく、ラッセルの短編は基本的に『変』(※褒め言葉)だ。その『変』なところに無性に惹かれる。一見すると収録されている短編の作風はまるで異なっているようにも読めるが、その中にも、一本筋が通っていて、『カレン・ラッセル』としか言えない味があるところが好きなのかもしれない。
表題作『レモン畑の吸血鬼』の、一般的な『吸血鬼』のイメージとレモン畑の対比に、梶井基次郎の『檸檬』で、洋書の上に置かれた檸檬の鮮やかさを思い出した。
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アメリカの作家カレン・ラッセル、2013年発表の短編集。奇想幻想の作家。特異な着想を得る優れた想像力と、それを確かな物語りに結実させる卓越した筆力を感じますが、私はあまり面白みを感じませんでした。堅実すぎて飛翔する力に欠ける、ような。残念。
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ものごとを善悪で捉えようとするのは人の性だろう。それが善悪というよりも彼我の差であることを往々にして意識しないままに。それ故、こんな風にして自分とは異なるものだと思い込んでいたものが自分と似ていることを思い知らされると、まずは拒絶する気持ちが湧く。そして徐々に受け入れざるを得なくなる。
吸血鬼が血を啜ることの代わりに新鮮な檸檬に齧じりつく。それも妻である若い、と言っても幾世紀も生きる吸血鬼にとっての比較の問題だが、吸血鬼に古臭いと言われたから。なるほど、この作家のしなやかな発想は彼我の差を易々と超越する力だ。世の中が矢鱈ときな臭い今、本当に必要なのはこのしなやかさだろう、などと小説とは全く関係の無いことを漠然と考えたりする。
とは言え、爽やかな異質の香りのする作品は檸檬の心象を巧みに使ったこの作品くらいで、後は少々無機質の感触がする作品が多い。無機質の感触というものの本質はステンレスの鈍い光沢にあり、それが呼び起こす人の肌の内側にあるものが無防備に晒されるという連想による恐怖に繋がるもの。そしてイオン化傾向の差から味わうことになる何とも嫌な金属の味。それらが纏まって襲いかかってくるという意味だ。そうかと思えばSF的な味わいが、無機質なものと有機質の生身の体の差を自然と曖昧にする作品もある。肉体が未知のものに支配され本来の機能から逸脱し始める。それを無機質と呼ぶのは言葉の定義の問題に踏み込むことになるが、そこで動き回るものがたとえ有機物から構成されていたとしても、無機質な物体の動きを連想させるものを容易にはこちら岸のものとしては受け入れられない。しかし認めざるを得ないもどかしさ。
カレン・ラッセルの作品に対して幻想と現実の境を飛躍するとする評はそんなところにに由来するものなのかも知れないが、幻想と思い込んでいるものの正体は案外直ぐ近くの現実にあったりすることに注意した方がよい。そうしないと何時の間にか案山子の反撃を喰らうことになる。
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読み終わってぱっと思い付いたのが通過儀礼という言葉。他サイト短編集レビューを見ると同じことを思った方がいたようで、全作品に共通らしい。その(通過儀礼における)不安定さが癖になってくる。ちょっと他の奇妙譚から浮いている「一九七九年、カモメ軍団、ストロングビーチを襲う」の家庭環境によって左右される青春がとても痛ましい。他では亡くなった大統領が馬に転生!?という「任期終わりの厩」、弱小スポーツチームへの愛情が微笑ましい「ダグバート・シャックルトンの南極観戦注意事項」の馬鹿馬鹿しさ擦れ擦れな所も面白い。マッサージでPTSDを抱えた帰還兵を治療する「帰還兵」は語り手の不安定さとラストの曖昧さがじわじわと心に沁み込んで来るし、癲癇を抱えた少年について苦く回想する「エリック・ミューティスの墓なし人形」はいとも簡単に人のことを忘れてしまうやるせなさが残る。このように、馬鹿馬鹿しさから物悲しさまで幅広く網羅された短編集。
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初カレン・ラッセルでした。最初は詩を読んでいるかのような文体に中々入り込めず、若干苦戦気味でしたが、読み進めるにつれ、一つ一つのお話がじわじわと余韻を引きずり、「帰還兵」ではまんまとすっかりはまってしまっておりました。なんともトワイライトゾーンな気分に浸れる新しい幻想文学だと思います。全く関係ないですが、「帰還兵」の刺青話つながりで、レイ・ブラッドベリの「刺青の男」を再読したくなりました。
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短編集8編
どの物語も風変わりで,存在というものにこだわっている.「お国のための糸繰り」の不気味さは背筋を何かが這い上ってくるようだった.
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1週間くらいかけて読む予定が、おもしろくて1日でイッキ読みしてしまった。
私の中では、小説には二種類あって、描写をうっとりと堪能するものと、「この先これからどうなっちゃうの?」と筋を夢中で追うもの、の2つに分かれるんですが、この人の小説は両方の意味で楽しめました。この先、どうなっちゃうの?と思いながらも、描写にうっとり。こんな風に両方向に楽しめる作家ってなかなか少ないです。
収録されているどの作品も、設定が奇想天外で印象的でしたが、強いて言うなら、「帰還兵」が一番好きです。
でも、「エリック・ミューティスの墓なし人形」も捨てがたいです。描かれている哀しみと切なさと渇望みたいなものが、まるで自分の未熟さをつきつけられたみたいにリアルに感じられて、胸をえぐられるようでした。
訳者の「あとがき」も良かったです! 著者のインタビューでの受け答えなどについて触れられていて、ラッセルが「本物のヒキガエルの棲む架空の庭」という引用をしたというあたり、非常に興味深かったです。
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★想像力と緻密さのありえない融合★100年を超え世界をめぐる吸血鬼の愛情、女工哀史を思わせる繭になった日本の女、米国西部の開拓と土地への奇妙な信仰、馬に転生した米大統領、動く刺青と込められた意味の転換、苛めていた同級生と同じ顔のカカシ。発想がとんでもないし、それを支える周辺の知識が具体的で細かい。その上で永遠の愛の行方や虐げられた女性の自立、時空を超えた存在の意義といったテーマが染み込んでくる。
小説でしか表せない、まさに小説の世界。読むのは簡単ではなく歯ごたえはあるが、この数年の小説では最高だった。海外の小説はあまり読まないが、やはりすごい。訳もおそらくいいのだろうし、訳者のあとがきも愛にあふれている。
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素晴らしい傑作です!ノスタルジーな雰囲気の中にレモンの爽やかな香りがほとばしる……そんな作品集です。
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2017年に途中で放り出した本をがんばって読了。
アイデアはかなりすごい。日本のライトノベルなら
ありそうななさそうな設定…を力技で昇華している、
というイメージ。
「お国のための糸繰り」「任期終わりの厩」
「帰還兵」が良かったです。
大統領が馬に転生する、というのは日本の
総理でもぜひ誰かに書いてもらいたい設定です。
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「帰還兵」「エリック・ミューティスの墓なし人形」がお気に入り。「お国のための糸繰り」「任期終わりの廐」は変わったメタモルフォーゼもの。好き嫌いの分かれる作家だな。
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物語の、そして言葉のはしばしから聞こえてくる叫び――「逃げたい」。逃げたい。終の棲み処であるレモン畑から。馬となった自分自身から。友の死を刻むタトゥーから。受け入れられない現実から。
その「逃げたい」を、彼らは様々な方法で実行に移そうとする。女工らは羽化を企んだ。少年は窓を抱き走った。もうひとりの少年は、兄の恋人とセックスをした。
興味深いのは、逃亡、そのすべてが、成功したか否か注意深くぼかされているところだ。それでいいと思った。むしろそうでなくちゃ、と感じた。わたし達だってそうなのだ。体がそこにあっても、こころは離れられるのだから。
「逃げる」を思い描く瞬間だけは。