0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ものすごい物語。
人の業の向こう側を見たような気がする。
主人公は実在した役者ではあるけれど、
現代にほとんど資料の残っていない“市川三すじ”
江戸から明治への擾乱の時代を生きた“悲劇の役者”
澤村田之助を描き出していく。
「狂」の周囲を彩る人間模様。
作家・皆川博子の真髄が詰まった作品。
投稿元:
レビューを見る
澤村田之助、という名を、寡聞にしてこの作品ではじめて知った。歌舞伎も、日本文化のひとつとしての興味こそあれ、見に行ったことさえまだない。当然、世界として体験することもはじめてで、慣れない雰囲気にしばらくは戸惑った。
しかし、物語を通して垣間見せてもらった世界には、見るものを引き摺り込む凄みがあり、また、巨大なエネルギーが渦を巻いていた。数々の御題目への自主的恭順を経て「きれい」になってしまった現代では感じにくくなっているものだと思う。ナマの感情、熱、冷徹、喧騒、におい……皆川作品ではそうした「生きている」人間が、完成された物語の奥でたしかに息づいている。右へ倣えに変化していくことのできる「社会慣れ」したひとびとへの戸惑いや抵抗の気持ちを抱きながら。……というのは安直すぎる感想だろうか?
投稿元:
レビューを見る
三代目澤村田之助を主人公にした時代小説。
中公文庫、集英社文庫と2度に渡り文庫化されているが(単行本は中央公論社刊)、暫く品切れ状態だったようで、このたび、河出文庫から復刊された。
手元にあるのは確か中公文庫版だったと思うのだが、初めて読んだ時と同様、読んでいると田之助を始めとする登場人物の『業』にぞくぞくする。視点が付き人というのもいい。
カバーの絵は随分とモダンになったが、これはこれで好きだ。
投稿元:
レビューを見る
美貌、才能に溢れ天真爛漫、高慢で妖しげな
天才女形が不幸な病により腐敗し堕ちていく様と
華やかで耽美な一面と裏腹に蔑まれていた歌舞伎役者が
時代の流れとともに芸術に高めていくハザマ
現実と虚構、その虚構を現実に寄せていくハザマが
冷めた目を持ち、愛と裏に隠れる憎しみとを抱いた
三すじの眼から、淡々と、時に燃えるような感情で
かたられる。
美しいものの一歩先、その裏に潜む危うさや、
醜さのきわどさ、はかなさと爛熟
表にあらわす美とそれを形作る裏腹なもの
形式・様式ではない美、人が知らず知らず
ひきつけられてしまう美を感じる。
投稿元:
レビューを見る
初読。読んだことのない作家さんの読んだことない本を買うこと自体が稀なのだが、澤村田之助を描いた本ということで買いたくなった。足を切る前まではまあまあありがちな役者のエゴというところだったが、足を切った後からは一気に凄みが増す。すさまじいまでの役者への執着が見苦しくなることなく、哀しいまでに美しい。華やかな伝統文化の歌舞伎をさかのぼると、役者が蔑まれたこんな時代があったんだなあ。
投稿元:
レビューを見る
幕末から明治にかけて、壊疽で四肢を切断しながらも芸に執念を燃やした女形・澤村田之助を付き人視点で描いたもの。こんな壮絶な歌舞伎役者が実在していたとは知りませんでした。尊王攘夷、大政奉還で世間が騒がしいはずですが、そんな事はほとんど触れられていないので、芸事の世界の特殊性と脇目も振らず芸一本が浮き彫りにされて感じられました。付き人〝三すじ”は明治に入ってからの歌舞伎のありようを嘆いていましたが、以前は馬鹿にされた低い身分も、今となっては一目置かれる芸術集団となった今の歌舞伎界をどう見るでしょうか。
投稿元:
レビューを見る
絢爛と酸鼻。
この両極端をここまで描出できる作家。見事としか言いようがない。
豪華な錦糸を縦横に編み込んだような文章からは、腐臭すら漂う。
実在した歌舞伎役者澤村田之助の存在感の、なんと艶やかで無残なこと。
傲慢で鼻持ちならない言動ながら、まさに「役者」の業を煮出して全身に染め抜いた、天賦の才。
田之助はその美貌すら、狂って感じられる。
三すじの、淡々としながら、けれどほのかに覗く残酷がなんともリアル。
全編に漂う淫猥さが、あまりに惨い田之助の悲劇すら彩ってしまう。
この激しい生き様そのものが、豪華な芝居だったのではないか……
夜明けに見た悪い夢のよう。美しい。
投稿元:
レビューを見る
幕末から明治にかけての歌舞伎界.三代目澤村田之助の壮絶な演じることへの妄執を三すじの目をとうして物語る.愛憎半ばする気持ちを芳年に訴えるところが哀れでもあり,そこまで拘れる人に出会えたことは幸せでもあるのだろう.美しさとは何かという事をとことん突き詰めた芸,この何かに魅入られた世界,怖いようである.
投稿元:
レビューを見る
歌舞伎というあんまり馴染みのないモチーフのせいか、ちょっと硬めの文章のせいかなかなか入ってこず……。
読み終えるのに時間ばっかりかかってあんまり内容理解できんかったな。
全体的に淡々としてるからか。うーむ。
四肢を失ってもなお舞台に立つことをやめない田之助の執念が怖くもあり、変容していく芸の形が美しく咲き誇り、やがて腐乱していく様が物悲しくもあった。
投稿元:
レビューを見る
実在の人物、歌舞伎役者の澤村田之助を描いた作品。美貌の天才女形が壊疽により四肢を切断し尚、舞台に立ち続け、狂死する、という実話がベース。
四肢を切断しても田之助の歌舞伎にかける情熱がいささかも衰えず、あらん限りの知恵と工夫を重ねて舞台に立ち続ける様子に驚愕した。これだけの才能がありながら、さぞ無念だったことだろう…。
序章を読んで、どんな恐ろしい事になるのかと読み終えるのが怖かったが、さすが皆川先生、きれいに終わらせてくれた。ホッとした~。
投稿元:
レビューを見る
四肢を失いながらも舞台に立ち続けたという、三代目澤村田之助。
幕末から明治にかけて生きたその俳優の存在を、不勉強ながら初めて知った。
実在の人物でありながら、その生き様があまりにドラマティック過ぎて、ともすれば描写が陳腐になりがちな題材だと思うが、皆川博子氏の筆さばきにそのような心配は無用で、本当に田之助や三すじ、権之助たちが自分の身近にいるかのように、この上なくリアルに感じられる。
幼少時より妖しさを以て放たれる艶やかな美貌、傑出した芸を持ちながらもどこか一部が欠落し傲岸不遜な人格、病を患い周囲の空気が徐々に変貌していくにつれて崩れ始める心身の均衡…。
それを傍で冷徹とも言える眼差しで見つめ、支え続けた三すじの存在。
さらには、他の高名な大立者たちや大部屋俳優らが息づく、芝居小屋の糜爛した熱気。
すべてが生き生きと、確かな実在感を持って迫りくる。
それと同時に、すべてが幻、虚無なのではないか、という相反する感覚を強迫観念のように捻じ込んでくるところもまた皆川節であり、人という生き物の業を上手く描き切っていると思う。
時代が下った場面をプロローグとエピローグに配し、本筋を挟み込む入れ子構造は言うなればありがちな構成ではあるが、それがここまで効果を発揮することは少ないのではないだろうか。
終章に入り、結びに向けて急速に高まる緊張感は尋常ではない。
これぞ小説家の技術の粋というものか。
投稿元:
レビューを見る
以前、恋紅を読んだ時に出てきた澤村田之助。「次はあれをやろうこれをやろう」と舞台について話す様子を読みながら、芝居馬鹿はいつの時代も変わらない馬鹿なのだなと思ったりした。全盛期の田之助は傲慢で、子供で、さっぱり惹かれないけれど、心まで腐らせてしまった、最期の田之助は何とも魅力的だと感じた。
投稿元:
レビューを見る
実在の名女形、三代目澤村田之助。脱疽で四肢を失いながらも舞台に立ち続けた彼の生きざまが、幼少期から見つめ、のちには弟子として傍らから離れなかった三すじの視点で語られます。文字の間に芝居の艶やかな仕草がひらりひらりと見えてくる言葉の選びの見事なこと。一緒に舞台を楽しみながら三すじとなって田之助に寄り添い、後半は一緒に痛みを感じながら壮絶な人生を見届けました。一見必要のなさそうなプロローグとエピローグが読後とても響いてきて、皆川さんらしくてとても好きです。まさしく花と闇、皆川さんだからこその一冊だと思います。
投稿元:
レビューを見る
3,4年前に隙間時間に読もうと思って買っていたけど挫折してた本。
最近ドラマの仁を見直してて、澤村田之助…?どっかで聞いたぞ…?花闇じゃん!?となり、即再チャレンジすることに。
いやー面白かった〜!
挫折してたのが意味わからないくらい面白かった〜!
本当私隙間時間に読むの向いてない。
没入しちゃうから一気見しかできない。
幕末〜明治に実在した歌舞伎役者で、女形だった3代目澤村田之助の生涯を描いた本。その影として、世話をこなす自身も女形の市川三すじが主人公。
舞台上の怪我が原因で四肢を失いながらも舞台に立ち続けた田之助の激動の人生が三すじ目線で描かれているのだけど、この三すじもなかなかに拗らせている。
そのこじらせ目線で感情剥き出しに描かれているので、生々しいにも程がある。
三すじは田之助を尊敬し、愛し(色んな意味で。)、彼のために尽くす一方、妬み、憎しみといった暗い感情も持つ。だから、ある場面では田之助を敬愛しながら、別の場面では田之助の不運に対し「ざまみろ」と思うこともある。
読者にとっての語り部たる三すじの田之助に抱く感情がこんな感じでユラユラしているのが面白くてたまらない。
登場人物に月岡芳年もいる。以前、友人から月岡芳年の描く赤色はすごい、と教わったことがあって、それ以来作者を知らない状態で作品を見ても、芳年の作品だとわかるようになった。
芳年の赤がなぜあんなに美しいのか、花闇で答え合わせをできた気がする。(たとえ創作であっても、花闇の芳年の描写と美しい赤の理由は私的にかなりふに落ちた)
皆川博子先生、美しい表現だけじゃなくて、歌舞伎を知らない私でもめちゃくちゃ楽しめたので、いろんな作品読んでいこうと思う!
投稿元:
レビューを見る
皆川博子先生の性癖どストライクなんだろうな、三代目澤村田之助…。
実在の人物の一代記、というていだからか全速前進な皆川節でないように感じた。
いや、時代小説で初期長編小説だからかもだけども。