イシカミハサミさんのレビュー一覧
投稿者:イシカミハサミ
紙の本自転しながら公転する
2023/01/15 02:25
非言語言語
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
現状が幸せと言えるわけじゃない。
でも胸を張って不幸と言い張るほどの材料なんてない。
多くの人がかかえていそうな、
言葉になって出てこない不安がそのまま文字になって、
物語になったような作品。
だれもが「転んでんじゃねえ」と言ってくれる人を
どこかで必要としてるんじゃないだろうか。
「私が巡り合ったのはこの人だ」
誰しもちゃんと等身大な出会いはあるものだと思う。
でも他人のものと較べたりして幸福を目減りさせたりしてしまうんだろう。
紙の本52ヘルツのクジラたち
2023/07/31 01:07
雁字搦めのひとたち
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人は生きているといろいろな代名詞に置き換わっていく。
産まれたときは「赤ちゃん」
育って「子ども」
「中学生」「思春期」「母」「課長」
それぞれに世間の思う“らしさ”があって、
それぞれに自身の思う“りそう”があるのかもしれない。
この作品に出てくるひとたちは皆、なにかの代名詞に囚われているように見える。
いちど全てを脱ぎ捨ててぶつからないと見えてこないものが絶対ある。
誰の味方にもなれないけれど、
誰もを応援してしまうような作品でした。
紙の本線は、僕を描く
2021/12/02 00:57
僕は、線を書く
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
生きること。
生きていること。
Live(リブ)でありLive(ライブ)。
作中でも重要な位置を占める揮毫会。
水墨画の神髄は絵そのものよりも、
描かれていく一筆一筆に宿る。
しいて好みでなかった部分を挙げるなら、
主人公も師匠も内面世界が白黒だったような描写になっていること。
白黒で描くからこそ、
水墨画はどの絵画よりも色彩を持つのだと思う。
物も色も豊富な現代にこそ、
明度だけの彩りが映える。
墨を磨る時間の静謐はとても好き。
紙の本福袋
2019/09/06 00:58
至玉の読書空間
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
朝井まかて初の短編集。
ホントにお初??という完成度。
特に表題作「福袋」は
朝井リョウの「何者」にも通じるような、
読後の爽快感がたまらない。
すべての掌編が
長編並みの密度を持った短編集。
紙の本落陽
2019/06/09 00:20
タイトルから
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「屋根をかける人」に続いて、
こちらも改元のタイミングを意識して文庫化されたと思われる作品。
「明治は大正になって完成した」
どちらかというと内乱や戦争など、
荒れたイメージのある明治・昭和の間の
たった15年間でありながら、
厳然とした存在感のある大正時代。
その民主化の流れを育んでいったのが、
明治という時代であり、君主だったのだろうなと思う。
紙の本犬のかたちをしているもの
2022/10/17 01:19
自然と正しさ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
女性が子供を産むのは自然なこと。
だけれど、産まないことが悪いわけではない。
産んだ女性が産まれた子供を育てるのは自然なこと。
だけれど、育てないこと自体が悪になるわけではない。
ただ「不自然」な状態を悪と断じる風潮は確実にあるわけで、
それと向き合う覚悟のようなものは確かに必要になる。
選択肢が増える現代で、
しかしそれを選ぶ自由が増えたわけではない現代。
目の前に思いもしなかった選択肢が現れたときに、
また価値観というのは揺さぶられる。
紙の本生命式
2022/07/06 00:42
裏側
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
逆張り短編集。
あるいは裏返しの。
もちろん村田作品なので、
ただの逆張りだけで終わるわけはない。
個人的ないちばんは「素晴らしい食卓」
普通と常識と、といったキーワードが
ずっと村田作品の核だと思うのだけれど、
理解しやすい形に整えられていた。
何かを取り込むモチーフが多くて、
一枚めくってみたところに真実が、
というようなイメージかな、とは思うけれど、
「真実」という言葉が真実から一番遠いような気がして
言葉は難しいというか小説家ってすごい。
紙の本草々不一
2021/10/29 00:49
名手
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
最近のまかてさんは長編はチャレンジフルな作品が多くて、
エンタメとしての面白さは短編集なので、
待っていた短編集作品。
「行ってらっしゃい、お前さん」「手前も向後は、運を鍛錬いたします」「私はただ、殿と毎日、お話がしたかっただけにござりまする」「飯にしましょう。今日は手前が腕を揮います」「浄瑠璃も当たらなきゃ、一分が立たねえでしょう」「しかるべく」「いや、めでたい。そうか、わしにも孫ができるか」
それぞれのラストを飾る台詞が印象的。
とくに表題作、草々不一は中盤でもうやばそうな予感がしたけれど、読み終わってやっぱりやばかった。
ありがとうございました。
2020/09/18 00:08
プロローグ
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
まずはこの物語の構造を説明する1巻。
中盤くらいでだいたい想像はつくのだけれど、
エンディングの向こう側に早く行きたくなる。
ジョーカーもいるけれど、
盛り上がりを考えるとまだ登場人物は増える余地があるか。
ここからの展開にワクワクする。
千歳神は早くも作品の壁を越えました。
紙の本海の見える理髪店
2019/07/26 00:40
直木賞受賞作
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
荻原さんの作品に、
「誰にも書ける1冊の本」という作品があるけれど、
あの内容を小説として実践したような内容。
表題作はあんまり「らしく」ない、普通の(?)文。
抑えたから受賞できたん?と穿ちたくなる。
少しずつらしくなって、
荻原節ががっつり堪能できるのは「空は今日もスカイ」
文章になる日常と、文章にはならない平和な日常。
ふたつをつなぐ、日常の物語群。
紙の本薬屋のひとりごと 7
2018/03/16 22:26
白い娘の謎
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ここのところ宮中を騒がせてきた
白娘娘の件に区切りがつく。
そして、壬氏はとうとうキラーワードを放ってしまう。
8巻が楽しみである。
紙の本キャロリング
2018/01/12 12:08
文庫サイズ
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
有川さんの作品には基本悪人がいない。
日常でのボタンの掛け違いから
普段「普通な」人の小市民的な一面が見えて、
そこから亀裂が広がって……
みたいな展開が多い。
などと改めて思ってしまったのは、
今作にはさすがに悪いやっちゃなあ、な方が登場したから。
「赤木ファイナンス」の面々に関してはほぼファンタジー。
わりと有川さんの本に関しては
単行本で買ってしまうことも多いのだけれど、
今作を見送ったのはそういう意味では正解だった。
それでもさすがは有川さんで読まされる。
田所家の顛末。
大和と折原。
どれもいちばんのかたちに収束していく。
紙の本薬屋のひとりごと 14
2024/01/09 01:06
故郷
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
今回は懐かしい面々が次々出てきて
いろいろ満たされる巻だった。
1巻の構成も最初のころを思い出すような構成で、
これぞ「薬屋のひとりごと」だな、
と思える話を14巻でできる技術がすごい。
紙の本ユートロニカのこちら側
2023/07/11 00:56
隈なく隙なし
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ストーリーや構成ももちろんなんだけれど、
アメリカを舞台にして、
ジョークを散りばめながら進んでいく
1文1文が面白い。
今回(前回?)の直木賞の受賞で
名前を知るまで全くマークしていなかったのが悔やまれる。
いろいろな角度で面白く読める作品。
2023/04/19 01:45
個
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
これまでの村田さんの作品は
セカイと個、というか
“みんな”の考え方の中での自身の振る舞い方、
という視点が多かったように思うのだけれど、
今作はあくまで個が個としてどうあるか、
を掘り下げるような短編集。
どの作品も当然村田紗耶香ナイズされているのだけれど、
どれもどこか思い当たるところはあるんじゃないかと思う。
4話目の「変容」の
変わっていくのが当たり前という主張は
どこか勇気をもらえる。