紙の本
アメリカのようであってはいけない
2003/01/29 22:09
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投稿者:深爪 - この投稿者のレビュー一覧を見る
工業社会から情報・知識社会へと転換する「エポック」にうまく対応できぬまま、国家全体がじりじりと後退していくかのようなこの時代、地方分権の推進についての議論は静かに盛り上がってきています。なぜ地方分権なのでしょうか。財政学者である著者は、われわれの未来を、地域社会が人間の生活の「場」として再生することにこそ見出せるとし、その必要性を説き明かしていきます。
グローバリゼーションによって脅かされる地域社会の、ひいては国家の存亡を救う道とは? それは市場主義に基づかないヨーロッパ型(「サステイナブル・シティ=持続可能な都市」)のシナリオであるべきだと繰り返し提唱されます。はっきりいってアメリカのようであってはいけないと。
国の中央集権的政策や市場主義がなぜ限界にきているのか、そしてまたなぜ知識・情報社会への転換なのか、歴史的見地から構築された例証には説得力があります。
地域社会が地域住民のニーズに応えるがため、税制改革により権限委譲を行い、地方自治体の財政的自立を促すためのシナリオも、専門的見地からの周到な考察がなされています。
地方分権。現実的な問題はイニシアティブを握るべき地方自治体の資質というか力量でしょう。まあそのための大合併なんでしょうけど。
そして究極的にはサブタイトルにある「豊かさを問い直す」ことができるのかどうか。著者はヨーロッパ、とりわけスウェーデンの思想を範として未来像を結んでいますが、「持続可能」であるためには、この国には捨てなければならないものがあまりにも多いはずです。まあ90年代以降失われ続けたことで、われわれはそのための土壌もしっかりと造りあげたのかもしれませんが。
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均衡感覚と歴史感覚に裏打ちされた政策思考
2002/09/29 17:09
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投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ブレトン・ウッズ体制の崩壊がもたらした金融自由化、資本移動のボーダーレス化とともに経済システムのグローバル化が進展し、国境=ボーダーを管理する中央政府の所得再配分機能(福祉国家に見られる「現金」給付による社会的セーフティ・ネットの構築)が不全に陥る。これがヨーロッパを中心に80年代以降、地方分権(身近な地方政府の「現物」給付による社会的セーフティ・ネットの構築)への潮流が生まれた背景であった。
その根本にあるのが、大量生産・大量消費の工業社会から情報・知識社会への産業構造の転換であり、これを都市(地方政府)の側からみれば、生産の場としての荒廃から大地(自然環境)と文化に根ざした生活の場への再生でもって歴史のエポックに対応することである。都市の再生は、その財政的自立なくしてありえない。そして、財政とは地域社会の共同経済である。欲望の充足は市場に委ねればよいが、地域住民のニーズに応えるのは財政である。
──こうした基本認識に立って、財政学者・神野直彦が提示する「処方箋」にはとても説得力がある。農政と税制を研究すればおよそ人の世の営みは了解可能である、と誰が言ったか知らないが、本書に盛られた政策的思考は真正の「保守思想」のみが持ちうる平衡感覚と歴史感覚に裏打ちされている。
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ヨーロッパの地域社会の再生には「サスティナブル・シティ」がキーワードに進められているそうです。本当に豊かな生活とは何かということに考えさせられます。
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いわば本書は、ヨーロッパ諸国をモデルケースに、財政という切り口から地方再生を説いたものといえる。その基本哲学は安易な民営化論を一蹴する密度の濃さと理論性を備えており、学ぶべき点は非常に多いといえる。
http://d.hatena.ne.jp/hachiro86/20070509#p1
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ヨーロッパの都市をモデルとした日本の地方の活性化を目指すという視点は非常によかった。ただ具体的な方策などには言及していなかった。
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(「BOOK」データベースより)
地方自治体は膨大な財政赤字を抱え、地方の都市は均一化して特色を失い、公共事業以外に雇用がない…。地域社会は生活の場としても労働の場としても魅力を失い荒廃している。本書ではその再生に成功したヨーロッパの事例を紹介しながら、中心的な産業や重視する公共サービスなどがそれぞれ異なる、めざすべき将来像を提示する。そして日本型の生活重視スタイルを財政・政策面からどのように構築するかを提言する.。
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[ 内容 ]
地方自治体は膨大な財政赤字を抱え、地方の都市は均一化して特色を失い、公共事業以外に雇用がない…。
地域社会は生活の場としても労働の場としても魅力を失い荒廃している。
本書ではその再生に成功したヨーロッパの事例を紹介しながら、中心的な産業や重視する公共サービスなどがそれぞれ異なる、めざすべき将来像を提示する。
そして日本型の生活重視スタイルを財政・政策面からどのように構築するかを提言する。
[ 目次 ]
序章 人間生活を問い直す
第1章 工業社会の苦悩
第2章 市場社会の限界
第3章 財政の意味
第4章 日本の地域社会の崩壊
第5章 財政から再生させる地域社会
第6章 税制改革のシナリオ
第7章 知識社会に向けた地域再生
終章 地域社会は再生できるか
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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地方再生に対してヨーロッパの社会経済的手法を参考に述べられている。
これからのインフラは教育・福祉・医療が中心になっていくがそれを地方財源での公共サービスにしていく必要がある。また、高度情報化により人の移動が必要なくなるため継続的な人間関係が描かれるためコミュニティ機能はますます重要になってくるとのこと。
コミュニティは確かに大事だが、情報化社会により継続的な人間関係を描くという仮定はどうだろうか。一度に多数の、世界中の人にアクセスできるような仕組みができた今、継続的でクローズドな人間関係が希薄になっていく可能性は高い。
税制度に対するアレルギーを再認識できたので、地方財源に対する理解を深めたいところ。
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財源の話の部分は少し難しかったけど、なかなか面白い本だった。地域経済を維持するには、地域住民の我慢も必要だと感じた。スウェーデンのある田舎町では、近くの大都市に買い物に行かず、住民は「田舎だから物価が高い」と文句を言いながらも地元の商店を利用している。自分たちが年老いた時、地元に商店がないと困るから…。こういう発想が日本人には足りない気がする。
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世の中が、「工業社会」から「知識社会」に変貌を遂げる中、地方からの工場流出が止まらず、地域社会は衰退の一途を辿っている。そのような流れに歯止めをかけ、それぞれに個性が輝く地域再生はいかにすれば達成されるかを論じた著作。
重要なのは「持続可能性」。フランスのストラスブールが自動車立ち入り禁止区域をもうけ、公共交通機関の利用を促進した。
自動車でないと行けないような画一型ショッピングセンターではなく、地域に根をはった商店が人々の生活の場として息づく。
地域の事は中央政府に決められるのではなく、地域自身で決める。(地方に財源を!という筆者のかねてからの主張)
これからの日本社会はどうあるべきか、という命題に1つのヒントを与えてくれる。僕自身、地方出身者として今後地方の発展に何らかの形で貢献したいと思っているので、自分の将来に向けても1つの示唆を与えてくれる作品だった。
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序章の「人間生活を問いなおす」で、「地域社会再生のシナリオ」は二つに分岐しているとして、「市場主義」によるシナリオと「市場主義にもとづかないヨーロッパ型の地域再生の道」(4p)と書く。
工業社会から情報社会へと転換するエポックに発生する地域社会の変貌で、」工業都市は衰退し、地方都市は荒廃する」とする(5p)。
「環境と文化による地方都市再生」(6p)のうえに、「人間の生活の場を創造する」(16p)と展望を示す。
「工業社会の苦悩」を再生するには、「情報・知識社会への転換に、地域社会がいかに転換するかにかかっていてる」(32p)が、「工業社会の行き詰まりは、世界経済の限界を物語っている」(37p)として、「工業社会と市場経済はメダルの表と裏」ともする。「不可分」ということかも。
著者を承知したのは財政学の読解をすすめた著書を通じてであった。その領域ではワグナー(1835-1917年 独)を紹介し、(1)市場経済の外側にある非市場経済も考察の対象、(2)コミュニティ=地域共同体を重視することを紹介(48p)、
政府機能を「法律または権力目的分野」と「文化または福祉国家目的」分野に分類している、とする(52p)。そのうえで「文化または福祉国家目的」とする政府機能が拡大すれば、地方分権を推進せざるをえない(54p)と論を展開。
耐久消費財の登場で「社会システムの市場化が飛躍的に推進」(59p)とは、産業機能の代替が進行し、家族の破たん、「共有しなければいけない価値や信念を培養するため実施されていた教育訓練が不可能」(となったと指摘する。
「地域社会の崩壊と食料自給率」の項目で、「文化に誇りがあれば、食生活も地域に根付く」(83p 食生活が画一的で大量生産される食物へと激変して「食生活に文化がなくなり」とも述べる)。
本書の読後に思った。
戦後、アメリカ社会への追従を急ぎ、伝統的蓄積を変革する国是を選んだように思える。結果、自動車は購入してくれるアメリカから、我が国は食料輸入でこたえる仕組みができあがったのでは、と。
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財政学的な視点から地域再生を論じた一冊。
地域財政の自立が、税制度によって妨げられている一面があることによって、その地域の特色を汲んだ政策が困難となり、国の「誘導的な」政策を受け入れざるを得ないという現実がある。
結果、画一的で非効率な政策の実施につながり、地域から文化や生活機能が消失していく。
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1990年代以降、企業の工場は人件費が低いアジアへと拠点を移動しました。
それに伴い、日本自体は工業が衰退、商店街も空洞化になったことから、財政危機、破綻という地域社会において、深刻な問題となっています。
そういった背景から本書は地域社会を再生するための策を記されています。
地域再生のための2つのシナリオになると著者は説いています。1つは市場主義に基づく米国型のシナリオ。もう1つは財政によって、人間の生活する「場」としての再生を目指す欧州型のシナリオで、自然環境の再生が優先される。
日本は欧州の地域社会再生に学び、人間の生活の「場」として機能させることを重視すべきだと著者は説いてます。地方分権を進め、地方自治体が財政的自己決定権を強めることなど、そのために必要な環境作りが必須ということです。
ただ、本書は10年前の本であり、やや今の背景とは異なると思います。
「人が歩きたくなる」という街づくりという意味では、どのような社会を形成していけばよいのでしょうか?
僕自身は、地方分権を進めるのは必要であると感じてます。より、地域自身の強さというものを日本にアピールというよりも、世界にアピールする、そういった舞台が必要です。政府もそれに対して、権限を与え、支援できるような「場」を提供すべきであると考えてます。
地域には、とても重要な資産がたくさんあります。人、文化、歴史、そういったものがあるからこそ、世界へ発信する。
そういった道筋こそ、今後の成長の鍵であると僕は感じています。
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うーんなんというか…。
具体的なことがあまり書いていなかった。具体的だったのも6章だけで、そこもよく何が言いたいのかわからなかった。
ただ、著者がヨーロッパ大好きなのはよくわかった。
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ポスト工業社会を知識社会と位置づけ、崩壊する地域社会を再生するための方策を考察している。そのためには、地域社会の共同経済たる「財政」に係る自己決定権を付与するべきとする。言わば、地域再生を目指すためにはまず地方分権を進め、地域のことを地域が決められるようにするべきということか。
本書が書かれたのは2002年だから、この時には機関委任事務は廃止されていたはずだが、さらに自己決定権を高めよということなのだろうけど、具体的にどのような面の自己決定権を高めればよいのか、必ずしも明らかではなかったかなと思う。もちろん読み飛ばしてしまったかもしれないが…
社会史というんですかね、日本の経済や社会の変遷について学べたのは良かった。まさに工業社会から知識社会へと変わった今、過去を振り返り将来を考えるという意味では、読んでよかったと思われるところである。