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紙の本
独奏の詩人
2015/09/29 09:55
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
詩集はいったん読むとそれだけでおしまいの私がこの本に書評書いていいだろうか躊躇がある詩集である。
もちろん一度読んですむようなものでは全くなく、悪戦苦闘であった。
吉田一穂(イッスイとよむ、かずほではない)は七五調に自然と語られる日本語での音律を離れ、日本語でも漢字という文字の印象からおりなす独自の詩的世界を構築したなどと吉本隆明氏も書いてはいるが悪戦苦闘ではないだろうか。
しかし黒潮回帰、古代緑地の独自性の自然把握、公理的な幾何の空間概念の取り込み、憧憬の地へ,の思いを込めた、まさに独自の詩的世界構築であり、かなり詩人の作業とはかけ離れた仕事ぶりの方なのだな、そういう前提知識が無いとまるでわからないものであった。
抽象度の高さと硬質な表現が思い起こさせる憧憬は思い破るるたびに久遠の先へと導いてくれる創りの作品でこの後世による表現の異なる詩が繰り返しあらわている。
評者によって解釈が異なる作品も多く、ただ読み返すだけでは理解が深まるとは思いにくい。ここまでだろう。
しばらく考えてこの書評も手を入れたが、まだまだ解きほぐせない。一度手に取られ、稀有な詩人の意図に疑念しその先に行ってほしい。私は異空間を詠う日本人の詩人がいたことをまだ驚いている。
紙の本
汲めども尽きぬ霊感と戦慄をもたらす「反世界」の聖典
2004/06/20 21:31
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オリオン - この投稿者のレビュー一覧を見る
6月6日付け朝日新聞の読書欄で歌人の穂村弘さんが中井英夫『新装版 虚無への供物』や夢枕獏『腐りゆく天使』と並べて紹介している(「今こそリアル 反世界・反時代の思想」)。いわく「西脇順三郎をして「若しこの人が詩生活をせずに自然科学を専門にやっていたらノーベル賞に値する何か原理を発見したかも知れない」と云わしめた吉田一穂の詩集が文庫化された。裏返しの「自然科学」としての「詩」に懸けた彼もまた「この時空に現存しない私のふるさと」を想い続け、反・世界への翼を広げた一人であった」と。
かつて『吉田一穂大系』(仮面社)に驚愕し、「あゝ麗しい距離[ディスタンス]」(「母」)、「燈[ラムプ]を点ける、竟には己れへ還るしかない孤独に」(「白鳥」)、「望郷は珠の如きものだ。私にとって、それは生涯、失せることなきエメラルドである」(「海の思想」)といった切れ切れの詩句断片に憑依された私にとって、このコンパクトに凝縮された「反世界」の書物は、汲めども尽きぬ霊感と戦慄をもたらす聖典である。
加藤郁乎の「解説」がいい。抽象化され幾何学的に展開された「思考本位の詩人」、「絶対詩の世界」、「純粋絶対詩」といった語彙群、「古代緑地を髣髴する北の極への誘い、地球上には存在しないながらおのれの意識現在にのみ存在する〈白鳥古丹〉[カムイコタン]、そしてケルト的薄明への傾倒は吉田一穂の詩作における永久磁石のようなものである」などの評言は、それ自体がひとつの玲瓏堅固な詩的世界を造形している。「詩は三行で良い。天と地と人──生物、生命でし」と詩人が吐露した「詩的心情」や、地質学者井尻正二の「一穂論を書くなら積丹半島からの海や背後の山や森を眺めてからにして欲しい」という言葉が素晴らしい。