紙の本
畳の手触り
2011/03/31 08:16
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「百年文庫」の3巻目の書名は「畳」。収録されているのは、林芙美子の『馬乃文章』、獅子文六の『ある結婚式』、そして山川方夫の『軍国歌謡集』の三篇。
ここで余談をいれると、文学的な知識として林芙美子や獅子文六の名前は知っているし、二人の代表作の名前を挙げろと云われれば答えることができるが、実際この二人の作品を読むのは今回初めてであった。「百年文庫」というシリーズはそういう点では広く作者を集めているから、未読の作者の作品の一端に触れる機会を提供することにも役立っている。
もう一人の作家山川方夫であるが、彼が複数回の芥川賞候補になりつつ若くして交通事故で亡くなった作家として、何作かを読んだことがある。その作風は丁寧であって、今回収録されている『軍国歌謡集』も成熟した作品といえる。これだけの書き手が現代の作家にいるかといえば、やはり山川方夫のうまさが光る。
さて、今回書きたかったのは、どうしてこれら三篇の作品に「畳」という言葉が使われたかということである。書かれているテーマも題材も違いながら、どうして「畳」とつけられたか。
裏表紙の解説によれば、「小さな部屋に刻まれた忘れえぬ思い出」とある。
いづれの作品も、小さな部屋が舞台になっているところから「畳」という一文字が選ばれたのであろう。少し強引ではあるが。
そういう点でいえば、獅子文六のスケッチ風に書かれた掌編『ある結婚式』は面白かった。
媒酌人など嫌でしょうがない作者がどうしても断りきれない知人の息子の媒酌人を引き受けることになる。仕方なく、小さな宴を自宅の一室で執り行うことになる、そのささやかな光景を描いただけのものなのだが、良き時代(という場合の良きとはどういうことをいうのか人によって違うだろうが、ここではおおくくりに書いておく)の市民の息づかいまでもが聞こえてきそうな出来栄えである。
こういう掌編は心を温かくする。ちょうど畳の手触りに似ていて、気持ちがいい。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
紙の本
これからはじまる百年文庫の日々
2016/04/07 11:06
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
百年文庫デビュー。一番に届いたのがこちら「畳」。なぜ「畳」なのか、タイトルの付け方にはじめは疑問を持ったけど、読んでみたらばそのとおり、部屋ひとつの日常の一部を切り取った三作品。林芙美子、獅子文六は文句なく面白かった。林芙美子はどうやって題材をみつけてきたのか。興味深い。山川方夫は初。話としてはまあまあだった。主人公初め、女性とそして大チャン、みんな行き過ぎている。なんだろう。昔って思い込んだら、あそこまで突き進むのが普通だったのかなあ。まさかなあ。思い込みで好きだ、嫌いだ、結婚するだ、全然冷静じゃない笑
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林芙美子『馬乃文章』
馬の肉は安くて美味しいものとして描かれる
獅子文六『ある結婚式』
自宅で結婚式を執りしきる随筆のような一品
山川方夫『軍国歌謡集』
窓の外を歌いながら通る姿を見ない娘に恋する。恋の思い込みと狂気の一面、哀しさも漂う
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ポプラ社刊行の百年文庫シリーズの1冊。
林芙美子の名に惹かれて選んだのだが、頼まれて形式張らない結婚式の媒酌をするという獅子文六の「ある結婚式」と、山川方夫の「軍国歌謡集」の2作がよかった。
「軍国歌謡集」は2人の男が住むアパートの窓の下を、通る女性がいつも軍歌を歌うことから端を発した物語。読み応えがあった。
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110417読了
最初は軽くて明るくてよかったなあ
真ん中は文章が好みじゃなくてなあ……
最後のは読みごたえがあった
気持ちが主人公寄りでなんとなく心が痛くなるのと、結局他人なんてわけわかんないし一人でいきてければいいよ、て思ってるのに愛のある人に嫉妬したくなったり
ヒヤヒヤしながら後半読んでたのですが、ラストの虚しさとか
気持ちがいろいろ動きながら読んでてつかれちゃったんだけど、最後はすごくよかったなあ
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林芙美子『馬乃文章』、獅子文六『ある結婚式』、山川方夫『軍国歌謡集』の3篇を収録。
林芙美子さんの作品はちょっと自分には合わなかったのか、さらっと読みきってしまっただけだった。
山川方夫さんの作品は恋の狂気と盲目と、青春のほの暗さがからみ合って中々に虚しさを感じる話だったけれどそれだけに読み応えがあった。
幸福になることを主人公は《能力》なんてさびしいことを言っていただけに、救いがあるラストで安心した。
一番面白かったのは獅子文六さんの、主人公の自宅で小さな結婚式を取り仕切る話。
この結婚式の主役である若い二人が最初の内は全く結婚式に興味がなくて、家族の面目もあるから渋々式を挙げる…といった流れだったのに、式が始まってからの緊張感であるとか、これから幸せになるんだという決意を改めて宣言するところが本当に爽やか。
主人公も口下手で式の進行や準備をするのに非常に苦心しただけに、その感動もひとしお、というのが「ざまア見ろ」という台詞に集約されているのが微笑ましいラストだった。
愛ある毒舌っていうのはこういうことだと思う。
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三篇のうち、山川芳夫の「軍国歌謡集」が一番好きです。この本がなかったら、出会わなかったでしょう。ポプラ社さん、ありがとう。
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林芙美子の著作に触れてみたくて手に取りました。
林芙美子「馬乃文章」、主人公である妻子ある売れない作家の
心の描写が鮮やか。物書きだからこそ書ける、貧乏を知っているからこそ書ける。
獅子文六「ある結婚式」スマートな文体の随想のような小説。
繰り出される言葉が、スマートである。
山川方夫「軍国歌謡集」この三編の中では一番長い。
当初は淡々としているが、中盤から引き込まれ、ラストが気になる。軍歌のメロディーが全て判っていたら楽しく読めそう。
著者は、教科書で読んだ「夏の葬列」の著者でもあるそうだ。
主人公の心情が難解なところが似ているか。
埋もれてしまいそうな小説達を発掘してくれるシリーズ本である。
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百年文庫12冊目は「畳」
収録は
林芙美子「馬乃文章」
獅子文六「ある結婚式」
山川方夫「軍国歌謡集」
名前は聞いたことあるな、という作家たちばかり。いずれも初読。
特に山川方夫の短編(といっても100ページぐらいあるが)がとりわけよかった。どうなるのかなという物語の面白さと、ひねくれた主人公の心が波立つ様がいい。全体がすっきりしているのもいい。女の歌声と、夜の街にほのかに灯る家の灯の風景が浮かぶ。山川方夫は『夏の葬列』という作品が、集英社のナツイチラインナップにずっと入っていた印象がある。最近はどうだったろうか。今でも手に入るようだし、読んでみたいなと思った。
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『馬乃文章』林芙美子
健全な強い心と体の妻。頼もしい。
『ある結婚式』獅子文六
さっぱり簡潔と思いきや、そこはやはり特別になった瞬間を捉えた話。
『軍国歌謡集』山川方夫
大ちゃんのうわの空に生きるしかないというのが、印象に残る。
これ読後数日経ってから良さがわかったかも。もう一回読んでもいいな。
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畳、というテーマは忘れがちなまま読み進めたのだけれど
3作、読み終わって、畳を想うと、なんとなくしっくりくる。
「馬乃文章」
お味ちょでぐちぐち、が、最高にかわいい。
なよっとして、頼りないダメな男と
からっとして、しっかりした女房。
読んでいて、小気味よかった。
「ある結婚式」
私も、「式」というものがあまり好きではなく、
比較的小ばかにして眺める癖があるのだけれど
人生の節目で身を引き締める気持は、大切な経験なのだ、と思う。
ささやかな、この結婚式は、とても素敵だ。
と、思った。
「軍国歌謡集」
愛とは、実に滑稽なものなのだなぁ。
大チャンの愛。
晴子の、恍惚とした瞬間の愛。
どちらも、非常に独りよがりだ。
多かれ少なかれ、皆、幻想の中に生きているのだろう。
昌二の冷めた感覚と、愛への憧憬が、おもしろかった。
昌二は結婚するという。
それは、彼の、愛への執着だろう。
でも、最後の一文で、彼の今後の結婚生活がちらりと窺えたような気がする・・・
あたたかい家庭を得て、感情の回路が取り替わることを、祈るよ。
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山川方夫の軍国歌謡集が圧巻の面白さ。自分も下北に住んでいたので、タイムスリップしたような、何か、奇妙な気持ちのデジャヴがあった。
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いずれもはじめて読む人ばかり。
林芙美子『馬乃文章』
流行った作家だけあってテンポがよい。オダサクっぽい?
獅子文六『ある結婚式』
名前だけは聞いたことある。この短編はアッサリしすぎてなんとも言いかねる。
山川方夫『軍国歌謡集』
おもしろいシチュエーションをつくっているが、どうも肌になじまず。
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他の二作品も素晴らしいが、山川方夫の『軍国歌謡集』に衝撃を受けた。これに出会えただけで今まで百年文庫を読んできた甲斐がある。
タイトルは多少取っ付きにくく感じるかもしれないが、ぜひ手に取ってほしい。
書き出しから凄い。「私は人間が進歩したり、性格が一変したり、というようなことはあまり信じてはいない」この主人公のモノローグに引き込まれたらもう止まらなかった。
モラトリアムの始まりと終わり、愚人、付け焼き刃の教養、愛の所在と幻影、嘘、生の意味、映画、生活、等々興味のある要素しかない。
平易で変わったところのない、読みやすい文章なのにこれほど感情をぐらぐらと揺さぶられる。
大チャンと呼ぶ男性との生活の描写、甲斐甲斐しい献身、知性への憧れ、家の前を過ぎ去っていく軍歌を歌う女性と複雑化していく3人の関係が、これだけの文量で収まっているのが信じられない。
素晴らしい短編と出会ってしまった。
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3作目の『軍国歌謡集』が良かった。山川方夫さんって存在すら知らなかったが、芥川賞の候補に何度も選ばれた方らしい。
人と人とが関わりを持つことは、誤解やストレスも時に生じる。登場人物達の心の動きがありありと伝わり、誰に対しても共感を覚える。巧みな人物描写、物語の流れにするりと乗せてくれる文章、こんな作家を今日まで知らなかったなんて勿体ない。