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商品説明
日本と世界の文豪による名短篇を、漢字1文字の趣に合わせて1冊に編んだアンソロジー。14は、島木健作「煙」、ユザンヌ「シジスモンの遺産」、佐藤春夫「帰去来」を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
煙 | 島木健作 著 | 6−46 |
---|---|---|
シジスモンの遺産 | ユザンヌ 著 | 48−91 |
帰去来 | 佐藤春夫 著 | 94−138 |
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紙の本
本だからこその喜劇
2011/05/21 08:53
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
特に初版本や稀少本を求めるわけではない。ただ本好きの人なら誰しもしそうな、新刊本なら平台に積まれた上から何冊めかの本を取り出し、四隅に傷みがないか、帯は破損していないかの確認程度のことは、いつもする。ページを開いた時に、まず本の香りを嗅ぐのも必ずする。
その程度であっても、本を読まない人にとっては十分に怪しいのではないか。
そんな本の妖しい魅力が織りなす滑稽な人間模様が「百年文庫」14巻め「本」に収められた3篇にはある。
なんといってもユザンヌの『シジスモンの遺産』が圧倒的に面白い。
ユザンヌという人は19世紀後半のフランスの作家で、自身大の愛書家であったらしい。
物語は愛書家シジスモンが亡くなったところから始まる。彼の蔵書には他に類をみない掘り出し本がいくつもあって、愛書家として敵対していたギュマール氏はそれらの本を手にいれようとやっきになるのだが、シジスモンはそんなことを見通して「遺書」を残していた。
その「遺書」によれば、彼の蔵書を管理するのは従妹の女性。そして、ギュマール氏とこの58歳になる女性との、本をめぐる大バトルが勃発するのである。
きっと映画になっても面白いのではないかと思うくらいに、この二人の攻防が面白い。本好きとはここまでするのだろうか。ここまでくれば喜劇としかいいようがない。
本好きの人なら、一度は読んでもらいたい短編である。
島木健作の『煙』は1941年の作だが、古本市でのやりとりを描きながら、当時の知識層の青年のもろさ、あやうさが描かれている。
佐藤春夫の『帰去来』は、佐藤の故郷和歌山から弟子入りしたいと上京してきた青年の事情と彼が働きはじめる書店での社会観察が、独特な長文体で描かれている。初めは読みづらい作品だが、読むうちに吸い込まれている。名人芸だろう。
それにしても、これらの3作を読むと、本とはなんと罪つくりなものであるかと思ってしまう。
匂いを嗅ぐぐらいはかわいいものだ。