紙の本
清潔幻想?
2019/05/26 09:25
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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
20年来、すぎ花粉症を患い、それなりに勉強はしてはみたものの改善はしていない。このようなアレルギー関係も含めて、断片的には情報として知っていた事柄が順を追って詳しすぎるくらいに解説されている。寄生虫とアレルギーの関係はカイチュウ博士の藤田紘一郎氏の話とも関係している。ヒトの体が生態系を形成し、寄生虫ともども腸内細菌類と共生している状態だったが、衛生環境の改善や食生活の変化で腸内細菌類のバランスが崩れてしまい、免疫疾患も生じるようになった。
福岡伸一氏によると「不在」による病い だそうだ。不在となったのは従来ヒトの体内に住んでいた病原菌や寄生虫などのことである。ではどうすべきか。そのアイデアも含め最後にこれからの医療についてまとめられている。
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目からウロコが落ちる名著。我々の身体は寄生虫やウィルスと共存してきた。彼らを排除することで、体内の多様性は失われ、現在多くの難病になやまさている。寄生虫も細菌もウィルスも根絶すべき敵ではない。うまくつき合っていくべき仲間。
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著者は自己免疫疾患を患い病原微生物と免疫の関係を調査、8500本もの論文にあたり、数十人の科学者へのインタビューを行った上で初の著書となる本書を書き上げた。
余白少なく小さい文字がびっしり。ページ数以上にボリュームあり。
医療・公衆衛生の向上によって感染症は激減したが、花粉症・アレルギー・自己免疫疾患は増加した。寄生虫不在による弊害。
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20140518日経朝刊
寄生虫なき病 モイセズ・ベラスケス=マノフ著 清潔を是とする文明への警告 [有料会員限定] 閉じる小サイズに変更javascript:void(0)中サイズに変更javascript:void(0)大サイズに変更javascript:void(0)保存javascript:void(0)印刷リプリント/async/async.do/?ae=P_CM_REPRINT&sv=KN
これは大変な警告の書である。「大変な」と言うのは、私たちの健康と、この文明が是としてきた清潔な生活全般についての、実に重要で複雑な関係を指摘しているのだが、ではそれを直そうとすると、とてつもなく難しいと感じさせるからだ。
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話の大筋は、もうご存知の方も多いだろう。最近、なぜ、自己免疫疾患やアレルギー疾患が多いのか? この種の病気は、侵入者を駆逐するためにあるはずの免疫系が、自分自身を攻撃したり、本来は無害であるはずの物質をむやみに攻撃するようになったりすることで生じる。喘息(ぜんそく)や花粉症などの病気は、確かに昔よりも増加している。その原因が、寄生虫の撲滅をはじめとする「清潔」な暮らしにあるという説自体は、もはやかなり広く知られているに違いない。
著者自身、子どものころから自己免疫疾患に苦しんでいた。だんだんに頭髪がなくなり、あげくにすべての体毛を失ってしまうのだが、それは、免疫系が自分自身の毛根を攻撃してしまうからだ。結婚して自分の子どもができるにあたって、なぜ自己免疫疾患があるのかを真剣に理解しようとし、かつまた、なんとか治療しようとした。それは、自分でアメリカ鉤虫(こうちゅう)という寄生虫に感染することだった。
著者自身の実体験から始まるこの物語は、しかし、どんどん複雑な迷路に入り込んでいく。それは、免疫系と清潔さとの関係が実際に複雑だからだ。寄生虫を駆逐したのがいけないなら、わざと感染すればいいと言うだけではない。本書は、私たちのからだと健康について、根本的に視点を変えることをせまる。
人体は本来、清潔な工場で生産される機械のようなものではない。
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「毎日新聞」(2014年5月25日付朝刊)で、
養老孟司先生が紹介しています。
「一言にして尽くされる真理、
そういうものを信じてはいけない世界になっていると私は思う。
読むのに手間のかかる本だが、
実際の世界はじつはこういうものである。」
(2014年5月26日)
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腸内細菌に興味を持ったために、手に取ってみた。寄生虫によってあきらめかけていた病気が治り、共存する。その昔は土に触れ、自然と取り込んでしまっていたもの。最近、抗菌とされるものが多く増えてきて、なんとなく疑問に思っていたが、寄生虫や菌とは共存していくことを考えていこうと思う。そのためにも、まず土に触れる機会を増やすこと、自然に触れること。家族も含めてそういう生活に戻っていこうと思うきっかけをいただいた。
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人類はこれまで何百万年もの間、寄生虫を飼ってきており、その免疫系は寄生虫に順応し、依存するようになった。
アレルギー疾患とは、人間の生活が清潔になったことで不要化した免疫系の活動が継続している状態である、という衛生仮説にもとづき寄生虫や腸内細菌叢のバランスを取り戻すことの重要性を説いた本。
ただし、ロジックはゆるい。
日本の子どもたちにアトピーが増えている一方、ボルネオの子どもたちにはほとんどアトピーもアレルギーもない。ボルネオの子どもたちは寄生虫に感染している。だから寄生虫に感染するとアトピーも治る、というのは相関と因果を混同しているとしか思えないのだが。
もちろん、実験データによる裏付けも豊富に紹介されてはいるが、きちんとしたRCTにはほど遠い内容だったり動物実験のみだったりするので、うのみにはし難い。
衛生仮説がこれほどまでに共感を集め、人気になっているのは「自分の病気に理由があることを知るのは、何という慰めだろう。病気が自分のせいではないこと、病気が偶然のいたずらでないことを知るのは」と、あるように、アレルギー疾患の患者にとって、自分は現代社会の被害者なのだ、というルサンチマンを共有できることにあるのだろう。
・免疫系が寛容を学習することが重要で、T細胞の一割程度を占めているレギュラトリーT細胞がアレルギー反応の予防には重要な役割を果たしている。
寄生者は、宿主の免疫制御回路を作動させることによって排除を免れており、それが付随的に喘息、MS,UCなどの炎症性疾患の予防につながる
・ピロリ菌は、胃の酸性度が強くなりすぎると胃酸の分泌を妨害することによって、酸性度を適正に保っている。除菌してしまうと胃液が逆流した時、酸性度が高すぎて食道に炎症が起こりやすくなる。
また、ピロリ菌に感染していると結核の発症率も低くなる(サルのデータ)
・EBVは他の感染症への抵抗を強める。予防接種でこれを排除してしまうのは危険ではないかという。
・重量でいうと、人間の便の60%は生きている細菌
・花粉症が最初に出てきたことは清潔な上流社会の人のみがこれにかかったため、「最高の知性と最強の道徳心を持つ人間だけがこの病気になる」と考えられていた。
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【著者自ら寄生虫を飲んで実証実験を敢行】寄生虫、細菌、ウイルスを駆逐した清潔な現代社会。だが寄生者不在は免疫の暴走を呼び新たな病を生んだ。傑作科学ノンフィクション!
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これは必読だと思う。原題は" An epidemic of absence"、つまり<不在の伝染病>。”病気の原因は病原菌”という近代のパラダイムから逆に、人間や環境から失われたものが原因であるというパラダイムへ。キーワードは、花粉症、自己免疫疾患、腸内細菌、遺伝子、寄生虫、ウイルス、自閉症、エピジェネティクス、そして共生。自己免疫疾患に悩まされるサイエンス・ライターである著者が、数多くの研究者などに取材し、また自分自身を寄生虫に感染させるなどまでして描き出している最新生命科学。一般向けとは言え、かなり専門的な細かな内容を含んでいるのでかなり重いのが難点であるが、訳も読みやすいので興味深く読める。人間の体は孤立した個体ではなく、内外のさまざまな生き物たちと相互作用して動的に定常状態となった小さな宇宙、超個体であるという事実。病気のことだけではなく色んなことを考えさせられた。
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特定の病原菌など「ある」ものが病因とは限らず、あるべきものが「無い」ことが病因となりうる。
ホームズの語り口のようなこのパラダイムシフトが本書で述べられる。
膨大な傍証、まさに変わりつつあるパラダイムの現場が理解できる刺激的な良書。
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私たちの体は、「私たち」だけで存在できない。
ヒトの細胞数60兆個に対して、消化管内の腸内細菌は、百兆個。種類は1万種。
腸内善玉菌の存在は多く知られているところだが、微生物、ウイルス、寄生虫までもが、人の存在に寄与していたとは。
かつてよく見られた感染症(A型肝炎、麻疹、おたふく風、結核)が、1950年代から漸減してきたのと同じ時期に、自己免疫疾患やアレルギーが増加している。
これは何を意味しているのだろうか。
科学ジャーナリストの著者は、自己免疫疾患により11歳の時に髪が抜け始め、16歳の時には全身脱毛症になった。喘息と、いくつかの食物アレルギーも持っていた。
8500本の論文を渉猟し、何十人もの科学者にインタビューし、自らアメリカ鉤虫に感染されにメキシコへ赴く。
「不在の病」について調べつくし、緻密に分析・議論しているが、一般向けのサイエンス本としての読みやすさも兼ね備えており、読ませるテクニックは秀逸。
訳者も書いているとおり、読み進めながら長年の謎が解き明かされる爽快感を感じる作品。
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【文章】
読み易い
【ハマり】
★★★★・
【共感度】
★★★★・
【気付き】
★★★★★
・人間に害を及ぼすものを排除してしまった結果、病に対する抵抗を低下させてしまった可能性がある
・清潔でいることで、人間が弱くなってしまう
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自己免疫疾患はこれまで通説であった自己への過剰な攻撃性ではなく、実は免疫の制御機構の喪失にその原因があるとの説が様々な報告により説得力を増してきた。何とその適切な維持(平和維持活動)に一役買っているのが、我々の「古くからの友人」である寄生虫や微生物だと言うのだ。人類はシステム警備を寄生虫に外部委託してきたとさえ筆者は言う。そしてこの友人を盲目的に駆除し、体内環境のバランスを破壊してきた近代以降の衛生意識こそが、重症筋無力症等の重篤な疾患を含む自己免疫疾患の急増の原因だと喝破する。
まるで免疫機構を指揮するグールーのように振る舞う寄生虫を含めて何とか我々の生体環境が維持されているとするなら、一体我々が「自己」として認識すべき範囲は何処までなのだろう、と不思議な感覚に襲われた。
筆者自身、全身性の脱毛を伴う自己免疫疾患を患っている。本書は自ら寄生虫に故意に感染した際の体験談に、大量の実験例や報告例を挟み込む形で構成されている。語り口は柔らかいが、最近の翻訳物の科学啓蒙書の例に漏れずやたら長い上、グラフや表、索引がないのでかなり読み辛い。
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人間はそれ自体複雑な生態系を持つ、超個体であり、アレルギー、免疫疾患、自閉症、うつ病、ガンなどは、古来人間が普通に被曝していた細菌類、ウィルス、寄生虫から隔離され、体内、特に腸内の細菌叢(そう)が破壊されたためである。
豊富な具体例とさまざまな研究成果、更には著者自身の(寄生虫感染の!)体験も交えた、網羅的な解説書。
今後、人類はあくまで外部環境と対立し続けるのか、融和を図るのか。
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非常に面白い本でした。腸内細菌とか腸内環境とか最近流行ってきていますが、その系統の話のレビューのようになっています。「寄生虫なき病」という表題が必ずしも適当なのかどうか解りませんが、いわゆる学問的な寄生虫だけではなく、ピロリ菌や腸内細菌についても広く触れられています。寄生虫や細菌、ウイルスなどが原因の感染症と言う概念とは全く別の、進化の過程でずっと一緒であった共生生物の不在による疾患という概念を非常に多くの文献を紹介しながら丹念に説明してくれます。アレルギー疾患、自己免疫疾患、抗生物質の濫用などに興味がある方は読んでみても良いのではないでしょうか。「地球温暖化」話などよりはよっぽど重要な話ではないかと思われます。