紙の本
バレエが如何に素晴らしい芸術であるかを文明史的視点から力説した本
2001/02/09 16:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:稲倉 達 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2000年には、著名な舞踊評論家によるバレエ鑑賞の入門書が2冊出た。それぞれにまったく違う個性を持っているから面白い。先に出た鈴木晶『バレエの魔力』(講談社現代新書)が、初心者が劇場でバレエに親しむための実用的なガイドという基本方針に貫かれているとすれば、こちらは、バレエが如何に素晴らしい芸術であるかを文明史的視点から力説した本である。
しかし、だからといって難解な本ではない。まるで講演録のような文体で平易に書かれている。ポイントを箇条書きでまとめるなど、入門書としての心配りも憎い。一方、バレエは「人間というものの神秘の核心」であると説く冒頭の部分は駆け足で、著者のこれまでの仕事に馴染みのない読者にはいささか強引に感じられるかも知れない。が、それはそれ。バレエ入門をこのように書き出さずにはいられなかった著者の熱い思いが全編に溢れており、読み応えは十分。最後に、ギエムや熊川哲也、マラーホフなど現役スターダンサーたちの魅力に言及するところまで、一気に読ませてしまう。観るか習うかして、すでに少しバレエに触れている人が、改めてバレエとはなんであろうか、もっと深く理解したいと思ったときに最適の本。
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有名作品やマイムやパの解説ではなく、ユリイカや現代思想の編集長だった著者ならではの思想史文化史をからめてのバレエ史入門。平易な語り口で知識がなくとも読みやすいし、かつ、バレエ、振付師、ダンサーの魅力を熱く語っているのでとても楽しい血の通った入門書。連載エッセイか講演録をまとめたものなのかな。簡略に語る大筋からそれないように、ここでお話することではないので、このへんで元に戻ります・・と書かれ、そこをもうちょっとお聞きしたいんですがという箇所が幾つか(笑) メモ)三浦さんの対談http://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/027/talk.html
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初めてのバレエの鑑賞に際して、最低限の背景を知ろうと思い、読みました。書き方は、よく言えば平易、悪くいえば論理性は高くないと言ったところでしょう。
興味を持ったのは、やはり人間だけが踊り得る存在だということ。それに続く、生きる限り、人間は言葉を持ち、表現をする手段を持つという指摘。特に、20世紀という戦争に塗れ、生死の意識が顕在化した時代を潜り抜け、踊りは進化し続けた。
またバレエを見終えたら、もう一度この本を読みたい。
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・モードリス・エクスタインズという人が『春の祭典』という本を書いています。バレエの本というよりは、第一次大戦前後のヨーロッパ社会の姿を浮き彫りにした本ですが、そこに『春の祭典』初日の状況が描かれています。というより、どうしても描けないということが描かれているのです。その場に居合わせた人々の証言がてんでんばらばらで、検証しはじめると、どの証言が正しいのかわからなくなってしまうというのです。ただ、ものすごい事件であったことだけは分かる。これはどういうことかといえば、歴史的な事件というのはほんとうは人間の心のなかでしか起こらないということなのです。そして、人間の心のなかで起こる以上は、その意味は決して一様ではないということなのです。
世界の歴史も日本の歴史も何度も書き直されてきました。今後も書き直されつづけるでしょう。歴史は客観的なものではありません。それは過去と現在の関係、現在を生きる人々との関係なのです。現在が変われば歴史も変わるのです。
・意味が変わりつづけるなら、バレエはとて不確かな芸術であるということになりそうです。歴史も不確かな学問ということになる。でも、そうではありません。逆です。不確かなものを確かなものにしようとして、人はバレエをさらに熱心に見ようとします。感動を確かめようとして再び劇場に足を運ぶ。そのとき人は、よりいっそう深く感じる心を養っているのです。
・生きることの歓びと哀しみをどれだけ深く感じることができるか、それは感動する心の豊かさにかかっています。ほんとうは歴史もそういうものなのです。歴史の本質は文学であり芸術です。人類という持続する生命に感動する心なのです。ほんとうの歴史家ならばそう考えていると思います。歴史はそこで神話や伝説に接しています。
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