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紙の本
[履歴書とリレキショ]中心点はふたつ。
2003/01/29 15:21
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投稿者:栗山光司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
真っ白な履歴書用紙を前にして、人は少なくとも就職等の目的を明確にした社会に共有される小さなHPを立ち上げるべく書き込みと、クリシェ的証明写真を貼り付けるに違いない。自分の欲望を赤裸々に書いた捏造の物語ではなく、他者の希望に添ったささやかな「他人が見たい僕」を多少なりとも演出して、適当であるけれど、「他人に取り込まれた僕」を嘘を付かないで、正直に書くであろう。兎に角、就職という目的に敵った「僕の履歴書」は、そのようにして、世間に流通する。
ただ、そんな履歴書に主人公の僕は、ちょっぴり苛立つ。だから、故意に証明写真をズラして撮影したり、「リレキショ」と呟くことで、もう一人のあるはずである「僕」を納得させたのであろう。でも、あるはずである「僕の履歴書」はどこにあるのか。作者は『リレキショ』を書くことで、やがて、「僕の履歴書」を発掘するシミュレーションを試みたのであろうか。その意味で私は青春小説というよりはメタ小説として読んだ。
「リレキショのボク」は「優しい拾い魔」のお姉さんに拾われて、弟になり、姉さん好みの半沢良を名乗る。物語の発端はガソリンスタンドで夜勤アルバイトをするために履歴書を書くことから始まる。名前と弟以外は決まっていない。それ以外の僕を履歴書で立ち上げるのだ。適当はいいけど、嘘はダメ。正直に大胆に書くこと、意志と勇気を持ち続けて。
僕の規則正しいアルバイトが始まり、その[新人君の僕]を観察する少女(ウルシバラ)の眼があった。受験生ウルシバラは自分の部屋で規則正しく問題集を解いていく清らかな集中力を持ちながら、全方位型の好奇心を宿す娘である。少年は捕捉される。=ウルシバラは肘をついて双眼鏡を構え(略)それはまるで、双眼鏡と一体となった生物のように見える。生物の名は「観察」。=
やがて、深夜、フルフェイスのヘルメットを被った少女が原付を押しながら、音もなく僕の前にあらわれる。そして、何の違和感もなく自然に白い封筒が手渡される。手紙はウルシバラワールドへの招待状なのか。それとも、ラブレター?
手紙の返事は午前3時半、僕はスタンドの端で体操を始める。世界は様々な光で囲繞されていた。光の何処かにウルシバラの部屋があるはずだった。/僕は光の集団に向かって、お辞儀をした。そして口の中で、勉強頑張れウルシバラ、と唱えた。/僕は膝に手を当てると、ゆっくり屈伸運動した。(略)それらが終わると、僕は再び前方に向かって丁寧にお辞儀をし、回れ右をして事務所に戻った。/まるで良くできた鳩時計のようだと、思った。(107頁)
お姉さんとその友人の山崎と二人の年上の女に囲まれた居心地の良い輪の中で僕の生活は進行する。ある日、おしゃべりなガソリンスタンドの先輩に意地悪して、「実は僕、星川っていうんです」と告げる。その日、ウルシバラが手紙を持ってやってくる。デートのお誘いだった。
僕はリレキショを胸に初デートに出かける。僕は胸のポケットから封筒を取り出した。深夜の神社の境内で懐中電灯の光に浮かび上がるリレキショ。ふたりはくすくす笑いながら、空欄に書き込みを加えていった。共同作業。朝が来た。ふたりは土を掘り返してリレキショを埋める。春になれば、星川の[私の履歴書]がもっこりと、大地から顔を出すのか。それとも、半沢良のハンドルネームで[僕のHP]が軽やかにネット上に浮遊しているかもしれない。どちらのボクも僕なのだと思う。中心点はふたつ。ウルシバラもふたつ。四輪駆動が走り去る。