紙の本
これって、ラトゥールでなくてもなりたったんじゃないか、なんて思っちゃうんですね。それにこの手の話って結構、類似の傑作があるんですね
2005/10/08 20:41
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
気にはなっていたジョルジュ・ド・ラトゥール展を、最終日間際の金曜日の夜に見に行くことにしたのは、知人である女流画家さんがHPで、この展覧会を絶賛していたからです。NHKで取り上げられたこともあり、かなりの混雑を予想したのですが、金曜の夜ということもあって、そこそこの混みかた。その気になれば人に迷惑をかけることなく傑作の正面に立つことも出来ます。
東京だけの展覧会、しかも幻の、と断りがつくものにしては望外のことで、娘二人とともに夜の美術展を堪能しました。それが5月20日で、この本の出版は7月20日ですから、いわゆる便乗本には当たりませんが、きっと校正やなにかで当初の出版予定日に間に合わなかったのかな、などと思ったりします。
で、カバーにも使われているラトゥールの作品、これがタイトルにもなっている「いかさま師」で、私たちも会場で見ました。でも、その展覧会が普通のそれと違っていたのは、なんといっても模作が多いことです。偽作、ではありません。真意は不明ですが模作です。説明を見ますと、少なくとも数百年経ったものばかりで、いわゆる現代に作られた贋作ではありません。
同じ作品の模作が二つ並ぶこともあれば、模作だけの展示もあります。とてつもなく上手いもの、かなり上手なもの、ともかく下手なものはありません。贋作展ではないところが、なにか不思議でした。私などは、模作に素晴らしい出来のものがあって、もし注意書きが無ければ、これぞラトゥールの傑作、そう思うようなものもありました。閑話休題。
主人公は高林紗貴で37歳、恋人が内田優30歳で、付き合い始めて7年になります。母親の名前はナオで、現在入院中です。父親は岡田敬一、元不動産業をしていたが現在は失踪中で、苗字が違うのはナオが正妻ではないためです。その父親の愛人、というかナオと一緒に暮らし娘まで設けたのに、岡田が二人を騙すようにして結婚したのが榎本光子で、息子がヒカルです。
そして、小さい時の紗貴を可愛がったのが、当時画家であり自殺を遂げた天才画家・鷲沢絖です。といっても、彼の作品は現在も買い手がつくことはなく、埋もれた天才といっていいのかもしれません。そして、紹介にあるゴミの中で死んでいたというのが鷲沢ミネで、娘が摩里、その息子が鋭士ということになっています。
この人たちとラトゥールどう結びつくのか、は読んでもらうのが一番でしょう。柳原慧の文章は、ほんとうに癖が無く、それでいて軽い感じはありません。女性の描き方も、心理の説明も肯けるものばかりで、『誤読日記』の斎藤美奈子さんも、そこは認めるのではないでしょうか。ちょっと捻じ曲がった心の持ち主である鋭士も今風の魅力的なジゴロですし、奇麗事をいいながら結局お金のことばかり考えている紗貴の嫌らしさも中々のものです。
ただ、ここまで持ち上げておいてナンダ!ですが最近読み直したばかりの藤原伊織『ひまわりの祝祭』と読み比べると、ちょっと弱いかな、って思います。ラトゥールでなくても成り立つんじゃない?そんな気もしますし、やはり男の格好よさのレベルが違います。ただし、『ひまわりの祝祭』も私に言わせれば、主人公がカッコウつけすぎてなんだかガキみたいな感じが嫌です。それに及ばないとなると、ちょっと残念ですね。
埋もれた美術品の話、贋作の話となると、やはり高橋克彦の浮世絵を扱った作品に敵うものはないのではないか、そう思います。最近のトンでもばなしは全く読む気がしませんが、デビュー直後の高橋の作品群は、この分野の最高峰といっていいのではないでしょうか。思わず他の作家を褒めてしまいましたが、『いかさま師』も『ひまわりの祝祭』も高いレベルでの争いですから、読む価値十分、といっておきます。ただし、いかに言葉を尽くしてもラトゥールの作品一枚にも及びもつかないものであることは、残念ながら確かです。
投稿元:
レビューを見る
『このミス』大賞受賞作の前作よりもこの本のほうが好きです。主人公が少しやり過ぎかなと思うこともありますがね。
投稿元:
レビューを見る
出版社 / 著者からの内容紹介
第2回『このミス』大賞受賞作家第2弾!
フランス絵画史最大の謎 ラ・トゥール畢生の名画を探し出せ!
三十年前、謎の自殺を遂げた天才画家・鷲沢絖。その妻の死体が、鷲沢邸から発見された。遺産相続人として母を指名された高林紗貴は、屋敷からある絵画がなくなっていることに気づく。作者はジョルジュ・ド・ラ・トゥール、フランス絵画史における最も謎めいた画家。計り知れない価値を秘めたその絵画の行方を探り始めた紗貴だったが、同時に周辺で不気味な出来事が起こり始める。
内容(「BOOK」データベースより)
三十年前、顔を切り裂き、謎の自殺を遂げた天才画家・鷲沢絖。その妻の死体が、今ではゴミ屋敷と呼ばれている鷲沢邸から発見された。しかもその顔はどす黒く変色し、どろりと溶けていた。遺産相続人として母を指名された高林紗貴は、屋敷からある絵画がなくなっていることに気づく。作者はジョルジュ・ド・ラ・トゥール、約二百六十年の長きにわたり忘れ去られていた、フランス絵画史における最も謎めいた画家。計り知れない価値を秘めたその絵画の行方を探り始めた紗貴だったが、同時に周辺で不気味な出来事が起こり始める。年若い紗貴の恋人、相続を巡りライバル関係にある青年、姿を消してしまった絵画コレクターの父。いったい誰が味方で誰が敵なのか。ラ・トゥールと、見る者の心を揺さぶる鷲沢絖の断筆「顔を引き裂かれた自画像」。―これらの絵画に隠された真実とは。
投稿元:
レビューを見る
名画を巡るミステリ。どうも終結がごちゃごちゃっとした感はあるけれど、スピーディな展開でさくっと読める作品。
「名画の隠し場所」ってのがメインといえばメインの謎かな。だけど一番「やられた!」と思ったのは、ラストで犯人と対峙する主人公の狙い。まさかこんなにしたたかだったとはね~。
投稿元:
レビューを見る
うーん…なんていうか…。
あらゆることが想定内でシタ。
どうせなら主人公がもっとえげつないこと
やってくれたら良かったのにw
投稿元:
レビューを見る
内容はまさしく金と欲といった人間の心の奥底を映し出したような、複雑で、それでいてシンプルな内容でした。人間には両極の想いがあって、ふとした時にそれが現れるのですね。やはり一番人間が怖いです。
投稿元:
レビューを見る
ラ・トゥールの「いかさま師」自体が大好きな絵なのでそれに惹かれて読了。
さくっと読みやすいし、トリックもそこそこな印象。
だけれど、作中で描写されている絵が見てみたくなる…。
そういう意味で美術ミステリとしては大成功かと。
投稿元:
レビューを見る
遺産として残された絵画をめぐる争いの話。あっちこっちに話が広がって散らかったまま、気づいたら終わっていた。
投稿元:
レビューを見る
作品解説(カバーより):三十年前、顔を切り裂き、謎の自殺を遂げた天才画家・鷲沢絖。その妻の死体が、今ではゴミ屋敷と呼ばれている鷲沢邸から発見された。しかもその顔はどす黒く変色し、どろりと溶けていた。遺産相続人として母を指名された高林紗貴は、屋敷からある絵画がなくなっていることに気づく。作者はジョルジュ・ド・ラ・トゥール、約二百六十年の長きにわたり忘れ去られていた、フランス絵画史における最も謎めいた画家。計り知れない価値を秘めたその絵画の行方を探り始めた紗貴だったが、同時に周辺で不気味な出来事が起こり始める。年若い紗貴の恋人、相続を巡りライバル関係にある青年、姿を消してしまった絵画コレクターの父。いったい誰が味方で誰が敵なのか。ラ・トゥールと、見る者の心を揺さぶる鷲沢絖の断筆「顔を引き裂かれた自画像」。――これらの絵画に隠された真実とは。
この作品では絵画を題材に扱う難しさがにじみ出ています。単純に言えば「絵画」イコール「色彩や構成を愛でて楽しむもの」なので、この作品ではそれらをいかに上手く表現できるかが重要になります。しかし、「天才的な才能を持つ」鷲沢絖の描いた絵の素晴らしさが全く伝わってきませんでした。
フェアな展開とは言い難く、役者が出揃うのも遅いため悶々とさせられますし、ある程度ミステリーを読んでいる方なら容易に犯人像が割り出せることと思います。
「表」と「裏」に分かれた作品構成の「裏」の部分は楽しめましたが、それでもタイトル負けしてる印象は拭えませんでした。
投稿元:
レビューを見る
+++
三十年前、顔を切り裂き、謎の自殺を遂げた天才画家・鷲沢絖。その妻の死体が、今ではゴミ屋敷と呼ばれている鷲沢邸から発見された。しかもその顔はどす黒く変色し、どろりと溶けていた。遺産相続人として母を指名された高林紗貴は、屋敷からある絵画がなくなっていることに気づく。作者はジョルジュ・ド・ラ・トゥール、約二百六十年の長きにわたり忘れ去られていた、フランス絵画史における最も謎めいた画家。計り知れない価値を秘めたその絵画の行方を探り始めた紗貴だったが、同時に周辺で不気味な出来事が起こり始める。年若い紗貴の恋人、相続を巡りライバル関係にある青年、姿を消してしまった絵画コレクターの父。いったい誰が味方で誰が敵なのか。ラ・トゥールと、見る者の心を揺さぶる鷲沢絖の断筆「顔を引き裂かれた自画像」。―これらの絵画に隠された真実とは。
+++
タイトルの「いかさま師」はラトゥールの絵のタイトルなのだが、物語そのものを絶妙に表していて見事である。天才画家の遺産相続に関わる一連の流れと、彼の半生にかかわった人々が抱えることになった事々、そして、血のつながりと欲。興味深い要素がたくさんありすぎるが、それらがきっちりと太い流れになっている印象である。誰を信じればいいのか、誰が味方で誰が敵なのか、そもそも味方など誰ひとりいないのか。次々に奥の手やら隠し技やらが出てくるので、常に気を抜けない展開が続くのである。結局は、作品にとっていちばんいいところに落ち着いたとは言えるのかもしれない。先が愉しみで、ページを繰る手が止まらない一冊だった。
投稿元:
レビューを見る
シチュエーション的には面白いはずなんだけど、最後までのめり込めないまま終わってしまったのはなぜなんだろう。人物にあまり共感できなかったせいか?