紙の本
ドキュメンタリー番組をみるような感覚で、日本の医療問題を俯瞰する。
2010/12/26 17:29
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「救急車の受け入れ拒否」「医療事故裁判」。医療問題で記憶に浮かぶニュースには事欠かない。本書の帯には「急病になったとき、かかりつけの病院はあなたを診てくれない」とあるが、その不安を実際に感じている人も少なくないだろう。以前「医療崩壊」(朝日新聞社、2006)を本書評欄で紹介したことがあったが、本書はその続編的な内容であり、さらにわかりやすい一冊である。しかし「医療崩壊」が著されたころから、どれだけ状況は改善されただろうか。読後感はあまり明るくはならなかった。
2008年のTV番組をもとに、それぞれの章を現場取材のルポ風に書き始め、解説でまとめている。NHK取材班というTV局のスタッフらしいまとめ方で、ドキュメンタリーを見るような感覚で読めるわかりやすさである。救急医療現場や開業コンサルタント事情、ドイツやイギリスの政策などを読み進むうちに、全体像としての日本の医療の状況がみえてくる。
本書では、現在の日本の医療問題の原因の一つとして2004年に始まった「臨床研修制度」スタートをあげている。それまでの医局方式にあった問題点をなくすための制度改革ではあったのだろうが、「希望者が偏る」という別の問題が起こったのである。たしかに、「重要ではあるが責任も重く、厳しい」小児科医が減少しているのは「こんな辛い職場では」と研修で現場をみてあきらめる研修生も多いからだと聞く。医学生の制度の変更など自分の生活にはかかわりないだろうと、制度の変更のニュースなども耳を通り抜けていたのだが、こうやって繋がっているといわれるとなるほどと思う。
「医師が足りないのではなく偏在している」という基本的な問題の陰には「医師も人間だ」ということが隠れている。「辛い仕事はしたくない」「束縛されたくない」などは誰でも持っている「本能」のようなものではないだろうか。これを考えていくと、医療だけでなく教育や官僚の問題にも共通するものを強く感じる。「聖職」という、今では「死語」のような言葉で呼ばれていた医師、教師。彼らに一方的に「無私の奉仕」を望むのではない形で最良の医療(教育もだろう)を実行するためにはどうすればいいかを考えねばならないのだと思う。
この問題は医師側の問題だけでなく、「救急車をタクシー代わりに使う」などの「診てもらえて当然」と考える患者側の問題にもなるのだろう。教育の分野では教師側の問題以外にもモンスター・ペアレントに代表される保護者側の問題もある、というのとこれも似ている。
本書内にも「性善説で成り立っている制度」というような表現が再三でて来るのだが、性善説を信じていても「そうではない人間もいる」ことを念頭に、さまざまなことに対処して行かなくてはいけないのが現状なのだろう。寂しいことではあるが、他人事ではない。自分自身の「できるだけ楽に、自由に」の志向も、どこかでは我慢しどこかでは主張し、社会人としてある意味トレードを常に考えなくてはいけないのではないだろうか。「権利と義務」の一方だけ望むことは許されないのである。
イギリス、ドイツの政策も説明されている。国によってそれまでの経緯が違うので同じ方法をとることはできないだろうが、理解の参考にはなる。
問題解決の方法については、検討がまだまだ足りないと感じた。最終章では「家庭医」に解決の方法を見出したいという期待が書かれているのだが、住所の定まらない人たち(転勤などで一箇所に留まれない職業の人など)のフォローの問題、全般的な知識を持ち地方にも勤務することでやっていけるかどうかという医師側の問題など、書かれていない問題点は多数ある。
ともあれ、このままでは「医大卒業者は増えても、救急医や地方の医師は増えない。その一方ホテル並の病院などが誕生する」といういびつな医療状況が進むことは想像に難くない。事故がおき、ニュースになったときだけ心配するような感も多い医療問題であるが、真剣に「明日は我が身」で考えねばならない問題だと思う。本書は全体像を理解するよい手助けになるだろう。
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『世界に冠たる「医療先進国」はなぜ失われたのか。』その疑問にNHKの取材陣が迫るものです。医療が崩壊する、というのはこういうことなのだという現実が、鋭く突き刺さってきます。
僕が日ごろこのほかにも運営しているブログやSNSで交流のある人の中にも医者、特に女性の医者が多いんで、それだからころ余計にこの本を見てショックだったんですけれど、現場で働く医者、特に大病院で働く勤務医の勤務実態ってメチャクチャ過酷ですね。読んでいて唖然としましたよ。その中でも群を抜いて産婦人科と小児科は勤務状態が 過酷そのものであることと、産婦人科は訴訟のリスクがほかの科に比べて突出して多く、そして小児科は子供を相手にするのだから、へとへとになるのだと。
さらに当直、当直、また当直で、家に帰る事ができないんだと。ある医者は3日連続当直だということを漏らしていましたね。で、過酷な勤務に疲れ果てた勤務医が独立して、残った人間の仕事がますます増えていくと言う悪循環。それで救急患者を受け入れることができないなど、医療の現場から悲鳴が聞こえてくるような内容の本でした。
現場の声を知りたいと思う方は、ぜひ一度手にとって、読んでいただきたい本だと思っています。
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医療崩壊の対策として医師の計画配置と家庭医育成を挙げている。財源論はなし。参考に挙げた他国の制度に関しても,デメリットの説明が不充分。
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僕は小学生の頃、何度が入院をしていました。
その時にお世話になった医師や看護婦さん(当時の呼び方で)には本当に感謝しています。
そんな経験があるためか、最近聞こえてくる医療問題が気になります。
みんなが安心して医療を受けられる国であってほしいと思っているのです。
この本は、日本が抱えている医療問題の原因を明らかにし、その解決策を探る、という内容です。
イギリスではブレア首相が大幅な医師の増員と医療予算の拡大を図りました。
そして、増員した医師を計画的に医師の不足している地域に配置しました。
イギリスには、医師の配置計画を担う「戦略保健局 SHA」という政府機関があるのです。
さらにブレア首相は「医療の質」を高めるために、国による評価と情報公開を求めました。その結果、どの診療所でも最低限の医療水準が満たされるようになったそうです。
ドイツでは、病気を幅広く診断できる「家庭医」を専門の資格として認めています。
「家庭医」は子どもからお年寄りまで地域の住民の健康を管理し、日常の病気を幅広く診断します。専門的な治療が必要であれば、専門の病院に紹介します。
地域に根ざしている「家庭医」の存在は、住民にとって心強いのではないかと僕は思いました。
さらに、医師の地域的偏在を避けるため、地域ごとに適切な医師数を定め、その枠を1割以上超えると開業が認められない仕組みになっています。
著者が述べているのですが「医師の地域的偏在を避ける」という考え方を日本にも取り入れると、患者にとってのメリットは大きいのではないのでしょうか。
著者はNHK「週間こどもニュース」のキャスター。
難しいニュースを分かりやすく伝える「週間こどもニュース」のコンセプトは、この本にも活かされています。
読みやすく、分かりやすい本でした。
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医師数自体は実は増えており、救急患者のたらい回しの最たる原因は昼と夜の医師の偏在、地域的偏在、診療科の偏在にあること。臨床研修制度の功罪。勤務医に疲弊しどんどん開業医が増えており、これが勤務医の環境を苛酷なものに追いやっていること。どんなにひどい診療を施していてもなかなか起訴できない国情。ヨーロッパの医療制度改革。そして奈良県の医療改革の挑戦。医療崩壊の現状と対応について最新情報を提供してくれる。とりわけドイツの医療改革は今後の日本の医療の在り方を考えるうえで大変参考になった。著者は週刊子供ニュースのキャスター。非常にわかりやすい。小説を読んでいるような面白みがあり、些かも倦むことなく読める。
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ルポのいい面で、想像できない実態のわかりやすさがよかった。
そして暗い面もどんどん突っ込んでくれるので。
以下はメモ-----
医師をただ増やすだけで医師不足は解決しない
救急車で運ばれる場合、よほど明らかな重症でない限り、その殆どは二次救急病院に運ばれる
東京都二次救急病院数
1998年:411→2008:335
救急搬送された患者数
30%増加
西東京市の例
昼と夜の医師の偏在
・夕方6時までには診療所はほぼ全てが閉まる
・夕方8時以降は4つの救急病院のみになり患者が殺到
開業医が増え、自分の生活を優先する傾向
それでも医師数は増えている
2008年 27万人
→30年前の約2倍
→10年前の+35000人
不足の原因
・医療の進歩
・インフォームド・コンセント
・女性医師が増えている(のに、環境が整っていない)
・病床数が医師数に比べ多い
医師の70%は勤務医
病院の責任は問えるか
山本病院
「心臓カテーテル検査」「ステント留置術」
明らかに健康で必要のない患者に危険を伴う行為
説明もなく、患者側も生活保護者故、病院のほうが暮らしやすい
それでも詐欺容疑で傷害容疑では立件できなかった。
良性腫瘍のある肝臓を摘出して患者を死なせた
→業務上過失致死。止まり。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E7%97%85%E9%99%A2%E4%BA%8B%E4%BB%B6
http://jaguarwarrior.web.fc2.com/mirror/yamamoto/
大野病院事件
医学書に載っていることは医師はそのぐらい知っておくべきか
交通事故でも業務上過失致死で逮捕(医者は逮捕されないのか?
イギリスの医療制度
専門機関が若い医師の病院への振り分けを行う
政府が10年先の医師数まで予想して調整する
医療は「国」のサービス
早期癌でも家庭医にみてもらうまでは専門医にみてもらえない
ドイツの医療制度
開業する場所は開業医団体から認可がいる
→枠が空いていなければ開業できない
夜間救急・休日診療の参加が義務
68歳定年→開業の枠は空く
両国とも医療は国民みんなの財産という意識があり、
医者側にも公共性が求められる
地域医療
病院へ医者を集中させる必要性
→診ている患者をおいて簡単に転院はできない
鳥の目で見る必要がある
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なぜ、日本の医療が崩壊へと向かっているのか?をわかりやすく解説した本。
さすがに、NHK取材班の本だけのことはあり、丁寧な解説もありわかりやすい。
近年、厚労省も危機感を抱いているらしいが、どのように改善されているのか、継続取材をしているなら、続編も読んでみたい。
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医療は問題山積です。
病院たらい回し事件の裏には救急医療体制の貧困さが見えます。
これに対して多くの医療関係者が医師不足という言葉を用いています。
しかし医師不足というのは、不適切な言葉で医師の偏在というのが当たっています。
医師不足という認識で医師を増やし続ける政策を進めると、後でとんでもないツケが回ってくることになります。
新設医大など一度創設してしまうと後戻りはできません。
すでに2008年より医学部定員数は増やし年間8560人の医師が誕生しています。
2005年の定員数より1200名も増えており、新設医大10校分の医師育成が既存の大学でできているわけですから。
それでは医師偏在をどのように対処すればよいのでしょうか。
日本の医師の自由度に問題があるのでしょう。
http://ameblo.jp/nancli/entry-11624707793.html
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少し前まで世界最高レベルとされた日本の医療が、いま、崩壊の危機に瀕している。世界に冠たる「医療先進国」はなぜ失われたのかを取材。
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週間こどもニュースのプロデューサーの文字にひかれて手にした本。
この本が出てから10年たっているが、どのくらい良い方向へ舵取りできたのだろうか。