紙の本
月明かりの愛おしさ
2022/11/13 18:12
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
スズキコージさんの絵が最高に素晴らしい(好みは分かれるでしょう)絵本です。
月明かりのひととき、その愛おしさを表現したなんてことのないストーリーに思えますが、ロバのロシナンテはじめ、キャラのにじむ登場人物の表情と、月明かりの美しさに惹きつけられます。
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スズキコージかけ出し時代の作品がようやく傑作集入り。青の濃淡だけでえがかれた不思議な雰囲気、迫力あるロバの表情に、幼い心が釘付けになったことを思い出す。
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おつきさんの ひかりの したで、うまのロシナンテは てがみを かいていました。ところが よふかししていた ギューリーちゃんと ねこのダイナと いぬのイワンが、おつきさんのことを あんまり みつめるので、 おつきさんは はずかしくなって くもに かくれてしまいます。くらくて てがみが かけなくなった ロシナンテは…。スズキコージさんの1977年刊の絵本が復刊されました。青い月の光にてらされた風景や、表情豊かなロシナンテがすてきです。
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ギューリーちゃんは、多分ロマ民族なんだらう。なんかそんな感じ。
馬のロシナンテが、ギター弾くとか手紙を書くとか、えー、特に違和感ないけど。
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この絵本は、
『こどものとも700号記念コレクション20』
として、2014年に復刻した、1977年の作品です。
スズキコージさんについて、ブク友の111108さんの『母の友』のレビューで興味を持ち、更にその4月号での、コージさんと鬼頭さんの対談の中で登場した、コージさんに対する、あの質問の内容(鬼頭さんではありませんよ)は今でも忘れられない。
『あなたは本当にこれを子どものためにと思って書いているんですか?』
言いたいことはたくさんありますが、取りあえず、三つにまとめると、子どものためになるのかどうかを決めるのは、親ではなく子ども自身だと思いますし、絵本は『~のため』だけではなく、『好きになる』ことも、子どもには大切だと思いますし、そもそも、子どもの絵本を描かれている時点で、子どものために書いているのだと思いませんか?
そして、私の以前の感想でも書いたように、子どものためにと思って書いた絵本の正解なんて無いと思いますし、それこそ、子どもの数だけ無限大にあって、それぞれに子どもの素敵な個性が表れているのだと思いたい。
前置きが長くなりましたが、それならば確かめてみようと、せっかくなので絵だけでなく、物語も書かれていたものを選びました。質問の『これを』は、本書では無いのかもしれませんが、質問自体に、コージさん自身への非難の意図を感じられたので、気にしておりません。悪しからず。
まずは扉絵に描かれた絵を見ると、どうやら馬車で旅をしているのが分かるが、その組み合わせが妙で、女の子と馬と猫と、最後は犬かな?
どうやって知り合ったのか気になるが、本編へ。
ページを開いて圧倒されるのは、版画で描かれたような独特な模様と凹凸感に、それらを一つ一つ丹念に描いたのであろう、絵への飽くなきこだわりに加えて、青系統の色で統一された、夜ならではの独特な幻想的美しさと、穏やかな静謐さの漂う光景は、雄大ながらも、そこに住む人々と深く密着した、素朴な優しさの滲む、東ヨーロッパの森のようだ。
そして、そんな光景をほのかに明るく照らしているのは、おつきさん。
『あるばん、おつきさんが、しずかに おどりながら、のはらを あかるく てらしていました』
絵だけ見ると、踊っているかどうか分からないけれど、何か楽しい気分なのかもしれない。
『その ひかりのなかで、うまの ロシナンテが、おばあさんに てがみを かいていました』
その通り、馬が人間みたいに木箱に座って手紙を書いてるよ。しかも、そのかしこまった座り方、ちょっと可愛いかも。しかし、おばあさんに手紙を書いているという、その対照性に、何とも言えない味があるな。
『あまり おつきさんが あかるく てらすので、ばしゃのなかで ねていた ギューリーちゃんは、めを さまして、まんまるい おつきさんを じっと みました』
ここで、女の子が初登場して、これまでの外の景色から一転して、馬車の中の窓から、おつきさんを眺める視点に変わる。
目が覚めるくらいの明るさだから、余程なんだね。
もしかしたら、ロシナンテの為にそうしてるのかも・・
『ねこの ダイナも めを さまして、まんまるい おつきさんを じっと みました』
あらら、床に寝ていた猫まで起きてきた。
『いぬの イワンも めを さまして、まんまるい おつきさんを じっと みました』
・・まあ、こうなるよね(笑)
しかし、いつもより明るいってだけで、そんなにおつきさん見たくなる?
『おつきさんは、くものカーテンを ひいて、かくれてしまいました』
隠れたというよりは、ちょうど雲が移動してきて、月にかかっただけなのかもしれないが、この物語に於いては、最初に『おつきさんが、しずかに おどりながら』と書いている時点で、おつきさん自体に、人間や動物たちと同じような感情があるのだろうと思えるから、こういう表現なのでしょう。
実際にちょっと月が隠れただけで、絵の青味も暗くなっていて、こうしたところにも丁寧さが。
『すると、ロシナンテは、
「おつきさん、おつきさん。くもの カーテンを どけておくれよ。おばあさんに だす てがみが、くらくて かけないよ」と、いいました』
まあ、気持ちは分かるよ。でも待ってれば、そのうち雲から抜け出してくると思うけどね。いくら私が感情があるのだろうと書いたって、それに月が答えてくれるわけないでしょうに。
『でも、おつきさんは、
「だって、ギューリーちゃんと ダイナと イワンが、わたしのことを じーっと みているんだもの」と、いいました』
うわっ、本当に答えた!
しかも、雲の影響関係ないし、何気にギューリーちゃんたちの名前まで知ってるし。あなたたち、もしかして親友同士?
でも、あなたがそれだけ明るく照らすから、みんなつい見てしまうんだし、しょうがないんじゃないの。ということは、やはりロシナンテの為か。
ただ、この後の展開は衝撃的ですよ。
『ロシナンテは、まどのそばまで いって、「こんな よふけまで おきているのは、どこの どいつだあ」と、いいました』
『ギューリーちゃんと ダイナと イワンは、びっくりして ベッドに もぐりこみました』
あはははは!!
いくら、いきなりとはいえ、普段一緒にいるロシナンテに、ここまで驚くかね。これは面白いな。
しかもベッドへ潜り込む三人の絵が、まるで、真の恐怖から必死で隠れようとしているような慌てぶりの中、してやったりのロシナンテのドヤ顔、ていうか、夜更けまで起きてるどこのどいつは、あんたもそうだからね(笑) 自分のこと差し置いて、全く。
と思ってたら・・ここからは心と体の赴くままに楽しみましょう。
『ロシナンテは、かべに かかっていた ギターを てにとると、』
『「おつきさん、でてきておくれ。くらくて てがみが かけないよ」と いって、ギターを ひきはじめました』
こらこら、そんなことしたら、驚いたギューリーちゃんたちが眠れなくなるだろ。
『ばしゃのなかの ギューリーちゃんと ダイナと イワンは、ギターを ききながら、いつのまにか ねてしまいました』
あっ、眠れるんだ(笑)
しかも、三人ともいい寝顔してて、どれだけロシナンテの音楽センスいいんだ。
でも、寝ている三人の側の開いてる窓から、ギターを弾いてるロシナンテの姿が少しだけ見えるのが、何だか可笑しいんだよね。
『ロシナンテの ギターを きいて、おつきさんは、くもの カーテンから でてきました』
話自体は、大したことなさそうなんだけど、ここを読むと、何故かほろっときてしまう。
おつきさんの気持ちで考えてみると、皆のために、暗い夜をなんとか明るく照らそうとしてくれるけど、実際はとても恥ずかしがり屋という、まるで人間のような個性であるが、そこはロシナンテも同じで、理由はあくまで手紙なんだろうけど、ギターを弾いて歌い、おつきさんを励ましている姿には、何か共に生きているもの同士が、お互いに支え合って共存し合えることの素晴らしさを見せてくれたようで、私の中で勝手に月の事を、孤高な存在だと思っていたけど、そうじゃなかったんだね。
タイトルの洋題は『THE MOON DANCE』。
コージさんから見た月というのは、もしかしたら、このように静かに踊り続けていると感じることで、月も、心を持ってささやかに生きているんだよということを、私に教えてくれたのかもしれない。
そんなことを知ってから、改めて表紙を見ると、今度はロシナンテも加わって、四人でおつきさんを眺めているようであり、表紙からは見えないけれど、私には、この時のおつきさんが、はたしてどんな表情をしているのか想像するのが楽しくて、想像しては、ついほくそ笑んでしまうのである。
・・・あっ、しまった。
確かめてみようとか書いといて、思い切り楽しんでしまった(笑)
まあ、こういうもんだと思いますよ、絵本って。