紙の本
3部作の最後
2016/08/11 15:15
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投稿者:しゅん - この投稿者のレビュー一覧を見る
地形で解けるの完結編。
1作目の視点が面白く、次々と読んだが1作目ほどの興味は引かない。
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読書をしていて楽しいのは、この人の考え方が私が求めていたものだと実感できる時で、この本の著者である竹村氏の新作を先週本屋さんで見つけたときは嬉しかったです。
この本は「日本史の謎は地形で解ける」シリーズの三部作目です。今回は、環境・民族編の視点から纏められていて全部で18章もあり盛りだくさんです。
どの章も面白かったのですが、特に印象的だったのは17章の「なぜ日本語は分裂しなかったのか」という回答として「参勤交代」をあげていて(p375)、どの藩の殿様も江戸の言葉を話すので、方言レベルにとどまったというものです。
彼は明言していませんが、欧州でラテン語から各言語に別れてしまったように、また、中国においても同様かもしれません。彼らは同じ漢字を使うものの、使う言語はかなり違うようですが、これが自然の流れで、300以上の藩に分かれていた江戸時代を通しても言葉が分かれなかった理由として、私はすんなりと理解できました。
また、江戸時代における治水工事(洪水からいかに住宅地を守るか)と現代の考え方が異なるので、都内の川の堤防がなぜあんなに高いのかが理解できました。今後も竹村氏の本には注目していきたいです。
以下は気になったポイントです。
・洪水が氾濫を繰り返していると、ある場所で流れがよどむ箇所がでてきて土砂が沈降、堆積していく。そして大湿地帯の中に州(洲=す)ができる。清洲は濃尾平野における洲であった(p18)
・湿地帯では馬は走り回れないので、洲が騎馬軍団に急襲されることはけしてない。大軍の歩兵も同様(p40)
・幼年時代を過ごした津島の風景が、信長の原風景となり安土山に城を建設した。しかし他の大名はそこに魅力を感じなかった(p47)
・徳川幕府は武家諸法度で城の修繕などは細かく規制したが、治水工事については規制も禁止もしなかった(p54)
・信濃川の洪水の水位を少しでも低くする必要性のためから、2本目の分水路である関屋分水路が建設されることになった、1968年起工で1972年竣工である(p58)
・家康が行った利根川の治水事業は、関東平野を洪水から守ることではなく、関東の湿地の水を抜いて湿地を乾かして乾田化して肥沃な土地を生み出すことにあった、信濃川2本目の分水路も同じ役目(p70、71)
・天下を制した家康は、戦国大名を「流域」に押し込めた、流域内で河川改修をおこない開墾、干拓を行って豊かになることができた、流域封建体制である(p76)
・遠浅は、鉄壁の防御海岸である。戦う船団の最大の敵は、遠浅の海岸である。船団で陸を攻めるには、接岸できる岸壁が必要(p85)
・徳川の終の棲家であった駿府は、鎌倉と同様に地形に防御されていた。前面の遠浅海岸と、背後の険しい山々で防御されていた。東と西は海まで張り出した尾根で厳重に防御されていた(p91)
・陸上生活で困るのは、食物は空気に触れると腐るということ。この判断は生死にかかわる。食物腐敗の認知に、視覚・聴覚・触覚はほとんど役に立たない���で、別の味覚である嗅覚が重要になり、陸上動物の鼻と口は一体の役割となった(p101)
・江戸の町では、し尿と生ゴミは廃棄物ではなく、金銭に換えられる貴重な肥料であった、一方、パリやロンドンは臭い街、パリで香水文化が生まれた原点、17世紀に登場したハイヒールも道路の糞尿をさけるため(p103,105)
・明治になり人口急増した東京はリサイクル都市が崩壊して、疫病が蔓延した。そのため下水道を建設する必要が生じた、町の人が排泄するし尿の受け皿としての農地が減ったことも原因(p108,110)
・有機栽培農業で必要な、カリ・チッソは堆肥でまかなえるが、リンは不足するのでリン鉱石による化学肥料が必要。しかし冬みず田んぼでは、そのリンが鳥たちの糞でまかなえる(p125)
・水を張った田んぼには多くの微生物が発生する、イトミミズの糞尿により泥と混ざることで粒子の細かなトロトロ層が形成され、雑草の種が層の下方に沈み込んで発芽できなくなる(p129)
・日本の国土面積は世界陸地の0.3%だが、大地震の20%、活火山の10%を受け持っている(p141)
・日本列島の地形・気象の特徴として、1)南北3000Kmと細長い、2)中央に脊梁山脈が走っている、3)季節が1年中変化するモンスーン帯の北端にある(p144)
・山脈と海峡・川によって地形が分断、季節によって著しく変化する日本列島、この多様性が文明存亡から救ってくれた(p146)
・明暦の大火(1657)は、当時50万人以下の江戸で火災死者数10万人以上という、すさまじい災害であった。関東大震災(6万人)、東京大空襲(10万人)と比較しても最大級。江戸の復興において、江戸城の天守閣を再建せずに、広小路の建設・玉川上水の建設・両国橋の架橋が行われた(p157)
・江戸時代は二段構えの堤防であった、万一、川に近い第一番目の堤防が決壊しても、2つの堤防の間の田畑で洪水は分散して流れる、なのでその田畑は年貢なしであった(p169)
・正倉院の宝物が守られた理由は、日本人の道徳心・倫理観からではなく、奈良の密集した町屋と、狭い路地、そこに住む人々の存在であった(p194)
・日本人は馬や牛を道具として扱わなかった、名前をつけて家族の一員として扱った、家族になれば当然、去勢をほどこすなどはできなかった。江戸幕府が牛車を規制したのは危険だったから(p208,212)
・旅人は真っ暗にならないうちに泊まらせるために、追いはぎ話を、使った。14日の旅路に53もの宿場があり客取り合戦が厳しかった(p230)
・明治2年に都が京都から東京へ遷都した、衰退していく京都の産業を振興させようと琵琶湖からの疎水事業が計画された、1891年(明治24)に蹴上発電所が完成し、1895年には京都市内で日本初の電気の路面電車が運行した、これが牛馬から電気に移行した決定的瞬間であった(p248,251)
・大阪で5・10日に渋滞する理由は、商売相手の顔を見に行くため。信用を交換する決済日となっている(p261,262)
・情報を削るには2つの条件が必要、1)専門分野に関する深い見識、2)社会に関する広い知識と経験(p301)
・6000年前の縄文海進期の気温は現在比較で2℃高かったが、海面は5-7mも高かった、つまり日本の平野部はすべて海面下であった(p345)
・日本中の原子力発電所により1年間に発電された電力量から計算すると、全国で年間680億m3が排水(7℃温められて毎秒70m3で排水)、これは利根川の約7年分(p353)
・中国には漢字造語の専門機関があり、1年間で1000語作っている、日本語は、漢字・ひらがな・カタカナ・アラビア数字・アルファベットの5種類で、外国語はひとまず、そのままカタカタかアルファベット表記にする(p371)
・世界第一言語の人口割合、1位:北京語(14)、以下、スペイン(5)、英語(4.8)、ヒンディー(2.8)、日本語は8位(1.99%)である(p373)
・津軽弁、薩摩弁などの各地の方言は一方言にとどまり、江戸から独立した言葉へ進化しなかった、なにしろ領主様が江戸の言葉で話すので(p378)
2014年7月12日作成
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シリーズ三作目なので、そろそろ飽きるかなとも
思いましたが。中には面白い内容も。。
9章「なぜ江戸時代には、車の動力が「人間」に退化したか」
10章「なぜ9歳の本因坊秀策は「東海道を一人旅」できたか」
12章「なぜ大阪の街は「五十日」渋滞が名物なのか」
13章「なぜ大阪は日本の「都市の原点」であり続けるか」
17章「なぜ日本語は「分裂」せず、現代まで生き残ったか」
最終章の「なぜ日本は「100年後の未来」にも希望があるか」は、あまりにも楽観的な考えであるのではと思うところもありますが、日本の明るい未来はまだある可能性を示唆しているのではと思います。
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2014/7/16購入。
購入してから随分と時間がかかってしまった。
文句無く、最高の3部作の最期でした。
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歴史は、その時代に立ち戻って考察されるべきものだが、現代から過去の事象をとらえがちなのも事実。「当時の地形、認識がどうだったか、という観点で考えると、違った見解が出てくる」という本シリーズお約束のパターンではあるが、やはり歴史と向き合う観点の重要性がわかる。
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日本史の謎は地形で解ける第三弾。家康は駿府を終の棲家としたのはなぜか?かつての日本人は胸までつかって田植えをしていた。正倉院の神秘の宝物が盗掘されなかったのは奈良は日本史の交流軸からはずれただけではなく、密集した町屋と、狭い路地と、そこに住む人々の存在のため。ローマ街道をはじめ、西欧人の馬車や牛車から自動車への進化は必然の現象。日本では馬、牛を家族同然に扱ったため、車文明の構築に失敗した話は想像の域を出ないと思うがおもしろかった。
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3部作完結!?
なぜ織田信長は安土の小島に壮大な城を築いたか。なぜ江戸城の天守閣は再建されなかったか。
が、特に興味深かった。
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シリーズ3作目、これで最後と思うとちょっと残念。
それだけエキサイティングなものでした。
流石に3作目となると所謂インパクトは1、2に及ばないが深みのある考察や発想の仕方はとても参考になります。
3作を通じて筆者の色々な主張の一つのテーマは 日本が湿地帯である。ということのようです。これが様々な思いもよらないレベルの事象を(ある程度)説明できると。この本での最後の章は 少子化や温暖化について言及しています。う〜む、なるほどそういう見方か、、、
まあ、良い意味で目から鱗の考察。なんかもやもや感がエンカレッジされる そんなシリーズ最後の本でした。
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シリーズ第3作
前作、前々作ほどのインパクトはなかったような印象ですが、過去の歴史を地形と気象から解説した著書は、日本人の性格的な特徴を紹介しているのは非常に納得性が高く、理解しやすい。そんな著者が日本の未来は明るいと説いているのは、将来に希望が持てるものといえます。
<目次>
なぜ信長は「安土の小島」に壮大な城を築いたか―水面と湿地に刻まれた「原風景」
なぜ「日本の稲作文明」は湿地帯を克服できたか―田植えは「胸まで浸かる」もの
なぜ家康は「街道筋の駿府」を終の棲家に選んだか―最後まで頼朝に学んだ「鎌倉の相似形」
なぜ世界一の「リサイクル都市」江戸は崩壊したか―近代下水道と「におい」の追放
なぜ日本列島は「生きたリン鉱脈」の宝庫なのか―受け継がれる「天然の肥料工場」
なぜ江戸城の「天守閣」は再建されなかったか―「過去の幻」と「未来への洞察」
なぜ勝海舟は「治水と堤防」で明治新政府に怒ったか―沖積平野に潜む「八岐の大蛇」
なぜ正倉院の「神秘の宝物」は盗掘されなかったか―「肩を寄せ合う」濃密な奈良の迷路
なぜ江戸時代には、車の動力が「人間」に退化したか―「道路後進国」1000年の空白
なぜ9歳の本因坊秀策は「東海道を一人旅」できたか―江戸の「追いはぎ」「雲助」の謎
なぜ京都が日本の「線路誕生の地」となったか―「車石」がもたらした交通革命
なぜ大阪の街は「五・十日」渋滞が名物なのか―「不合理」に息づく商売の原点
なぜ大阪は日本の「都市の原点」であり続けるか―「空間・歴史・人情」の密度の濃さ
なぜ「間引きされた地図」は伝える力を高めるか―情報を「削り取る」高度な知的作業
なぜ「世界屈指の雪国」で高度文明が創られたか―「島」と「雪」が日本人を閉じこめた
なぜ日本文明は「海面上昇」でも存続できるか―温暖化で30m上昇した「if」
なぜ日本語は「分裂」せず、現代まで生き残ったか―参勤交代が生んだ「束ねる力」
なぜ日本は「100年後の未来」にも希望があるか―「縮小」に打ち克つ日本史の知恵
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○元国交省職員で、土木の現場を渡り歩いた竹村氏の作品。
○地形をもとに、歴史を考察する作品の第2弾。
○独自の視点が魅力的で、有名な歴史上の出来事も、新しいものに感じられる。
○次の作品も楽しみ。
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第三部ということで、多少前作よりインパクトや根拠に欠ける話も多いけど相変わらず面白い。
信長が安土に城を築いたのは彼の原風景が津島だった。胸まで浸かってやってた稲作。海水温度の上昇に原発の温めれた水の放出が関係してること。大阪の五十日。奈良の正倉院で盗みがなかったのは濃密な街だったから、などなど。
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元・建設官僚で、主に治水行政を担当した著者によるシリーズ第3巻。相変わらずの「言ったもの勝ち」な内容で、学術的な考証も全くなされていないけれど、書いてあることは面白いし、半分くらいは正しいと思う。日本は長らく水運の国だったので、現代人の常識からは想像すらできないことが多く、著者のような河川土木工学のエキスパートが歴史の解釈に一石を投じることは意義深い。
個人的には、駿府の地形が鎌倉と瓜二つだという指摘と、昔の沼地は胸まで水に浸かるという指摘が興味深かった。前者は、徳川家康が「吾妻鏡」を徹底的に研究したことの証であり、「遠浅の海」が天然の要害であることを教えてくれる。後者は「沼地の平城は難攻不落」であることを具体的にイメージできるところが良い(実際に胸まで水に浸かって田植えをする写真が掲載されており、これには驚かされた)。
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戦で守りを考える際、湿地が有効であるなど、知らなかった雑学が得られる点では面白い。しかし、著者は歴史の専門家ではなく、考察が甘い。論拠の強引さが目立ったり、食料事情から人口減少を歓迎するような暴論を発したりもする。率直に言うと、突っ込みどころが多い。歴史を趣味としているアマチュアが書いた本だ。そんな考え方もあるか、という点では面白い。
これは、仕事に効く 教養としての世界史 を読んだ時にも感じたことだ。世に、歴史好きは多い。書物や社会見学で知識は増え、歴史の連なりを自分で補足したくなり、つまりは誰かに語りたくなる。しかし、アマチュアなのだ。
では、アマチュアとプロは何が違うか。研究職ならば、先ず、周囲に指導者や類似した研究者があり、新説発表までに、または発表後にも、その説は、かなりの人の目の淘汰を受ける。その過程において洗練され、突っ込み所は限りなく減る。アマチュアは、この過程が無い。そのため、アマチュアの著作は、ギリギリ事実を掠った、荒々しい仮設の寄せ集めになるのだ。読みながら、同じ歴史好きが突っ込み所を見つけてしまう事になる。レベルが読者と変わらない可能性があるからだ。
しかし、本著はある面では趣味の域を超えないが、建築等、著者による専門的な考察が加えられている点で面白い。アマチュアだからと言って、読む価値がないわけでは、ないのである。
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原子力の冷却水が海水温を上げている。あり得るかも。水素かぁ。どうなんざましょ。
それにしても、日本語って凄いな。中国語は、てーへんだ。
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同じシリーズの第三弾らしい。
第一弾の方が面白かった。
なにがどうとは言い難いのだが、説得力に欠けるというか。
信長が安土に城を築いたのは、子供の頃の原風景のためだとか、それはかなり文系ぽっくって納得がいかない。
いや、文系の自分としてはそれで良いのだが、この本の趣旨とは違う気がする。
前と同じテーマが繰り返されているも、そう思わせたのかもしれない。
とはいえ、日本の田植えは泥に胸まで埋まりながら行った話や、江戸時代の浮世絵が写真の役目を果たしているとか、奈良が交通の要所から外れたから正倉院が守られたとか、面白い点もあった。