紙の本
壊れやすい家族だから支えあって生きる
2023/11/28 10:50
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投稿者:天使のくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
おかしな設定の世界の中で、家族のつながりを描いた短編がたくさん収録された本。後に長編「スランプランディア!」に発展する冒頭の作品「アヴァ、ワニと格闘す」は、ワニのショーで生計を立てる家族の話。主人公のアヴァは、ショーの最中に事故で亡くなった母親のかわりに舞台に立つ。っていうか、ワニのショーという設定そのものが、なんかおかしな感じがするけれども。あるいは、父親がミノタウロスで、ひたすら西を目指す、アメリカ西部開拓時代の話とか。表題作「狼少女たちの聖ルーシー寮」は、狼に育てられた少女が人間に引き取られて人間になっていく話だけれども、ラストで育ての親である狼に再会する。それで、そう思ったか、とか。
人は一人では生きられない。壊れやすく組み換え可能な家族という枠組の中で、支え合って生きていく、そうしたアイデンティティとつながりもある。
おなじように奇妙な小説の書き手である松田青子の訳ということで買ってしまったのだけれども、期待を裏切らない作品だった。
子どもだったころの想いとはかなさをかんじさせる家族小説として、しみじみと読める傑作。30年前だったらサンリオSF文庫として刊行されていてもおかしくないと思う。
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8/15 読了。
歪んでいるけどあたたかい、優しいけれど切ない、繭の中から飛び出していく寸前の、最後の子ども時代の世界。少年少女の文体という意味でリアルな筆致、ファンタジーこそが日常であるような世界観、戻りたいようで戻りたくない時間を閉じ込めた物語が10編。海難事故で死んだ妹を幽霊が見える魔法のゴーグルをかけて探す兄弟の話「オリビア探し」が特に好き。
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SFとも、ファンタジーとも、ホラーともつかない、不思議な味わいの短編集。
基本的に、ナイーブさや敏感さを強く残した少年少女が主人公で、思春期の危うさと作中に描かれる不思議であったり、不気味であったりする現象とが互いに混じり合い、独特な作風を成立させている。
調べてみると既に1冊、邦訳があるようだ。探してみよう。
翻訳を担当したのは『スタッキング可能』が話題になった松田青子。
作家の翻訳というと、翻訳家の訳文よりその作家の個性を感じる文体であることが多いが、こちらに関しては、小説の方を読んでいないせいか、そういう癖のようなものをあまり感じなかった。
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人間に矯正させられる狼少女、ミノタウロスの父と西部を目指す少年、幽霊の見えるゴーグルで死んだ妹を捜す兄弟…。大注目作家による目も眩むほど奇妙で独創的な短篇集を、松田青子が翻訳!
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ブランコを勢いよく漕ぐ、頬に心地良い風を感じる。そして一番高いところでどこかに放り出されるような物語たちである。
なんだろう、この日常なのにどこか不安になる物語は。
非日常であり得ないのに「わかる」ような感覚になるのは。
とても不思議で面白い。
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ななめよみ。気分が合えば読みたかったのだけれど、気が変わったのでまた読む。表紙がやんちゃで可愛い。作者も。
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装丁の可愛さに惚れて買ったんだけど、はあー。正直半分しか読めなかった。表現は可愛くてところどころスティーヴンキングっぽい青春ぽさもあるんだけど、それがどこかに結実することなく尻切れとんぼで終わってしまって、童話というにも読後感がうっすい本だった。
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幼児後期から前思春期の世代を主人公にした短篇集。まだ自我がわずかに芽生える頃の視点で描かれているため、とっても新感覚だった。児童書のような綺麗に消毒された世界ではなく、生の匂いや声を感じた。ページをめくりながら自分の児童の頃へ潜っていき、忘れていたことを沢山思い出した。この時期に「置き去り」にされるのは、孤独というより死と同義語のような恐怖を感じた。依存に近い執着、大人への外見偏向のシビアな見方、偏見、本能的、意地悪、計算高さなど子供の負の部分もあますところなく描かれていてどこか悲しく怖い。好みが分かれるところだが読んで良かった。新しい短篇集も刊行予定。まだまだいくらでも変化していくような伸びしろのある若い作家で楽しみ。
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ポエミーでファンタジーな設定とカリカリと捻くれた子供達が各短編で個性を発揮していて強烈だった。面白い発想というより、ぶっとびすぎていてついていくのに必死。ファンタジーのベクトルがそんじょそこらのファンタジーとは一線を画している。翻訳するのは本当に大変だったんじゃないと思うような設定多数。結果読み終わった満足感が、本に対する満足感より勝ってしまった。
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一番目に収録されている「アヴァ、ワニと格闘する」を数行読んで、「やばい!すごく好きなやつだ!」と興奮でじたばたしながら読みました。
この話を膨らませて「スワンプランディア!」が生まれたらしいので、それもぜひ読まねばと心に誓っているところ。
なぜか昔から、アメリカ南部の湿地帯の風景が大好きなんですよね。南部には一度も行ったことがないんだけれど。
スパニッシュモスとかが垂れ下がってる木々の間の運河をボートでゆっくり漕いでいく風景とかたまらんです。
この短編集は、フロリダのうらさびれた島に住む人々、という設定で、もうそれだけで私の好みのど真ん中。
全体の感想としては、先に読んだ「レモン畑の吸血鬼」の方がだんぜん好きだけど、こっちはこっちでおもしろかったです。
この人の作品って、古傷をえぐられるような、どこか身に覚えのある残酷さが非常に巧みに描かれていて、胸にグサグサきます。
その残酷さって、自分で引き出したものじゃなくて、他人に翻弄されて、なんだかうまく抗えないでいるうちに、いつの間にか自分の中から引き出されたもの、っていう感じでしょうか。
子供のころは、自分の気持ちを大事にする方法が分からなくて、簡単に人に影響されていつもグラグラとぐらついていたような感覚があったなぁ、なんて、忘れていたことを思い出しました。
「オリビア探し」「海のうえ」が特に良かったな。
例によって、訳者のあとがきもおもしろかったです。
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独特でシュールな物語の短編集。
ちょっとその世界に入り込めなかった作品も多かった。
1番好きなのは、「オリビア探し」。
海で行方不明になった妹を兄弟たちが探そうとする。無力で不器用な子どもたちが、痛々しくも愛おしかった。
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アヴァ鰐と格闘:鰐園少女→「スワンプランディア」
西に向かう:父親はミノタウルス,ゴール不明
狼少女:狼少女を人間に矯正し,適応できない者を排除する不条理な世界。何故か歪な感じが人間社会に当てはまる。
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松田青子さん訳であることと、かわいいけど毒っ気がある表紙に惹かれて購入。
奇想天外でファンタジーな設定なのに、自分の子供時代が生々しく思い出される。
登場する子供たちの焦りを伴った強烈な孤独感、初めて取り返しのつかないことをしてしまった時感じる痛み、自立しようとする時の、家族に対する疎ましい気持ちと、そう感じてしまうこと自体の切なさなんかは、確かに経験したことがあるものだからだと思う。
幽霊が見えるゴーグルを手に入れた少年や、父がミノタウロスである少年や、巨大な貝殻に閉じ込められた少女に共感する日が来るとは。
「星座観察者の夏休みの犯罪記録」「西に向かう子供たちの回想録」「狼少女たちの聖ルーシー寮」が特に好き。