紙の本
人は一人では生きられない
2023/11/28 10:47
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投稿者:天使のくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
奇妙な作品がたくさん入った短編集。最初の作品、「僕らが天王星に着くころ」は、皮膚が宇宙服になってしまう病気が流行した世界の話。宇宙服はやがて体全体を覆い、宇宙に飛んでいくことになる。ジャックとモリーの夫婦もこの病気におそわれる。先にモリーが発病し、ジャックの努力もむなしく、彼女は宇宙に旅立っていく。けれどもジャックもやがて発病し、モリーを追いかけることになる。
みんな変な話ばかりだけれども、底流にあるのは、はかない愛だったりする。そんなアイロニカルな話ばかりでもある。
人は一人では生きられない。誰かを必要としている。そんな想いにあふれた本。
小さなラブストーリーとしても。しみじみと読める傑作。30年前だったら、サンリオSF文庫として刊行されていてもおかしくないと思う。
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『創元海外SF叢書』の第3弾は『変愛小説集』にも収録されたレイ・ヴクサヴィッチ。
短い短篇が33作収録されているので、作品数だけ見るとお得?w
全体的に、日常の中に奇抜な発想を加えるアイデア勝負的な短篇が多かったように思う。特にアイデアが秀逸だと感じたのは、『僕らが天王星に着くころ』『ふり』『母さんの小さな友だち』など。
まだ3タイトルしか出ていない段階で断定するのは避けたいが、この叢書は創刊時の『旋舞の千年都市』(イアン・マクドナルド)こそSFらしかったものの、続く『霧に橋を架ける』(キジ・ジョンスン)、そして今作と、あまりSFっぽくない、幻想文学寄りの作品を中心に据える路線なのだろうか。
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Meet me in the moon room. 語呂合わせのようなタイトルの本を持て余して暫く経つ。漸く翻訳が出版される。岸本佐知子も訳してはいるけれど、全てが彼女の翻訳という訳ではない。少し残念。
「僕らが天王星に着くころ」を「変愛小説集」で読んで、その奇想天外かつセンチメンタルな作風に惹かれ原作を取り寄せたもののレイ・ヴクサヴィッチの文章の少しシニカルで少しつんとしたところのある英語の壁を越えられずに、あちらこちらの読み易い短篇を食い散らかすことだけで我慢していたのだ。改めて翻訳を読んで印象の変わらない作品もある一方で、大半の作品は原文を持て余していた時と同じような呑み込みにくさを感じてしまう。
レイ・ヴクサヴィッチの印象は捉えにくい。面白いけれど手放しで安心して乗ることができるジェットコースターという訳にはいかない。発想の奇抜さはどの作品でも秀逸だし、一定の哀愁のようなものも共通だ。それがこの作家の魅力であることは間違いない。だが、文章に滲む水分の量は作品毎に大きく変わる。それは時として頁を摘まむことが躊躇されるような湿っぽさに至ることもあり、閉口する気持ちを抑えるのに苦労することがある。何故ならその湿っぽさは体液が沁み出した結果だから。体液の流出は、それが血であれ汗であれ涙であれはたまた粘液であれ、恐怖に直結するような刷り込みがどうやら自分にはあるらしい。それを呑み込んで事態に対峙することができない。それ故、レイ・ヴクサヴィッチを丸ごと受け止めかねるのだ。
表題作の「月の部屋で会いましょう」は、短篇集の中では恐らく最もさらりとした作品の一つ。もちろん印象的なエピソードで素晴らしい作品だと思う。。それでも膝に置かれた主人公の右手が喚起する戸惑いを自分も瞬時に察知する。その戸惑いをもたらす物質がそこに存在することになってしまった原因となった場面に流れる体液の多さに気が遠くなりそうになる。主人公の逡巡が時間差を経ることなくこちらの身体にも伝播する。そのリアルな感じにぐっと惹かれもし拒絶もする。
ついでに言うと、 レイ・ヴクサヴィッチは確かに岸本佐知子が取り上げる位に変わった作家ではあるものの、岸本佐知子の乾いた翻訳には不向きなんじやないだろうか? 彼女が全編を翻訳しなかったのは他の仕事との兼ね合いやその他諸々の理由があってのことだろうけれど、どこかでそんなことも影響しているのかなとも、ちらりと思う。そんなことを考えていたら、ミランダ・ジュライかジュディ・バドニッツの新刊が岸本佐知子の翻訳で読みたくなった。
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奇妙な話しばかりの短編集。SF叢書なので、SFなのかな?
今年読んだ奇妙な短編として印象深いブライアン・エブンソンやセス・フリードに比べて人の切なさみたいなものが際立ってる。
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円城塔は人が降ってくるがヴクサヴィッチは人が飛んでいく。
ラファティのような、ユアグローのような、カルヴィーノのような、或いは初期の筒井のような、不可思議で滑稽で時々スプラッターな物語がたっぷりと詰め込まれている。
「僕らが天王星に着くころ」「月の部屋で会いましょう」のようなオーソドックスなSF話よりも、「母さんの小さな友だち」と「セーター」のような噺の方が好き。「家庭療法」や「儀式」のような咄も悪くない。
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SFやホラーの断片がきらめく、奇談幻想短編集、なんとたっぷり33編。
おもしろかった!とても素敵だった!
少し寂しくて、ちょっと切なくて、薄くひんやり。
お気に入りは『バンジョーを抱えたビート族』『ふり』『母さんの小さな友だち』『派手なズボン』『冷蔵庫の中』『ジョイスふたたび』『俺たちは自転車を殺す』『大きな一歩』『次善の策』『月の部屋で会いましょう』の10編。
中でも『母さんの小さな友だち』『派手なズボン』『俺たちは自転車を殺す』は、とても好みでたまらんやつ!
『母さんの小さな友だち』は、<幼年期の終わり>と<ハーモニー>のWatch Meを彷彿とさせる、好みストライクな一編!
素敵だった~♪
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岸本佐知子さん編/訳の『居心地の悪い部屋』に入っていた『ささやき』がとても印象的で期待して読んだ。SFと奇想がうまくミックスされた読みやすい短篇集であった。読みはじめの時はあまりにシビアでドライな世界で合わないかと思ったが『ふり』の最後の一言にまさか!と驚いた。そして私もそうするかもと納得した。ひどく人が人を傷つけられる話が多いような気がしたが『最高のプレゼント』『魚が伝えるメッセージ』を読むとわかるように愛をテーマにしているのだろう。愛を得たり得られず傷つき、それが人生と。発想が多彩でどれを読んでも素晴らしい。飛びぬけて面白いのは『セーター』1番好きなのは『指』そして誰もが怯えるイヤミスが『家庭療法』読めない人が続出しそうな描写の数々にうううと唸ってしまった。
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仕事に出かけるときの俺たちは、黙りこくって、いらいらしてて、傷ついた互いの心を、袋いっぱいの壊れたおもちゃみたいにあいだに挟んでいた。
ー 「キャッチ」p.167より
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ディスコミュニケーションの物語。33編。
『最終果実』広場の巨木の怪物。悪ガキ5人組。魔女の娘。
『母さんの小さな友だち』科学者の母が飲み込んだナノピープル。彼らは母を愚かなる存在へと変えてしまった。それは絶対に危険を冒さない世界。
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[関連リンク]
月の部屋で会いましょう - アブソリュート・エゴ・レビュー: http://blog.goo.ne.jp/ego_dance/e/439495c6f1ed30e1cfca608e2049f5e0
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突拍子もない設定、切ないストーリー。
SFってすごい、読書って素晴らしい!とうれしくなる。
でも自分の心の状態のよくないときに読むと、引きずられる感じも。
「僕らが天王星に着くころ」「母さんの小さな友だち」が特に心に残った。