紙の本
一気読み
2018/01/11 13:46
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投稿者:怪人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2014年に発刊された時代小説である。水神と同じ江戸時代が舞台であり、九州の某藩の農民の姿を描いている。水神では農民が直接主人公だが、大庄屋の二男に生まれた男がやがて医師となった高松凌水庄十郎の物語だ。領主の悪政と飢饉に苦しむ農民の暮らしを主人公の医師として成長する生涯を通じて活写している。600頁に及ぶ長編で重厚な内容である。人は人生をどのように生きるべきか、そんなことを思う。
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大庄屋の家に生まれた庄十郎は、才能あふれる若者。兄は跡継ぎに自らは医師に。庄十郎の研鑽も見事だが、兄の生き方もまた意味があったと思えた。
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大庄屋の次男として生まれた庄十郎は、増徴に怒り集まる数千の百姓たちの姿を目の当たりにする。
後に自らの病をきっかけに医師を目指す。
公儀からの理不尽な裁きで命を取られようと
それに従うしかない時代。
日々を懸命に生きる人々の姿に胸がいっぱいになった。
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なんでもないところで泣きそうになって人前で読むのが難しい。
”紋助は稲をすぱっと気持ちよく、一気に刈り取れるのに、庄十郎は何度も鎌を稲株に当てねばならない。しまいには、稲を握る左手も、鎌を持つ右手も疲れ果て、どうにも力が入らなくなった。
刈った稲を束ねて数本の稲茎で結んでいくのも、簡単そうに見えて難しかった。結び方を習って、その通りにしてもうまくいかない。結局、庄十郎にできるのは、稲束運びのみだったのだ。"
子供の頃にそっくり同じ経験したのを思い出した。稲刈りの匂い、稲株や稲茎、稲束も絵が浮かぶ。
昭和40年代の稲作は江戸時代と対して変わらない?
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江戸時代、大庄屋の次男坊ながら医師になった庄十郎。大庄屋である兄の八郎兵衛が治める村は百姓との軋轢が絶えず…。
初読の作家だが、良作の予感。
疱瘡を患ったがために実家に顔向けできない身の上になった主人公と、弟を憎々しく思いながらも最後は自分の信念を貫こうとした兄。端的に言えば兄弟の相克なのであるが、作家の分身像ともいうべき医師であっても、けっして完全無敵のヒーロー、正義感に描かれていないところがいい。
兄の手紙の場面でもらい泣きしてしまった。
長男に生まれたというだけでの家名の重みは、養子であるがゆえにあっさりと大庄屋の生き方を捨てられた猪十郎とは対照的。
誰が悪いと言えばご政道なのだろう。
だが、武家も武家で、金回りに苦しさがある。人別銀や夫役などは、現在の消費税増税や軍役のように思えて、いつの時代も庶民が苦しむのは同じなのだろうな、と思った。
なおこれは史実にある人物に関わる創作でもあるらしきことが、終章で明かされる。著者の創作力に脱帽。序盤、物語がなかなか動かないのと、もったりしたのどかな田園描写が続くので投げ出しそうになったが、読み終えてよかった。さすがに大作なので、再読したいとは思わないのだが。
他のジャンルも手がけているようなので、あわせて読みたい。
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人に慈愛」と続くのだが,途中で止めたのには意味があるのだろう~久留米御原郡井上村の大庄屋・高松孫市の次男に生まれた庄十郎は皆から可愛がられ,兄の甚八とは反りが合わない。農作業も荒仕子を手伝い,父が後学の為に呼び寄せた席には最後まで残った。享保13年,筑後川を渡った先の善導寺で気勢を上げる百姓達を見た。夏物成を十分の一から三分の一に引き上げるといった本庄奉行に撤回を求めるためだった。膨れあがった百姓衆が城下へ迫ると,若き家老・稲次が事態を収拾した。本庄は切腹を命じられ,十歳の嫡男も5年後の元服を待って切腹と決まった。藩主は隠居し,嫡男が跡を継いだが,江戸では算術大名として知られている。日照りの夏,大保村の雨乞いに子供では只ひとり庄十郎が参加した。吹上村から戻った庄十郎は熱を発し体中に水膨れができて,離れに隔離された。母の実家近くの高名な医師・小林鎮水の必死の看病で一命を取り留めたが,その前に世話をしてくれた荒仕子ののぶと母・菊は疱瘡で死亡した。鎮水自身も疱瘡を克服した者だったのだ。周囲は慰めてくれるものの,兄だけは怒りを直接ぶつけてくる。弟子を取らない鎮水に無理矢理弟子入りした庄十郎が出発する際,兄は二度と筑後川を越えてくるなと宣言する。享保十七年は雨が降り止まず,大飢饉が訪れ,城島町の診療所にも薬ではなく食料を求める患者が多くなる。多数の餓死者が出る中で,種籾まで徴収しようとする公儀に怒りが盛り上がるが,一揆になる元気もない。稲次によりその座に就いた藩主から家老職を解かれて横隈で蟄居させられていると聞く。さらに井上村の父からは容態が悪いと連絡を受け,鎮水と共に見舞うが,疱瘡の状態は悪い。必死の看病をするが,墨と筆を希望し手紙を書いて死亡するが,武士はつまらん・医者は人のためになるから良いと言った言葉が残った。妹の千代は,母の生家に嫁として迎えられ,武家から養子に迎えられた新大庄屋と仲は良く,子宝にも恵まれる。寛延二年,筑後川を渡った北野新町で廃業する医師に代わり,天神様の境内の診療所で開業した庄十郎は凌水と名を変え,村人の大歓迎を受ける。開業した凌水の診療所を訪問したのは,稲葉家老の生母と倅,持参したのは屋敷に掛けられていた「天に星 地に花 人に慈愛」の掛け軸だった。宝暦二年,藩主は江戸出府後に,8才以上の男女に銀札6匁を人別銭として納めろと布告した。凌水は領内で最後に納めることを決めるが,百姓達は黙っていない。大庄屋を継いだ兄は,公儀のやることに逆らわず,荒仕子達にも自分で納めさせる肚だ。新銀札のからくりに気づいた百姓は,怒りの矛先を,庄屋・大庄屋・大店に向け,城下に入る前に,打ち壊しの暴挙に出る。打ち壊しを展開しつつ城下に迫る百姓に人別銀撤回が告げられるが,庄屋も大庄屋も蟄居させられ,大庄屋5人に死罪が言い渡されるが,実際にはくじ引きで一人だけ打ち首となる。千代の夫は逃亡を決意し,庄十郎も兄に逃亡を勧めるが,兄は出頭し,くじ引きの結果で首を刎ねられ,見苦しいと晒し首にもなった。兄から手紙が届き,千代を引き取ってその息子が凌水の跡を取る~ 「はははぎ」というのは読めないだろうなぁ。改名は考えていないのだろうか? 1947年生まれで東大仏文を卒業後,九大で医学を学んで,精神科医になった。大学を一度卒業して医学部に入り直すというのは結構ありそう。学費が大変だろうに。ま,親のすねを囓ったのか,奨学金で何とかしたのか。医学部に入れる人には貸してくれるし,その気で働けば返すのも大変ではないだろうが,医者の仕事って大変そうだなぁ。あ,そうそう,良い物語でしたよ。確かに医者という仕事は負け戦が続いても偶の勝ち戦でやりがいが出てくるのでしょう
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読んで良かった。節々で泣いたし。大河小説は、フィクション/ノンフィクションを問わず、きちんと定期的に読んでいきたいですよね。心に芯がはいる気がします。読書する時間に幸せを感じられますし。
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「天に星 地に花 人に慈愛」
オランダの言葉らしい。
「丁寧 反復 婆心」が医の極意
「水神」の後の時代の話だったので
入りやすかった。
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594頁の大作
さぁ どのくらいかかるものやら
と 思うのも ほんの最初だけ
中程を 過ぎると
だんだん あと もうちょっとで
終わりに近づいていくなぁ
あぁ
なんだか 切ないなぁ
もう ちょっと この至福の時が
続いて欲しいなぁ
と 帚木 蓬生さんの作品を
読むたびに 思ってしまうことです
もちろん この一冊も
その類です
舞台は江戸期の九州 いや 肥後藩の
出来事ではあるのですが
そこに描かれている人間の様子は
そのまんま
今の時代に生きている
私たちの暮らしの中に
どれほど
投影されていることでしょう
読み終わったあと
あぁ いい作品を読んだなぁ
という
静かな余韻に浸ることができます
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無謀な税制を強行する久留米藩、圧政に苦しむ百姓、間に挟まれる庄屋。
百姓たちの地道な暮らしぶりが淡々と描かれるので、年貢のキツさがよくわかる。一揆が起きるのも無理はないと思うほどの締め付け。
難しいところがあり最初は読むのに時間がかかったが、疱瘡のあたりからはすいすいすすんだ。
「天に星、地に花、人に慈愛」
凌水が教わった思いや言葉は子孫である高松凌雲にも引き継がれる。読んでよかった。勉強になったと思える本でした。
「水神」という作品にも同じ庄屋たちが登場するらしいのでぜひ読みたい。
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舞台は江戸時代18世紀の久留米藩.主人公は疱瘡を生き延びたことを機に医師を志した大庄屋の次男庄十郎.飢饉,一揆その後の打ち首などの事件を含め百姓,庄屋,武士の生活を描く.じわ〜っと笑えてじわ〜っと泣ける.,
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とても良かったです。タイトルの「天に星 地に花」に続くのは「人に慈愛」。読み終えて、改めて深い言葉だと感じます。この言葉が、庄十郎の人生を変えるきっかけになったのでしょう。年貢の増徴に憤り、一揆を起こそうと立ち上がる百姓たち。それをたった一人で、自らの命を賭して食い止めた稲次様。「人間ちいうもんは、ここぞと思うときに、命ば懸けなきゃならんときがある」
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領主の圧政に苦しみ農民が蜂起するなかで、庄屋や領主の家来、今でいえば中間管理職のような立場であるが、そのような態度をとるべきなのか。地味テーマだが心に沁みた。
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本著者が好きで手に取ってみる。時代小説、庄屋の次男が疱瘡を助けてくれた医者に弟子入りし、医者になる。飢饉や大名の年貢増加等、困難な時代を医者、農民目線で時代が描かれる。
本著者は好きなのだが、最初は読みづらかったなぁ。農民の怒りがたまり、一揆を起こそうと集結、それを主人公の子ども目線で見ていくのはしりのところは、読みづらかったが、本著者なら面白い展開になると頑張って読む。主人公が村を出て医者に弟子入りするところからは楽しく読めた。
まさにこの時代の人間の一生を描いたもので、読み応えがあるし、後半になってくると、読みづらかった前半のところの意味もしっかりしてきてなる程なと思う。読み終えた後は満足感。
歯、母、ははは(笑)
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1750年代の九州久留米。
ここで、医師として働く主人公庄十郎は、
大庄屋の次男坊に生まれながら、15歳のときに疱瘡にかかり、
名医と名高い小林鎮水先生の手厚い看護で完治したという経験がある。
庄十郎は、実母を同じ病気で亡くし、失意のもと、
生きのびた命を無駄にするわけにはいかないと、
命の恩人鎮水先生の元へ弟子入りをし、
一生懸命に修行をして一人前の医師となった。
庄十郎が幼い頃、天地を揺るがすような百姓一揆が起こりかけ、
当時の家老稲次因幡が百姓救済を申し出て、一揆は回避された。
父とともに稲次因幡家老の自宅をたずねた時、
その和室に飾ってあった掛け軸の言葉が忘れられなくなり、
その後の庄十郎の座右の銘となる。
それが、「天に星、地に花、人に慈愛」という言葉である。
医師となった庄十郎は
この言葉通り、患者に慈愛で接することができた。
庄十郎は、次男坊だから庄屋の後をつぐわけではない。
だがたび重なる飢饉と
厳しい税の取り立てに苦しむ農民の姿を間近で見て
苦しむ人のためにできることをしたいと考えたのだ。
庄十郎の人格と命運も医師に適していたといえるだろう。
美しい文章とゆったりと流れる時間・・・。
庄十郎の伝記ともいえるこの作品には、
筑後平野に息づく農民たちの生活様式や
田植え唄、雨乞い、火祭、庶民の料理などが詳細に書かれてある。
農民の生活記録としても、興味深く読める作品だった。
「天に星、地に花、人に慈愛」
タイトルはやはりこの言葉から取っているのだが、
「花」に続く最後の言葉は本文で明かすことになりその意義は深い。
私もとてもいい言葉だと思う。