紙の本
これは決して「バカミス」ではない
2016/03/27 09:05
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
どうしても厚め・長めの本を買ってしまうことが多い私。
しかし通勤時間小間切れの電車の中ではなかなか集中して読みづらい(仮に集中しちゃったら乗り換えポイントを見失う・・・)。 なので最近は短編集や、短めの長編を持ち歩くことが多くなりました。
ちなみに、個人的な定義では“短めの長編”とは300ページ以内を指します。
それがまた、1940・50年代の隠れたミステリがちょうどそれくらいの長さのものが多いんですよ! そんなわけで<ミステリ黄金期>後のあたりの作品をちまちまと読んでいます (『赤い右手』の著は1945年、初邦訳は1997年)。
が、ちまちまと読んでいられなかったのがこの本!
ドクター・ハリー・リドルが思わぬ形で巻き込まれてしまった奇怪な事件を、リドル医師がしたためた手記という形で読者は読まされる、という構成。 普段から冷静沈着であるよう訓練された職業柄か、ドクター・リドルの言葉選びからは知性と落ち着きがにじみ出る(あとで27歳と知ってびっくり!)。
とはいえ、やはり動揺しているので思いつくまま筆は運び、全然時間軸に沿って語ってくれない。 ものすごいことを書いているんだけどそこに至る過程にはなかなか言及してくれない、と露骨な思わせぶりで読者を振り回す。
「これって、もしや、あのネタか?!」とつい思わずにはいられなくて、余計に一字一句読み落とさずにはいられなくて、それを知ってか知らずかドクター・リドルは読者がドッキリすることをさらりと書き、こっちの妄想をかきたてる。
勿論、作者としては計算通りなのでしょう、まんまと途中でやめられない術中にはまる。
<一世一代の超絶技巧>と帯にありますが、時間軸ぐるぐるで読者を引きずりまわす手法がとにかくうますぎる! 筆の勢いとも感じられるけど、全部計算のような気もするし。
“語りと騙り”という私が大好きな展開でした。 勿論、論理的に事件は着地しますし、<あのネタ>ではありませんでしたし、たたみかけるどんでん返しあります!
なんかもう、この文体に酔っちゃうくらい素晴らしすぎる!
なのに解説によれば、この作品を「バカミスの古典」ととらえている向きもあるようで・・・ふざけるな!!、とあたしは言いたい(私にとって「バカミス」とは、作中のなんらかの謎が解けた瞬間に「は?」と思わずあきれた声が出てしまうような作品のことであって、たとえばジャック・カーリイの『百番目の男』みたいな。 あれと一緒にするな!)。
あと、やはり時代感と雰囲気が大事ですかね・・・。
あぁ、気持ちよくだまされた。 というか、心地よいドライヴ感だった。
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ハネムーン途上のカップルとヒッチハイカーが出会ったとき、運命の歯車が異常な回転を始めた。悪夢の一夜に起こった連続殺人、その真相は? 独特の味わいを持つ狂気の本格ミステリ。
*第2位『このミステリーがすごい!1998年版』海外編
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パルプ・マガジン時代のサスペンス小説。著者はアメリカの大衆小説家。
元はパルプ・マガジンに発表された中編で、単行本化の際に大幅な加筆訂正が行われて長編となった。
探偵小説的トリックや謎解きに主眼がおかれているようには読めず、『訳者あとがき』にあるとおり、ジャンル的には一種のサスペンス小説だろう。道具立てに派手なところはあるが、動機の面ではありきたりで、トリックもそこまで複雑ではない。
反面、当初から娯楽読み物として書かれただけあって、先の読めなさや展開のスピーディさで読者を飽きさせない作品に仕上がっている。
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時系列がめちゃめちゃ。何が起きたか分かるようで分からない。
語り手のリドルが机に向かいながら「詳細に記す」とは言うものの、間取りやら目に見える周囲の様子やらばかり詳細で「そこじゃないよ!事件を詳細に書いて!」と何度やきもきしたか。
リドルの思考や感情も入り乱れ、いったり戻ったりの話の運びに混乱を極めました。
だがしかし!何が起きているのか知りたいという欲求を煽る思わせぶりな文章にページを繰る手が止まらない!
えもいわれぬ不安がこちらにまで伝染し、リドルの焦燥に引っ張られてぐんぐん読めます。
田舎の閑散とした脇道が緊迫感に包まれるのがホラーのようで楽しい。
最初にある地図の絵も趣があって良いです。
右も左も分からないまま著者の筆の勢いに乗れば、最後は心地よい疲労感に包まるでしょう。
独特の構成であらゆる手掛かりを覆い隠したミステリーでもあり、総じて1級品のエンターテイメント小説だと思います。
ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
冒頭から自分は優秀で冷静で、なんて言っている語り手のリドルが胡散臭いわけですが、ページを進むほどに益々怪しくなります。
帽子や「ドク」という呼称など、偶然の一致が多くて信頼出来ない語り手の地位を着々と築いていました。
しかしリドルの「車は通らなかった」という証言を嘘と決め付けるに確信が持てず、むしろその振る舞いは無実の人です。
全貌がなかなか明らかにされない事件と相成って翻弄させられました。
きちんと時系列を並べてみると、そこまでこんがらがった状況ではないので、やはり著者の演出の巧さだと思います。
デクスターをマコウメルーと思っているウニステアが、屑山で見つけた死体をマコウメルーと見抜いたのが疑問です。芸術家らしい第六感的感覚で勘付いたというような説明はあるものの理由としては弱い。
むしろ、マコウメルーに何かあったか?という状況で、しかも暗い中、死後時間が経った死体をマコウメルーと勘違いした(実際、本人だったわけですが)という方が説得力があるように思います。実際、デクスターとマコウメルーは親族ですから似てなくはないのかも。
もしくは、勘などではなく、牛乳を取りにこなくなったなどの微かな違和感が、死体を発見と同時に真実に瞬時に結び付くという超現実主義的推理力を発揮したとか。
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ハネムーンの途中で拾ったヒッチハイカーに婚約者が車もろとも奪われてしまったエリナ。
彼女を助けたのは外科医のリドルだった。
怪しい風体のヒッチハイカーを警察も追い始めるが…。
エンタメ力の高いサスペンス。
スピード感があってグイグイ読ませるけど、きちんと伏線も貼ってあってああっ!となる。なった。
トリックとか動悸とかに拘らず、純粋に楽しんで欲しい一作。
こう言うのを復刊してくれた出版社に敬意を払って評価を高くした。
もっとクラシックミステリを掘り出してくださいおねがいします。
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「赤い右手」J.T.ロジャース◆婚約者を車ごと連れ去った赤い眼の犯人は消えた?時系列がめちゃくちゃで死んだはずの人が次のシーンで生き返ってたりするのですが、ややこしい分真相が明らかになった時の反応が鈍くなってしまった。胡散臭い話だと思いつつも詐欺に引っかかるような話(褒めてる)。
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読み終わって、これのどこがすごい小説なんだろうとぽかんとしました。
バカミスと呼ばれるジャンルらしい。
主人公の視点のみで語られるためか、彼にべったりはりついて見ている感じ。
トリックも、まさか...じゃないよね?
そんな古典的な...
と思ったらまんまだし。
なにがなんだかわからないうちに、怒涛のごとく終わってしまった感じ。
この勢いが高評価らしいですが、うーん。
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依頼された手術からの帰宅中に車が故障したハリー・リドル医師。彼に婚約者セントエーメが誘拐され自分も殺されかけたと訴えた助けを求めたエリナ・ダリー。近くに住むマコウメルー教授の別邸に向かう二人。ダリー嬢が語るセントエーメとの出合い、デクスターと名乗る男がセントエーメに貸した車。ヒッチハイカーを拾った二人。コークスクリューと名乗るハイカーに殺害されたセントエーメ。マコウメルー教授の使用人ジョン・フレイルを引き殺した犯さしリドル医師が発見したセントエーメの死体。右手を切り取られた死体。捜査が進む中殺害されたマコウメルー教授とウニステア。消えたフレイルの弟ピート。
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うまい!
終盤までは読んでてもやもやする訳の分からない感覚に陥る。これが癖になる。
終盤は、それまでの過程ゆえに評価があがる結末になっている。
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外科医のリドルは車の修理を終えたところで、婚約者が車もろともヒッチハイカーに攫われたと訴えるエリナと会う。エリナとイニスがハネムーンの途中で出くわしたヒッチハイカーは死んだ猫を抱いた、赤い目、裂けた耳、ねじれた脚の男。更なる連続殺人に警察も動き出すが…。奇妙なミステリです。まさに怪しいとわかっていても騙される手品のようなトリック。警部は最後に言う、悪夢を見たということで。面白いねえ。98年のこのミス海外編2位。
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『このミステリーがすごい』'98海外編2位(1位『フロスト日和』、3位『グリーンマイル』)、”怪作”の評判を知り手に取った。これらの惹句に影響されてか、一文一文(何か仕掛けがあるかも)と疑いながら読んでしまい、またそもそも文章自体が時制が前後したり視点が変わっているかのような印象になったりと読みづらく、章立ても全くないので最初は時間がかかった。が、慣れてくると次第に一気に読み進められるようになり、思いもかけない真犯人に驚かされて読了。あとがきに引用された国書刊行会版の小林晋氏の解説「文体がトリックの一部になっている」に大いに首肯。これは何も考えず一気に読んでその雰囲気・流れを楽しむ作品。原著は1945年出版、太平洋戦争のさなかこうした大衆小説が出版されていたんだなと溜息。