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今後のわが国のあり方を農業政策を中心に論じた書。現在、時給率などの面からして農業は弱点とされているが、著者によれば、だからこそチャンスだという。
そのために全国をスマートテロワールと著者が呼ぶ区域に分け、その区域の中で、食糧やエネルギーを自給するべきとする。方法は、休耕田や耕作放棄地となっている水田を畑にすること、畑で大豆やトウモロコシを栽培し、大豆関連産業で地元産の食料品を作り、トウモロコシで養豚業を興し、養豚業から出る廃棄物でバイオマス発電を行い・・・とロジックがつながる。
どこまで説得力があるのか、自分の中では最終的に判別がつかなかったが、水田から畑作にというアイデアは参考になった。
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面白いか面白くないかと言われたら面白い。著者はキャリアを積んでおり、説得力がある。しかしながら、年配の方に特徴的と思っている熱い理想のような物が苦手な、私のような読者には少々くどい所もあるだろうし、女性を重視するという所を強調しすぎて、女性の読み手として違和感を覚えるところもしばしばあった。
しかしながら、私はスマート・テロワールという発想をこの本で初めて知り、興味深く、しかも速く読むことができ、おそらく入門書としてはうってつけだと思われる。
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スマート・テロワール?、元カルビー社長?と「?」のまま推薦された本。読み進めるうちに、高い理想と豊富な経験に基づく具体的な提案による憂国、そして日本再生の手引本であることがわかった。
福澤諭吉の『文明論之概略』を引用しながら「自給圏をつくり、存続させていくために経済や食を独立させる。そうした自給圏の繁栄のうえに国家の独立が生れる(p205)」に強く共感し、何かできないかと考えさせられた。
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カルビーの社長さんの人生譚が面白くて購入したら、内容も面白かったという。
市場主義に抗していくために生産から加工までのテロワールを地域に設立し、「東京に打って出る」って話。それは資本主義とどう違うのかはさておいて、理論化の詰まらないケチは経営者の具体的プランの面白さの前には無力です。
時間を見つけてちゃんと読んでみよう。
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元カルビー代表取締役による農村再考論。ざっくりいうと、市場経済とは一線を画した食糧とエネルギーの自給圏(=スマート・テロワール)を確立することで、農村の現代的な価値を見出そうというのが概ねの論旨。
日本を代表する食品メーカーの元代表取締役が、カール・ポランニーの「大転換」を引きながら、ゆきすぎた資本主義経済を批判しているのはちょっと意外だった。
今でこそナショナルブランドとなったカルビーも、もともとは加工ラインに乗らない余剰農産物のえび、じゃがいもを有効活用することから始まったと。なぜか戦後活躍した経営者には、今の時代のギラギラベンチャーと違って、実直さと気骨が感じられる。
細かいところに論が及ぶので、メモを取りながら再読する必要がありそうだ。「地方創生」のひとつの指針となる本だと感じた。
「農村に働くのは利他主義であり、互酬に基づく経済です。それを理解せずして市場経済の利己主義で経営を行おうとしては農村部で成功できません。
(中略)
都市の経済とは異質の文化の柱を立てることが日本にとって重要なことを承知して関係を持ってください。都市では「かせぎ」が重要でも、農村部では「つとめ」からスタートします」p. 247
なんとなく言っていることは坂口恭平のレイヤー論や、平田オリザの文化による地方の活性化とリンクするところがある。ちなみに著者の松尾雅彦さんはNPO法人「日本で最も美しい村」連合副会長(2014年当時)だそうです。
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スマートテノワールとは,「美しい強靭な農村の自給圏」のこと。グローバル化,中央集権化で疲弊する地方を再生するには,農村から始めないといけない。
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コロナ禍によって、世界と日本の変容が起こっている。少なくとも、国境をまたぐということに対する警戒が始まった。移動そのものを長距離で対処するということも、カーボンゼロ社会を目指す上でも減らさざるを得なくなっている。
カルビーの社長だった(故)松尾雅彦の「スマートテロワール」を再度読み返してみた。
スマートとは、「賢い」「利口な」「ムダのない」「洗練された」と言った意味。テロワールとは、フランス語で、「地方独自の風土・景観・品種・栽培法を育む特徴ある地域」を表現する「地味」とも訳される。テロワール(Terroir)とは、「土地」を意味するフランス語terreから派生した言葉である。もともとはワイン、コーヒー、茶などの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指すフランス語である。つまり、土地に根ざすものを指す。松尾雅彦は、スマートテロワールを提唱した。日本を大都市部、農村部、その中間部の3種に分ける。大都市部で約4300万人。農村部で、人口人口数百人の村から、上限は12万人未満の1200市町村で、約4200万人。中間部で、約4200万人。
その農村部4300万人で、100の自立したスマートテロワール(自給圏)をつくろうというのだ。
コロナは大都市部で発生し、農村部ではコロナの影響が少ないのも特徴となる。
そのような地域ユニットであるスマートテロワールで、食料や住宅は地産地消、電力も地産地消をしようという呼びかけだ。
東京一極に集中した政治の舵取りがほころびが起こっている。「日本農業はダメだ」「農村は衰退する」ということが言われているが、いまの日本でいえば、カロリーベースの自給率が39%であるということだ。つまり、海外から61%近く輸入されている。これを切り替えることができれば、問題はない。つまり、日本国内においてノビシロがあると松尾雅彦はいう。自動車産業の自給率(国産比率)は90%超えているから、日本においてのノビシロがないのではという。また、日本での農業生産量を増やすには、現在のSDGsの中でのフードマイルを減らすことにも意味がある。
松尾雅彦は、供給過剰時代の農業の4つのジレンマを指摘する。供給過剰時代の自給率の低下という現象に中で、①食料供給過剰時代に農村が市場経済に頼っている。②供給者(農業者)対策が全国一律に展開されている。③過剰になっている水田を畑地に展開できない。④東京の重商主義が農村政策を作っている。という4つのジレンマを脱却すべきだという。
カルビー社の取り組みの経験と実績から、「曖昧な活用の100万haの水田を畑地に大転換すれば、農村は15兆円産業を創造できる。」と言い切る。瑞穂の国、コメにこだわりすぎる日本の農政を転換して、その地域にあった作物を作り、その作物で特色のある食品工場を作ることによって、スマートテロワールは成り立つというのだ。まさに、日本のスマートテロワール革命への提案でもある。
その地域にあった誇れる食の創造こそが、日本を基礎からつくる美しく強靭な骨太農業と農村となっていく。
コメは、一人当たり年間60キロしか食べなくなってきており、十分にコメは過剰な状況である。
地域愛は、国産表示だけでなく、地域の産���認証制とする。例えば、サッカーのJリーグは、地域愛が発展の推進力となった。そんな取り組みができるはずだという。地域の可能性は地域住民が探り、作り上げていく。そのスマートテロワール(自給圏)には、地域に応じたプラットフォームを作り、食と農を地域に取り戻すことが必要と訴える。スマートテロワールは、佐々木雅幸教授が提唱する創造農村とも共通する価値観がある。地域の価値をその地域の人が認め、創造する。地域にあった農作物をつくることで、その地域の景観がより個性あふれるものとなる。自分たちの故郷を誇りに思えるあり方追求が、いまの時代の農村の明るい未来を切り開いていく。
コロナ禍によって、農村は大きく転換する必要性が生まれ、そのようなスマートテロワールが生まれてきていることが、日本の復興と再生の大きな推進力となるだろう。