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大学における英語教育はTOEIC等の外部試験対策が主となり、最早学問ではなくなりつつあります。また、専門の講義も英語で行なうことが奨励され、外国人教員、海外への、実質的にはアメリカへの留学生(を大幅に増やそうとするなど、大学の教育全般が、英語をキーワードに変容しつつあります。著者はこの本で、それが如何に無意味、というより有害であるか、その背景に何があるかを解き明かし、こうした流れの中で、英語を教える者はどのように対処すべきかを提言します。
例えば著者は、アメリカが日本と比べて大変危険な国であること、アメリカの大学が、時間と金をかけての留学に値するような場所ではないことを、犯罪の数、アメリカの大学の様子、日本人ノーベル賞受賞者の経歴などの具体的な例を挙げて述べ、風潮に煽られて留学した者の支払う金(国の補助を含む)がどこに流れていくかを説明します。
小学校での英語教育、センター試験へのリスニング導入等、英語教育において何らかの大きな変更が行われるとき重用されるのは、そこから大きな利益を得る特定の出版社、受験産業等の企業関係者の意向ばかりで、現場で実際に教育に携わる一般教員の意見が参考にされることは、まずありません。そして、そのように造られた流れに沿うことのみが教員の「研修」とみなされ、現場で強制されます。
本書を読むと、教育とは無縁のものが、教育のあり方を決めているのが、この国の悲劇であることが大変よくわかります。京都大学での講演やインタビューをもとにしていて、著者自身が出版社に緊急出版を依頼したこともあり、多少繰り返しが多い感もありますが、公的機関が主催する英語教育関係者の研修会では決して語られることのない事実がわかるので、英語教育に多少なりとも関心を持つ人、特に、現在の英語教育の流れに疑問を持たないよう「教育」されている若い英語教員に、是非読んでほしい本です。
最後に、英語教育の本ではなく、本書の参考文献にもなっていませんが、併せて「永続敗戦論」(白井聡)を読むと、更に理解が深まると思います。