紙の本
表紙のこれ、えふいちの姿を模してる?
2018/11/11 05:54
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
題材に驚いた、福島第一原子力発電所事故。
『象は忘れない』といえばアガサ・クリスティだけれど、もともとは英語のことわざで、「象は非常に記憶力が良いので、自分の身に起きたことは決して忘れない」の意。
あ、もうそれだけで「忘れっぽい日本の国民性」が串刺しにされたような痛みが・・・。
“あの日”を境に世界が変わってしまった人たちを描く5編の短編集。タイトルはそれぞれお能の演目から採られている。
冒頭の、『道成寺』から、読みながら「うひゃーっ」と頭を抱えてその場を走り回ってしまいたくなった。
東北に住んでいて、同じ県内に原子力発電所や原発関連施設がある者にとって、ほぼ心当たりがあるような内容と描写に、「原発は絶対安全です」で思考停止してしまっていた過去の自分に言いようのない恥ずかしさと怒りと無力感を覚えて。しかもその後私はジャンルは違えど科学を学ぶことになったし、SFもずっと愛しているのに。
登場人物はみな普通の人で、おろかで勇気がなくて度胸もない、気持ちはあっても結局現状を変えられない普通の人。
それがとても痛い。
小説の形をとっているが、これまで作者が描いてきた<エンターテイメント>ではなく、むしろ作者の怒りがストレートに伝わってくる。萩尾望都の『なのはな』の中盤に収録された話のように、怒りや戸惑いが物語として昇華されていない(あえて昇華させてない?)、まるでノンフィクションのようなパワーがある。
これを<震災文学>と呼ぶのなら、多分そうなんでしょう。むしろ<原発被害文学>か。
勿論福島がいちばんひどい、今もまだいじめ問題が残ってるぐらいだし、帰れない人たちと帰れる人たちの境目は曖昧だし、復興なんか全然だし。そもそも原発事故跡の処理も目途が立っていない、放射性物質がこの先どう土地を・世界を汚染するのかまったくわからない。
それでも、あの地震で被害に遭ったのは福島だけじゃない。復興の道が遠いのも福島だけじゃない、という気持ちも湧き上がってしまうのです、東北出身者として。
けれど、そのあとも日本には様々な災害が襲ってきていて、困っている人たちは減らない。
いったい、どうしたらいい?
『黒塚』・『卒都婆小町』・『善知鳥』・『俊寛』と続く話は、元ネタとは違うんだけど、大枠では驚くほどキーワードが共通していたりして驚く。人間のすることは時が移ろうとも結局大して変われないのか。
そしてまさか『善知鳥』の文字を神戸に来て見ることになろうとは・・・地元ではメジャーでありすぎるが故に全国的にはそうでもないと思っていたので。
それが『卒都婆小町』や『道成寺』・『黒塚』といった有名どころと並ぶことになるなんて・・・感慨深い。そんな場合じゃないんだけど。
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『象は忘れない』というのは、英語のことわざで、象は恨みを忘れない という意味があるそうだ。
当事者はもちろん忘れることはできないだろうけど、私自身も心にとめていかなければならないこと。
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タイトル通り忘れてはならないことだが、5年を経た後、喉元過ぎればという感で原発再稼働を平気で行おうとする意識とそれを容認する無関心に向けての注意喚起。そうであってもヘイトスピーチなどの世相も交えてすべて怖い話となっている。タイトルが全て能楽となっている意味は深い意味があるのかもしれないがあいにくと不勉強でよくわからなかった。
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3.11を原発事故に特化した物語。
初めての作家さんだし(『ジョーカー・ゲーム』を読まずに断念している)、テーマが重いので読めるかと思っていたけど、思いのほか読みやすかった。
でもやはり重かった。背筋が寒かった。
「卒塔婆小町」と「善知鳥」が怖かった。
業はもちろん原因の方にもあるけど、被害を被った方にも降り注ぐ。
やりきれない
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イエーロケイク(黄色いケーキ)と題されたドキュメンタリー映画を借りて見た所なので・・・採掘現場の不毛状態、旧東ドイツの採掘跡地の復元に未だ多くのお金投資されていること(多分それをうけての脱原発、ウランもしくはその加工品がもたらされる、自然及び人体の被害)
1DKに象を飼う??村上春樹さんだ・・多分除染した人の象の足、最後に書かれる象のいななき・・・やっぱり、人間には象(ウラン)は飼えません 多くの福島の事故で亡くなられた人に哀悼の意を捧げます
ファンタジーめいた形でもこの本が出で良かったんじゃないかと 脱原発!!!
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東日本震災で被害に遭った人たちの短編集。この作者ならではの淡々とした語り口が、いまいち感情が伝わらない。ただ、いくら伏字にしていても、すぐに町の名前は想像出来るし、その時間、そこにいた人がどんな思いだったかを知るには、いい本だと思う。震災から5年。改めて、震災を振り返り、いろいろ考えさせられる一冊だった。
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福島原発事故を題材にした5つの短編からなる。
日々の生活に追われ「あの日」の記憶が薄れている気がする一方、「あの日」に囚われ続けている人々がまだまだ沢山いることを忘れてはならないと、強く思った。
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フクシマがテーマの短編5編。フクシマに関してはいろんな人がいろんな形で小説にしているわけで、5年後の今問いかける作品としては相当弱いと思いました。ただ、「善知鳥(うとう)」は「トモダチ作戦」に参加した米兵からの視点で語られるフクシマの物語で、これは新鮮で面白かった。
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本作は、『ジョーカー・ゲーム』シリーズで知られる柳広司さんによる、福島第一原発事故をテーマにした短編集である。3.11の後、放射能に関する虚実入り混じった情報が飛び交った。柳さんは、作家としてどのように描くのか。
「道成寺」。地元の原発関連企業で働いていた青年は、原発への懸念を示す彼女と喧嘩別れした。その2週間後、懸念は現実になった…。線量計がけたたましい警報音を鳴らす中での、決死の作業。彼らがいたから、日本の今がある。
「黒塚」。事故直後、地元住民が避難した方向に向かって、放射性物質が拡散した。住民がそれを知ったのは、後のこと。都合が悪い情報は、伏せられた。見えない恐怖に怯え、壊れてしまった青年は、今どうしているのだろう。
「卒塔婆小町」。本作中、最も暗澹たる気分になった。福島から避難し、この女性のような苦悩を味わった人は多いだろう。能天気に東京五輪に沸く東京との、残酷なコントラスト。そんな彼女に手を差し伸べたのは…。こういう事例は実際にあったのではないか。時事の話題を取り入れた、突き刺さるような1編。
「善知鳥(うとう)」。いわゆるトモダチ作戦に参加した米兵が、カウンセリングを受けている。彼が封印した記憶とは…。フィクションであってほしいと思うが、フィクションと言い切れない、リアリティと怖さがある。
「俊寛」。原発事故に伴う政府・東電の対応は、被災者同士の分断を生んだ。ここからは住めます。ここからは賠償金が出ます。極めて事務的に、線が引かれていく。避難指示の解除というニュースは、朗報でも悲報でもあった…。
福島に対する悪質なデマに、憤りは感じていたものの、僕自身、正直この話題を避けてきた。本作の参考文献には、見たくない名前も並んでいたが、柳さんの筆致はあくまで冷静であり、覚悟していたほど読み進むのに難儀はしなかった。
一方、読みやすいからこそ、自らの意図的無関心を突きつけられたのも事実だ。僕が生きている間に、福島第一原発の廃炉作業は終わらないだろう。福島の苦悩への関心を、失ってはならない。
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限りなく、ノンフィクションに近いフィクションという印象を受ける作品である。3.11や原発をテーマにしているため、内容は非常に重たい。しかし、日本国民である以上はずっと語り継いでいかねばならない問題(出来事)ではないのだろうか。作品全体を通して、リアリティーが溢れており、あの日テレビで見た光景が頭の中によみがえってきた。
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福島の原発事故にまつわる短編集。
ちょうど3・11に読みました。作者のことはずっと気になっていたけど読んだことがなく、初めてがこの作品です。だからこの作者が普段どのような作風なのかは知りません。
原発で働く青年、原発近隣で生活していた人々、支援に来た米軍人。どの話もドキュメンタリーのようにリアルさがあり、具体的で読みやすかったです。
それゆえこれが物語なのかわからなくなりました。
そしてこれが作者の原発に対する考え方なのだとアピールされているようで少し怖かったです。ここに政府など原発肯定派の話があれば違ったのかと思います。
あいまいですが昔なにかの対談で誰かが「震災前と後で小説は変わってしまった」というようなことをいっていました。私も小説に震災について少しでも触れているものは多く見かけました。そういう中で真っ向から震災や原発事故に触れたものはなかったので、新鮮でした。
正直な感想としては面白いということではなく『考えさせられる』小説でした。
好きなのは米軍人と医師の対話形式である『善知鳥』です。まさかの終わりで驚きました。
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原発作業員、放射能汚染から避難している人、被災し価値観を見失いかけている人、友だち作戦の従事者、故郷を追われコミュニティーを壊されてしまう人…。
震災、原発事故で様々な被害を受け、今なお苦しんでいる人達がたくさんいる事を、改めて思い起こさせてくれた。5年が経ち、記憶が少しずつ曖昧になりつつある今、価値ある作品だと思う。
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フクシマの原発事故で失われた沢山のもの。その連作短編集。
初めの2編は、フィクションではなくノンフィクションのようだ。
書かれた以上の苛酷な現実があると思う。
もっと深く掘り下げて欲しかった。
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【収録作品】道成寺/黒塚/卒塔婆小町/善知鳥/俊寛
*何か明確な主張があって書かれたというよりも、書かずにいられないという思いから「記録」した物語、と読めた。
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チェルノブイリの事故で、溶けた燃料棒が固まってできた、
”象の足”と呼ばれる塊。
今現在も、ものすごい量の放射能を出し続け、
誰も近寄ることはできないという…。
#道成寺
原発は、絶対に壊れないと信じていた…。
福島第一原発の下請け会社の作業員。
事故直後、爆発を防ぐため、文字通り命がけの作業をさせられ被ばく。
線量計のカーン、カーン、カーンと激しく鳴り響く警報音…。
#黒塚
安全な場所へ避難したはずが、
強い放射能が流れる方向にそって移動してしまい、被ばく。
しかし国は、もっと前からその風向きを知っていた。
逃げても逃げても、目に見えない放射能に追いかけまわされる恐怖。
#卒塔婆小町
漁師という職を失い、人格までも変わってしまった夫から逃れ、
子供と東京で避難生活を送る妻。
#善知鳥
米軍のトモダチ作戦に参加し、極秘の任務に就いていた米兵。
助けられなかった命を悔やみ、PTSDに…。
#俊寛
住んでいた村が避難区域に指定され、ともに仮設住宅で暮らしていた仲間が、
避難指示区域解除の線引きによって、隔てられる。
道成寺・黒塚・卒塔婆小町・善知鳥・俊寛
すべて、強い情念のこもった歌舞伎や能の演目。
原発という、人間の力では太刀打ちできない巨大な怪物…。
あがいても、あがいても、どうすることもできない虚しさ…。
地震と津波は天災。
けれど原発事故は人災だとも言われていますよね。
本書では、米兵が日本という国を、
あれだけの被害者を出しながら、誰も罰せられない妙な国と表現していますが、
あまつさえ、再び原発を稼働させようとしている、
我慢強くて忘れっぽい国のようにも思えるのです。
『象は忘れない』
このタイトルに込められた意味を、深くかみしめています。