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紙の本
何がいけなかったのか
2017/10/09 20:06
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
北一輝が歴史に名を残す最大の理由は、2.26事件を起こした皇道派青年将校らの行動の理論的根拠がその著「日本改造法案大綱」だったことによる。しかし安易に、あの大川周明からも魔王と恐れられた右翼思想家、等のレッテル貼りするのは間違いである。著者の渡辺京二は、日本改造法案大綱が若い軍人たちがかぶれた軍事化の教典ではない事を、その革命思想が緊密に関連している日本国家論「国体論及び純正社会主義」を繙き徹底的に読み解いた。本書の最大の成果はここにある。23歳の若者がほぼ独力で至った思想の高み、時代に対する先取性やオリジナリティがいかなるものであったかを著者は遍く書き尽くす。以下評者なりにかいつまむ。
・近代科学が依拠する進化論に根差した国家観、即ち生存競争説に根拠を置く社会進化とその理法こそが彼の唱える「社会主義」である。
・中世における極端なコミューン原理の社会、近代における極端な個人原理の社会の経験は、現代の世にそのジンテーゼ的統合化社会の実現を予見させる。(このヘーゲルの弁証法的思考は初期マルクスの史的唯物論的立場に近い。)
・日本においては、明治維新がその民主革命第一段階であった、とする独自の定義。
・単細胞生物が無数に分割した先に行きつく分子と同様、個人とはより巨大な有機的個体である社会の分子とみるべき、という社会有機体説との親和性。ただし評者の見立てでは、これは要素還元主義的な有機体説であって、単細胞生物アメーバが複雑なネットワークを通じて子実体を形成するという観点で宇宙論を構成する南方熊楠の指向する哲学とは逆方向のもの。
・近代民主国は、かつての君主の所有物たる物格を離れ人格を有するとする。同じくその要素たる国民も人格を有するようになる。逆に立憲主義下の君主(日本では天皇)は国家機関となる。(天皇機関説の先取り?)
・第一革命段階で発生し今後打破されなければならない階級である経済的支配層(ブルジョワ)の隠れ蓑となって、教育勅語などに表象されている国体論(天皇制イデオロギー)を妄想であると強く批判する。
・明記は避けたが、究極的には天皇制は廃止されるべきものであると考えている。維新の志士たち自身がわけもわからず行動に突き動かされたその原動力たる「天則」の正体を知らずに、担ぎ上げた天皇と混同しまってできたのが今の天皇制である、と突き放す。ただし、天皇は維新革命のシンボルではあった。(象徴天皇観の先取り。)
佐渡は承久の乱で順徳院が流された地。歴史的に見ても、日本人は天皇を尊敬せずにやり過ごしてきている、という歴史観は、配流地佐渡が北の生まれ故郷であることが影響しているのか。
「国体論及び純正社会主義」執筆後、その思想を現実化すべく思想家北は、革命家として、アジア主義の大陸浪人たちと行動を共にする。辛亥革命では孫文とは距離を置き宋教仁のシンパとなるが、彼は暗殺され、日本革命の先触れである中国革命における彼の夢は挫折する。大陸からの帰還後、法華経朗誦に明け暮れる。軍国化の系譜に連なる多くの思想家・活動家が熱烈な日蓮主義に取り憑かれる。ここに歴史を動かす人々の集合的無意識のメカニズムの一端があるように評者は思うが、残念ながらその解明は著者の手に余るとスルーされてしまう点は少々残念だ。彼の読経の日々の中で得た宗教的感得としての絶対矛盾の自己同一とは何だったのか。東洋的非唯物弁証法の帰結「順逆不二の法門」は、歴史に埋もれるような革命の「大義」に身を委ねると、結局は目的のためには手段を選ばぬというマキャベリズムと何ら異なることがない、という皮肉な結論だった。