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体内時計を「人工的に制御」できる可能性が!
科学の力で睡眠不足を解消する研究最前線

睡眠の質は、仕事の質を左右します。調査によると、「日中眠気を感じる」と回答する人が多く、仕事を多くこなす世代の方にこそ睡眠不足が蔓延しています。その大きな要因には「体内時計の乱れ」が考えられますが、体内時計を整えるために必要なことは、規則正しい生活やディスプレイを見ない生活など、それができれば世話ないよ…というものばかり。

ところが最新の研究によると、体内時計を「人工的に制御」する可能性が見えてきたようです。その現状やメカニズム、さらに、体内時計の制御によってもたらされる未来まで、概要を記しました。科学の力で睡眠不足が解消され、仕事の質をあげられる未来はいつ訪れるのでしょうか。

睡眠や体内時計についてより詳しく知りたい方、仕事の質を向上させたい方のために、記事の末尾でおすすめの書籍を数点ご紹介しました。生活の質に密接にかかわる睡眠のメカニズムは、知れば知るほどおもしろい世界です。

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約4割の人が「日中眠気を感じる」と回答

みなさん、日中に眠気を感じることはありませんか?夜なかなか寝つけなかったり、頭がすっきりせず、ボーっとしてしまったりすることがあるのではないでしょうか。

おそらく、多くの方がこのような「睡眠の質の低下」による悩みを抱えていると思います。それもそのはず、睡眠の質に関する調査によると、約4割の人が「日中眠気を感じる」と回答したというのです。さらにこのような悩みは特に20~40代の人に多いことも明らかになっています。

睡眠不足による悪影響は、日中の眠気だけにとどまりません。睡眠が不足すると、疲労を感じやすくなるだけでなく、情緒不安定になり判断力が低下するなど、生活の質全体の低下に繋がります。さらに近年では、高血圧や糖尿病など生活習慣病の羅患リスクを高める可能性も指摘されています。

今や、「睡眠の質の向上」は厚生労働省によって「栄養・食生活の管理」や「禁煙・節酒」などと並んで改善に取り組まれている程、日本における社会的課題とも言えるものになっているのです。

平成25年度の厚生労働省「国民健康・栄養調査」
厚生労働省「健康日本21」

睡眠の質の低下要因は、体内時計の乱れ

こういった睡眠の質の低下や不眠の大きな原因の一つとなっているのが、「体内時計の乱れ」です。体内時計とは、その名の通り生物が体の中に元来有している時計のこと。我々ヒトも体内時計を持っており、体内時計が「夜」を感じることで自然に眠くなるようになっています。

しかし現代では夜も明るい環境が多く、体内時計が「夜」を感じにくくなってしまっています。特に、パソコン・スマホ・テレビなどによるブルーライトは体内時計を乱すことが知られており、仕事などでディスプレイを使用することの多い20~40代の方々が睡眠に対する悩みを持っていることは無理からぬことなのかもしれません。

我々の体内時計を整え、実際の夜と体内時計の夜を一致させることこそが睡眠の質向上への第一歩となると考えられます。

体内時計を整えるためには、(1)生活習慣を改善し(2)夜にできるだけ光を浴びないようにすることが必要と言われています。すなわち規則正しく、時間に合った生活をすることで体内時計は整えられていくのです。

しかしながら、現代において完全に規則正しい生活を送ることは困難ですし、夜に光を浴びない、ディスプレイを見ないという生活も事実上不可能であるため、画期的な解決策が求められています。

最新研究:電気による体内時計の制御

そのため、これまで体内時計を人工的に制御する試みが盛んに行われてきましたが、それらは極めて困難でした。

と言うのも、体内時計をはじめとする生体現象の仕組みは一般に極めて複雑だからです。体の中では、数多くの分子やタンパク質が密接に関連しあうことで体内時計が制御されているのです。

ところが近年、体内時計を整えることに成功したという研究が報告されました。なんと、電気を使うことでシアノバクテリア(藍藻)の体内時計を制御できたのです。

この電気的な制御法は他の生物にも有効であると予想されているため、我々ヒトへの応用が考えられるだけでなく、体内時計の制御メカニズム解明にまで繋がることが期待されています。

ワイリー・サイエンスカフェ(論文)

電気によって体内時計を整えるメカニズム

これまで困難とされていた体内時計の制御が、なぜ電気を用いると可能になるのでしょうか。順を追って説明したいと思います。

先程述べたように、体内時計は様々なタンパク質や分子が相互作用することで形作られる、極めて複雑なシステムです。しかしその中でも、「体内に存在する電子の多寡」は直接的に体内時計をつかさどる重要なファクターであることが知られています。

例えば、シアノバクテリアは「KaiC」というタンパク質にリン酸という分子が結合したり解離したりする反応が約24時間周期で進行しています。シアノバクテリアは、主にこの24時間周期の反応を利用して体内時計を形作っていると言われているのですが、「体内の電子不足」はKaiCのリン酸結合反応をリセットし、体内時計を強制的に夜にしてしまうのです。

したがって、人工的に電気をかけ、体内の電子の量を減らすことができれば、任意のタイミングで体内時計を夜にすることが可能となるのです。

しかしここで問題となるのは、体内の電子量をコントロールする方法です。我々ヒトや今回の研究で用いられたシアノバクテリアの細胞は、電気を通さない膜に覆われているため、通常は細胞内部の電子の量を制御することはできません。

そのため、これまで細胞膜を通り抜けて電子を運んでくれる分子が盛んに考案されてきましたが、多くは微生物にダメージを与えてしまうため、体内時計のように数日単位の観察を行うことは不可能でした。

成功の鍵:PMFと呼ばれる新しい分子

以上の問題を克服する鍵となったのが、PMF, poly(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine-co-vinylferrocene)と呼ばれる、微生物や細胞に害の少ない分子です。

この分子は電子を運ぶ性質だけでなく、体内・体外に存在する水との親和性、そして細胞膜との親和性を兼ね備えているため、自由に細胞を通り抜けることができ、細胞との電子の授受もスムーズに進行したのです。その結果、細胞へのダメージも極めて小さく、体内時計の制御が可能となりました。

このPMFを使い、体内の電子の多寡を12時間おきに変化(電子不足=夜, 電子過剰=昼)させると、ばらばらの体内時計を持っていた微生物たちが、きれいに体内時計をそろえることが確認されました。

さらに、人工的な電子の量のコントロールは、単に体内時計を刺激しているだけではありませんでした。電子の量の調整をやめた後でも、シアノバクテリアは3日間以上、体内時計のリズムを維持し続けたのです。

電気による体内時計制御によってもたらされる未来

今回の報告で微生物の体内時計を整えることに成功したように、我々ヒトでも体内時計を制御することができれば、睡眠の質の大幅な向上が期待できるでしょう。

例えば、夜眠る前に微弱な電気をかけたり、電子を不足させるような薬を飲んだりすることで体内時計を強制的に夜にできるかもしれません。シアノバクテリアは電気による体内時計の制御が3日以上持続したことを考えると、3~4日に一度程度の処置で済むと推測できます。

さらには、体内時計のズレから生まれる時差ボケを解消させる方法としても使えるようになるかもしれません。多くの海外出張をこなされている方には重宝する便利な技術ですよね。

また、最近ではPMFを利用した体内時計リズムの検知法も報告されています。この手法を応用すれば、自分の体内時計を簡単に把握することも可能となるかもしれません。

もちろん電気を使った体内時計の制御はまだまだ始まったばかりの研究です。我々の体内時計を整える技術になるのは時間がかかるかもしれませんが、簡単に体内時計を整えることのできる未来になるといいですね。

Oxford journals(論文)

もっと詳しく知りたい人へ、おすすめの本!

体内時計は我々の生活や健康と密接に関わっています。

日本人の死因第一位と言われるガンや、認知症などとも体内時計は関連している可能性が指摘されています。そんな「体内時計と健康」をキーワードに、分かりやすく解説してある本がこれです。

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時間生物学事典

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ライタープロフィール

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BuzzScience(バズサイエンス)

東大発・サイエンスコミュニケーションサイト
2016年6月、「最先端の科学をどこよりも楽しく、面白く」をコンセプトに始動した、東京大学統合物質科学リーダー養成プログラム(MERIT)所属の博士学生によるプロジェクト。東京大学総長賞受賞者、化学系・生物系の東大首席を含む幅広い研究分野を背景に持つメンバーが集結。近寄り難く思える最先端の科学に三段階の記事レベルでメスを入れ執筆するという切り口から、日本のサイエンスフィールドの裾野を大きく広げることを目指す。

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