しばしば、電子書籍と紙の本は、間に「VS.」を挟んで語られてきたように思う。
曰く、どちらが優れているか。曰く、どちらがより魅力的であるか。
書店さんや流通の問題、新しい図書館の在り方などにも関わる話であり、一応は出版業界の片隅でご飯を食べている人間としても無関係ではいられない。
そんな私は、以前はバリバリの「紙の本」派であった。
小学生だった私に、この世に「作家」という職業があると教えてくれたのは『ハリー・ポッター』シリーズである。いつでもどこでも持ち歩き、カバーが擦り切れてボロボロになるまで読み倒した『ハリー・ポッターと賢者の石』の匂いを嗅ぐと、ハグリッドが扉をぶち破って登場した瞬間の興奮をありありと思い出し、その度に腰が抜けて恍惚としたものだ。
紙の本は、装丁のデザインは言うに及ばず、ページの手ざわり、香りを含めての「作品」であり、ある意味、それ自体が宝物なのだ。電子書籍は便利であると分かっていても、中々に手を出そうとは思えなかった。
それが変わったのは、上京してずっと住んでいた大学の寮が手狭になったことがきっかけであった。紙の本は宝物という意識に全く変化はないのだが、それはそれ、これはこれである。本にスペースを奪われ、ラジオ体操すら出来なくなったと気付いた時、電子書籍を試してみようと、ある意味諦めがついたのだった。
そうして実際に使ってみた感想はこうだ。「めっちゃ楽!」。
特に、巻数が多く、場所を取るような漫画などは非常に便利だ。続きが気になる作品は発売日になった瞬間に読むことが出来るし、タブレット一つあれば、いつでもどこでも読み返すことが出来る。文字数のやたら多い資料も、気になった単語ですぐに検索出来るのは強い。すでに紙で持っているのに、わざわざ電子書籍で買い直した本もある。
さんざん語りつくされた話ではあるだろうが、やっぱり、紙の本と電子書籍、それぞれに長所短所があって、人と時と場合によって、どの媒体が最適であるかは全く異なるのだろう。
先日、電子書籍で購入した漫画をたまたま紙の本で読む機会があり、見え方に違いがあることに驚かされた。同じ内容で、しかもタブレットのほうが画面は大きいはずなのに、紙のほうが分かりやすいというか、読みやすいように感じられたのだ。だが、明るさの調整機能やズーム機能を鑑みるに、電子書籍のほうが読みやすいと感じられる方も絶対にいらっしゃるはずだ。
大学院生の頃に「自分の学術書には書き込むもの」という習性を得た私は、内容を覚える必要のある本は今でも紙の本を買っている。でも、きっとデジタルネイティブの世代は、電子書籍ならではの機能を使いこなし、より効率の良い覚え方を身に着けているのだろう。
個人的には、「最適な形を読者が選べる」ということが、とても大事なのではないかと思っている。現実から目をそらした理想論かもしれないけれど、どっちがいいかではなく、どっちもいいよね、と「いいとこどり」が可能な仕組みが出来てほしいものだ。そして、より多くの人が、その人にとって最高の読書体験が出来ますようにと願ってやまない。