電子書籍
青春官能ファンタジー
著者 著者:庵乃 音人
奥手な純の恋の手ほどきをするのは、死んだばかりの幼馴染みの凪。幽霊に助けてもらった純は無事に童貞を卒業できるのか?笑えてエッチでちょっぴり切ないニュータイプの青春官能ファンタジー。特別附録として、1月25日刊行予定の“青春官能ファンタジー”シリーズ第二弾『罪つくりなからだ』の冒頭部分を収録!
ずっと、触ってほしかった
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紙の本ずっと、触ってほしかった
2014/12/26 00:55
至高の純愛ファンタジーは官能小説との架け橋
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作を執筆した作者は官能小説家である。しかし、本作は敢えて官能小説にあらず!と声高に断言したい。喪って初めて気づいたお互いへの深い愛情が迸る至高の幼馴染みラヴファンタジーであり、同時代の諸兄なら現代的な1つのすれ違いの切なさとして、あるいは幼馴染みとは言わずとも一時期を親しく過ごした異性ともしかしたら後の人生を共に歩むこともあったかもしれなかったと思わず夢想してしまいそうな若かりし頃のノスタルジーとして共感を呼ぶ作品である。この純愛物語を構成するにあたり官能描写は手段でしかなく、そもそも直接的な官能場面も多くはない。しかし、場合によってはハンカチ必須の感動に向けて準備が必要であろう。
主人公の幼馴染みであり、何事にも世話を焼いてくれていながら突然の事故で幽霊となってしまった享年19のヒロイン【凪】が、何かと凪に頼ってばかりのヘタレな主人公(22歳)の勝手に思い描く男目線の「女性」と、その内面に隠されている「女」のリアルな本音というギャップを明るみにしいていく中盤までは全体がコミカルなだけに滑稽でもあり、同時に主人公のダメさ加減がクローズアップされているようでもある。
しかし、お眼鏡に叶う女性が現れる。野暮な装いで地味。主人公も当初は見向きもしていなかった女子大生の【真知】が凪によって磨かれていく様は映画『プリティ・ウーマン』あるいは童話『みにくアヒルの子』を彷彿とさせるスカッとした展開であり、ストーリーとしても流れがほっこりする方向に変わっていく心地良さがある。
敢えて人目につかぬよう振る舞っていた真知の事情が明かされる場面にはリアリティのある哀しみが伴っていてやりきれなくもなるが、それを包み込もうとする主人公の言動には男としての成長も垣間見られ、これを契機に凪の「お役御免」が近づいてくる。
そして、『一夜の永遠』と名付けられた第六章こそが本作のクライマックスである。ここまで別の形で使われていた凪の能力がこんな形で最大級に昇華するのかと驚きつつ、幼馴染みとして長く付き合ってきたからこそ打ち明けられなかった凪の想いが主人公と交錯し、まさに溢れ出る、いや、決壊する刹那はあまりにも素敵なプラトニック。男女が入れ替わった形ながら映画『ゴースト』のような切なさが存分に湛えられた愛情の発露の前には官能描写が邪魔とさえ感じるかもしれない。
また、真知とのとぼけたやり取りの中で主人公が凪とは果たせなかった「その先」にある、あるべき呼び方を乞うエピローグは物語として見事な結末であり、読み終えてから改めてタイトルを目にすると、物理的な接触に加えて幼馴染みだからこそ生前は伝えられなかった凪の心にも本当は「触ってほしかった」のかも?と深読みしてしまう良さがじんわりと滲んできた。
極上の愛情物語にして素晴らしき恋愛小説に仕上がった本作が官能小説のみならず普遍的に読まれることを切に望みたい。
紙の本罪つくりなからだ
2015/02/22 19:03
ファンタジーな設定にリアルな心情が弾ける
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者が角川文庫とタッグを組んだ「青春官能ファンタジー」シリーズの第2弾。ゴーストになってしまった幼馴染みとの甘酸っぱい愛情を、コミカルな中にも描いた第1弾にして前作『ずっと、触ってほしかった』にも通づるファンタジーな設定を踏襲しながら、それでいて前作とは異なる心情が弾けるシリアスさを今回は醸した仕上がりとなっている。
そのファンタジーな設定だが、今回は友人と魂が入れ替わるというもの。主人公の肉体は交通事故で失われてしまったので、無事だった友人のカラダに主人公のココロが宿った男が1人取り残されることとなる。そして、友人には妻【静香】がいて、主人公には恋人【早希】がいる。
入れ替わって労せず美しい妻をゲットしてウハウハな官能パラダイス~!……といったテイストではない。事故の原因は自分にもあると思い悩み、友人のフリをして静香との生活を続けることに苦悩する主人公を始め、全体には何とも言えない重さの空気が漂う。それなりの年月を共にした妻(静香)ならばスグにバレるだろうとの憶測も働き、静香の台詞からもそれは滲み出ているのだが、その読み手の憶測は半分当たり、半分外れる……予想以上だったという意味で。清楚で麗しい佇まいだった静香が次第に豹変していくのと、その過程の全てが心情として大決壊する終盤で描かれた女の内面(情念とも言えるか)はかなり壮絶。それだけの不幸も味わった静香だけに、その溢れ出る想いは男の想像を遥かに超えて重いのである。
主人公には健気で一途だっただけに、その存在そのものを喪った早希にはまた別の悲しみがある。しかし、もしかしたら……という感覚が次第に芽生えてくるという意味で静香とはベクトルが逆となる。主人公に内在するカラダとココロの「ズレ」が、そのまま静香と早希の心情のズレとなり、先輩でもある静香を思いやる早希の優しい気持ちが遠慮という足枷にもなるという様々な悩ましさが存分に描かれている。
三者三様に抱えるズレとすれ違いの切なさは、後戻りできない悔恨への抗いのようでもあり、もしかしたらという「if」のようでもあり、また、これを優柔不断な男の二面性に置き換えれば絶妙な三角関係でもあったりと、ファンタジーな設定に反したリアル過ぎるほどリアルな心情には見方によっても表情を変える深みがあって、こうした人物の内面を抉るように描いた小説という意味では見事であり、その水準はすこぶる高いと断言する。結末もまた「良かったね」と感じるか、あるいは切なさ倍増か……ヒロインのどちらに肩入れするかで印象が大きく変わると言えよう。まさに一筋縄でいかない物語である。
官能面については「寸止めのエロス」が追求されていて、正直なところ肩透かしと言わねばなるまい。場面こそ前作よりは多いものの、官能小説においても(リアルと同様に)前戯は下準備でしかないことを痛感してしまい、何だかんだ言っても結ばれてナンボなのだな~と下世話なことも思ってしまう。友人に付された官能面での設定も機能しておらず、最後の最後にピュアな結びつきが描かれるのみと考えれば、今回もまた官能要素が盛り込まれた、それでいて前作とは趣の異なるオトナのドロッとした部分も見せる切ない恋愛小説と捉えるべき作品であろう。