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空間メディア入門―僕たちは空間を使って何ができるのか
著者 平野暁臣 (著)
「六本木ヒルズアリーナ」「岡本太郎〈明日の神話〉再生プロジェクト」を仕掛けたカリスマプロデューサーの渾身の書き下ろし。空間というメディアだけが実現できるコミュニケーションとはなにか。国内から海外、万博から葬儀まで手掛けてきた空間づくりの達人が解き明かす、ウェブ時代の「空間を使いこなす発想と技術」とは?
空間メディア入門―僕たちは空間を使って何ができるのか
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2010/01/22 10:59
よいイベントのつくり方を指南
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:狸パンチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
アートが好きでも、美術館は足を運ぶことが億劫だと思う人は結構多いのではないかと思います。私は「順路」に従って、まるでどの作品も同じ時間だけ見て、帰れというような一般的な美術館の形態がどうも好きになれません。まるでベルトコンベアーにのって、アートをむりやり鑑賞させられているような気がするからです。いいアートをみつけたら、ほかの展示は無視して、じっくりいくつかの作品を味わうようにしています。しかし、一人のときはいいのですが、人と連れだっていくと、ベルトコンベアにのっている知り合いとペースが合わないことに困ることがあります。
日頃そう思っていたので、ただ作品を並べている美術館がもっともつまらない、と言い切る著者の意見には賛成です。本書は、日本のデザイン展などさまざまなイベントの空間プロデュースをしてきた著者が、アクティブな空間のあり方を教え、よいイベントの作り方を指南しています。
著者は岡本太郎さんの養子(実質は妻)の岡本敏子さんの甥とのことです。その関係で、岡本太郎さんや敏子さんの葬儀(本人は葬儀を開くなという遺言をしていたので「お別れ会」が正確です)のプロデュースをしました。作品をただ並べるだけではなく、岡本太郎さんの遺影に向かって三次元的にディスプレーをしたり、彫刻作品を照明などを活用して演劇仕立てにしたりする工夫をしました。
「空間で語る」という「で」の部分がいかに重要かを説いています。
海外での日本デザイン展や第一線の美術家たちのイベント、六本木ヒルズの太極拳イベントなど規模の大きなイベントのことが書かれていますので、小さなイベントをしている人たちとは異なるとは思いますが、その考え方は参考になると思います。いかにアクティブな空間をつくるか、その具体的な方法は、小さなイベントに限らず、ショップやレストランの内装にも適用できそうです。
「空間はメディアである」、つまり空間が情報を伝達するものだととらえ、インターネットが発達した今、バーチャルな情報があふれています。しかし空間はリアルに体感に訴えるものです。バーチャルとは異なる体感を提供するには、今はますます工夫が必要だと著者は強調しています。
本の後半は、情報が情報がマスメディアという中心からではなく多対多になっていることや、情報の「リキッド化」(液状化)、メディアの受け手が受動的なものから「探求型」に変わったことなど、メディア論が展開されていますが、これは既視感のある議論であまり目新しさはありません。でも、「空間」というメディアの機能を分かりやすく、講義された本書は、「なにかを人に感じてほしい」「自分の表現を他者に伝えたい」という人には刺激になる一冊だと思います。