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性と芸術
著者 会田誠
日本の現代美術史上、最大の問題作、
「犬」は、なぜ描かれたのか?
作者自らによる全解説。これは「ほぼ遺書」である。
「もちろん分かっている――美術作品の解説なんて作者本人はしない方がいいことは。だからこんな悪趣味は一生にこれ一度きりとする。本来無言の佇まいが良しとされる美術作品に言葉を喋らせたら――いったんそれを許可してしまったら――たった一作でもこれくらい饒舌になるという、最悪のサンプルをお見せしよう。ついてこれる人だけついてきてくれればいい。」(本文より)
日本を代表する現代美術家会田誠の23歳の作品「犬」は、2012年の森美術館展覧会での撤去抗議はじめ、これまでさまざまに波紋を呼んできた。その存在の理由を自らの言葉で率直に綴る。人間と表現をめぐる真摯な問い。
(目次)
I 芸術 『犬』全解説
II 性 「色ざんげ」が書けなくて
性と芸術
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紙の本性と芸術
2022/08/25 20:41
「犬」には、おっきしない
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:いほ - この投稿者のレビュー一覧を見る
サドを読んで、おっきするオトコノヒトはあんまりいないと思いますが(サド本人もおそらくしていないんですが、逆に、なんらか「教育」されてしまったオトコノ/オンナノヒトは今日の日本その他にたくさんいるのでしょうが)、
「犬」を観て、おっきするオトコノヒトもあんまりいなかったと思います。少なくとも会田誠本人はおっきしてなかったし、今もしないでしょう。「犬」は、おっきする/しないとは別方面について、確信犯的に狙いを定めて逆撫でするという、明確な意図を持った作品である、これが30年前の発表当時の共通の理解だったと、わたしは思います。花子も美味ちゃんもジューサーも切腹も、、、大きく見れば同様のコンテクストです。
(なお、本書のなかには、花子はその諸々のコンテクストの凝集度の高さから、もっと多方面で「炎上」してもいいはずなのに、なんで「犬」ばっかし、、と本人は考えている、というような箇所があります(こんな風には書いてませんが)。やはり、むつかしすぎて、多くのヒトには観えないのかもしれません。花子は、あたかも「漫画生原稿」のような(しかもISBN取得済みの出版物で狙い通りに絶版という)アプロプリエーション(盗用)なので読めないヒトも多いし、逆に「犬」のアイコニックな力(一目でナニ描いているかわかるし、なんか本気っぽい)を示す事態でもあると思います。花子はどうみてもクソエロマンガで、本気っぽく無い、に「見えます」。文句なしに芸術ですけど。)
が、なんだか、おっきする・してしかるべきと自動的に考えるヒト(「教育」の賜物ですね)が増えて(批判排斥するヒトも同様におっきしているわけです)、「あーめんどくさい、一回だけ言うとくわ、もぅ二度とせーへんで」と、書かれたのが、本書の1です。「犬」とは、当時大学院生の会田誠が、知的・戦略的・超絶技巧的に、決然と、以降現代美術家として生きていくという自覚を持って描いた、高度にコンセプチュアルでコンテクスチュアルな実質デビュー作である、このことが「啓蒙的(本人は嫌がるであろう形容ですが)」に「解説」されています。美術家による言葉によらないクリティック(絵画作品)を、当の美術家が言葉で「解説」する、これを当の美術家も「悪趣味」であると十分自覚している、この苦々しさのようなものが本書1の特徴だと思います。こんなものを書かせてしまった2022年現在の(視覚)文化の状況に暗いものを感じます(えらそうですいません)。会田誠はもう二度とは書かないだろうし、こちらも期待してはいけないと、強く思います。
続く本書の11は、おっきする/しないをめぐる、一見素朴な告白のように見えますが、この人が素朴なはずはありません。「それでも「犬 その他」は、おっきする/しないをめぐる(かのような)表象・意匠をもたねばならなかったのか?」についての考えが開陳されます。うえの「教育」への自己言及(自己をひとつの同時代のサンプルに見立てる)=「時代の証言」的な性格もあり、表象文化論的?・現代芸術論的?な重要度は、こちらのほうが上かもしれません。会田誠はポルノを全く否定しません(味方する)が、自分の作品はポルノではなく芸術であることも、きっぱりと肯定します。上下はまったくないが、別物である、と。
なんだかすこし腐すような文章になってしまいましたが、本書は内容自体は大変面白く(同時代のヒトには特に)、知的満足度も異常に高く、現代芸術/美術を語る上での必読書となっていることは、間違いないと思います。なにしろ、いわゆる「本人談(書ですが)」ですし(笑)。