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投稿者:ねぶた - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネット社会、少年犯罪、犯罪被害者、マスコミ報道、罪、病と責任、取り調べ、子との関わり、格差…… 衝撃的な事件をもとに現代が直面する様々な問題を炙り出す。
赦しは赦す側のためにある
共感でつながる現代人
読み進めていくにつれ、自分の心の闇に触れ、それを決して否定できないことに、また恐ろしさを感じる。
紙の本
結局なんなんだろう
2016/09/28 15:43
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投稿者:ポージー - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み終わって、悪い意味でなく結局のところなんだったんだろうと思った。現代は色んなテーマにあふれすぎている。そのテーマたちは個人からメディアまで様々な単位で日々ざっくばらんに取り上げられ、多様な感情や言葉にまみれてどんどん捨てられていく。しかもその言葉はその場のノリに合わせたテキトーなもので、すぐに対象を曖昧であやふやな世界に飲み込んでしまう。この本では殺人が起きたり人間の幸福について議論されたりと、明確なものが硬い文体で物語られている気がするのだが、なぜだか結局なんだったのと思ってしまうのはそういうことなのかもしれない。
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読み応えのある一冊だった。
自分の中の自分、誰かの中の自分、いくつもの自分があって、でもどれも本当の自分ではないような気がする。では本当の自分とはなんだろう。そもそも、そんなものがあるのか。
感情も存在も、ただ言葉によって作られるもので、言葉より前には何もなかったのかもしれない。自分自身もそれと同じく。
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そういう結末か…
崇はこうするしかなかったのかな。
ひとつの犯罪は、関係者をこうも変えてしまうんだな。
そして、家族を殺された挙句に容疑者扱いまでされた崇の、罪と罰とか、赦しとかについて語る部分、とても重かった。
すんなり納得はできないけど、でも、永遠に恨み続けるのも確かに辛い人生だよな…
未だに仕事場であったことに関して、誰かになにかを償わせたい、というような不毛な感情を抱えてしまっている私には痛かった。
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「人間は、決して完結しない、輪郭のほどけた情報の束だよ。生きている以上、常に俺の情報は増え続けるし、色んな場所、色んな時間に偏在する俺という人間の情報を、すべて把握するなんて、土台、出来るはずがない!しかも、入手される情報は常に偶然的で、断片的で、二次的で、おまけにその評価は十人十色だ!情報源としての俺自身と、そうした情報の寄せ集めとが完全に一致することなんて、あり得ないんだよ!・・俺はね、そのことに抵抗しなかったよ。むしろ、出来るだけ巧みに振る舞ってた。」(p.171)
彼女は、自分が生まれ、育ってきた世界のことが、よく分からなくなっていた。
今、彼女の身が置かれているのは、これまで知っていて、当たり前のように慣れ親しんでいた世界とは、なにかまったく違うもののように感じられた。それとも、単にこれまでが幸せすぎたのだろうか?自分はただ、この世界のいいところだけを見て生きてきたということなのだろうか?
彼女にとって、今世界とは、最愛の人が突然惨殺されて、しかもその悲しみに必死で耐え、どうにかそれを乗り越えようとしている時に、鞭打つような非情な言葉で、更に苦しみを加えてやろうとする人たちが住むような場所だった。(p.206)
「生物としてのヒトは、絶滅を回避するために、交配を通じて多様性を維持する進化のシステムを採用しているんだろう?その圧倒的に多様な個体が、それぞれに、ありとあらゆる環境の中に投げ込まれる。そうした中で、一個の犯罪が起こったとして、当人の責任なんて、どこにあるんだい?殺された人間は、せいぜいのところ、環境汚染か、システム・クラッシュの被害の産物程度にしか見なされないよ。犯罪者なんて存在しない。ただ、犯罪が存在するだけだ。」(p.457)
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怒涛の展開で、下巻は息もつかせぬ感じだったような気もします。ドミノ倒しのように、悪意とそれに関わった警察・マスコミ・人がさらに人を壊していくということに圧倒されました。
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「悪魔」の一打が下され、取り返しのつかない決壊へ。
責めるか?共感するか?赦せるか?進めるか?
徹夜で一気に読んでしまったので、頭の中が忙しく興奮してろくな感想は書けそうにありませんが・・
読み終わった瞬間に、タイトルの「決壊」という字が、ドンドン!っと一文字ずつ脳天に降ってくる。挙句、物語がじくじくと心を蝕んで眠れなくなる。
何の救いもないまま。何も取り返せず。状況は悪化するだけ悪化して。その救いのなさに、著者の強固な意志を感じました。
凄惨な描写は読んでいて気分が悪くなることもあったけれど、読み終わった今、今夜見る夢に影を落としそうなのは事件そのものや犯人の凶悪性ではなくて、
被害者の兄・崇が、弟の不在と過ごす日々。
許されない罪を、赦すしかないことの持つ意味。空虚です。
その空虚を書ききったという意味で、他の同様な作品からは距離があるように感じます。
次の作品の「ドーン」にも引き継がれている「自身と言葉の不一致」という考えについては、本作の方が実感しやすい。
ちょっと話がそれますが、「私って幸せ者です」とネットでわざわざ書いている人を見ると、そう書かなければ確かめられない幸せの不在と闘ってるんかなぁ・・・と思ってしまうことがある私。そこには少し嘲笑的な色合いもあったなぁと自覚して、自分の内なる醜さに居心地が悪くなりますが
例えその人がそうであったとしても、本作中の被害者・良介のように、自身と言葉の一致を後から確認することもできるし、そもそもその不一致があったから何なのだ、と今感じます。
私自身が、自身と言葉の不一致だらけの人間だからこそ、自分自身の多面的なあり方を思うと同時に、そういう人と出会ったならば・・・と思うと、より一層、著者の言葉の一つ一つを考えてしまう。
ちなみに、私はちょっと間違えて「ドーン」の方を先に読んでしまったけれど、平野さん未読の方は、本作→「ドーン」という順番で読むことをお勧めします。
ジャンルはまったく異なる2作品だけれど、そこには確かに連続性と、希望のふくらみがある。
くどい自分哲学が苦手な方にはお勧めできないけれど、色んな意味で重くて厚い作品を読む気になったら、是非本作のご検討を。
上巻レビューにも書きましたが、主張だらけなのに押し付けがましくない、むしろ読了後沢山のまとまらない思考の中に放り出される、強い作品だと思います。えぐいからって話じゃなくてね。
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秘匿されるべきものが匿名によって暴かれる。
佳枝、お前のせいじゃて。
木下とか友哉(母)など、気違いじみた女うまいよね。
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平野氏の読みやすい側の傑作。ひさしぶりに、今の時代(といってもリリースから数年を経ているが)に書かれた小説を読んだし、たしかに10年後に読んだところで(ひょっとしたら)「ああ、あのときはこんなこともあったかもね」という感想しか持ちえない可能性のある内容。
これまた久しぶりに、(普段は1日に数ページずつ読むというスタイルである自分ながら)1日で読破した。読みごたえあり。誰に共感し得るかは別として、引き込まれるストーリー。
感想としては、「悪魔」があまりにも「解説可能な悪魔」として提示される点が、あまりにも平易すぎて物足りない感じはあった。そういう点では、何年先も語り継がれる一冊ではないのかもしれない。いろいろなことが解説されすぎで、自分なりに座れる場所がないのだ。
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上巻に比べて物語が進んでいくので読みやすい。
生き辛い世の中だ。
現実に起こっても不思議じゃない内容の小説だった。
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最後まで読めば、きっと希望があるに違いない、なければならない、とそれだけを信じて必死に読んだ。けれど、結局「救い」がないまま閉じてしまうラストに衝撃を受けた。
作品の本質とは関係ないけれど、作中、捜査機関=警察で、検察の存在が全然出てこないのが、この作品の描いている「時代」なんだと思う。今、同じような状況を書いたら、間違いなく、検察官も一定の存在感をもって描写されるだろう。
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下巻はどうなるのかと一気に読んだ
身内が執拗に疑われることで家族は何倍も苦しめられる
警察の完全な不手際で犯人は死亡
家族は壊れた
そして火種がまかれた
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『だから、こんな世の中イヤだと思ったらさ、やっぱり、とうてい社会が受け止めきれないような過剰な方法を選ばないと。そうなると、もう無差別殺人しかないわけ。別に大袈裟なことやる必要はないんですよ。でっかい建物壊すとかさ、大義名分を掲げてエライ人暗殺するとか、そんなの要らないって。フツーの人が、意味なく隣にいるヤツをブスッとやるのが、システムエラーとしては一番深刻なわけ。オレらがやってるのは、要するにそういうことなんですよ。っていうか、オレの解釈ではね。これだけ言って分かんないっていったら、多分ね、馬鹿(爆)…』
ー
『《少年犯罪なら、警察は誤認逮捕が一番恐いはずだから、自首するように追いつめてくいくだろうな。マスコミに情報小出しにして、身内に気づかせるんだよ。》』
ー
「何もかもが、心底、イヤになってた。ー 何もかも、ね。…自分か、世界か、ーーどちらかを愛する気持ちがあれば、人間は生きていける。だけど俺は、そのどちらに対しても、あの頃、愛情を失いかけてた。そんなふうに感じる自分が恐かったよ。…死にたくなかったからね。」
ー
「人間は、本当に真剣に、誰がどう見ても絶対に信用するような顔で、平気で嘘を吐く。」
ー
『〈死者の名前など、失われたファイルのための「無効なショートカット」みたいなものだ〉』
ー
『《死んだらオシマイ/神サマいない/地獄もない/ヤリたいことヤッタ奴の勝ち》』
ー
「殺されてもいいと思ってるなら、殺してもいいということですか? ー いや、違う。…僕が殺されてイヤだっていうのと、人が殺されてイヤだって感じるのと、何か関係があるの…かな?…ないよねえ?…ねえ?」
ー
「いいか! 〈幸福〉とは、絶対に断つことの出来ない麻薬だ! それに比べれば、快楽などは、せいぜい、その門番程度の意味しかない! 違うか? 人間は、快楽を否定することはできる! しかし、〈幸福〉を否定すること絶対に許されない! このたった一つの残酷極まりない、凶悪な価値が、この社会のすべてを支配しているのだ!」
ー
「完全に脳ミソ、トケてた。」
ー
『僕は、正しいと信じることのために、人に侮辱されるのを誇りに思う』
ー
「人間の生の長さは、生物としての寿命か、それより短いかのどっちかだよ。その二つしかない。死刑は要するに、犯罪者の寿命を許さないっていうことだろうね。殺された人間が、寿命よりも短い生しか生きられなかったことの報いとして。」
ー
『ーーかつては誰もが子供だったという、その一事を以て、すべては赦されなければならない。』
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再読。
私が平野啓一郎先生の本に嵌る切っ掛けとなった本。
2011年12月、これまで痛快娯楽小説しか読んでこなかった私が、単なる推理小説だと思い購入。
読み終わると共に放心状態に陥った。
感想は特に記録していなかったのだが、今でも覚えているのが、「この作者、天才!?」ということだけ。
それから、「ドーン」「透明な迷宮」「本の読み方」「葬送」「顔のない裸体たち」「かたちだけの愛」「マチネの終わりに」「あなたが、いなかった、あなた」と読んでここに来て再読。
初めて読んだ時は、難しい小説だなというのが正直な感想だったのだが、再読だと随分変わる。
「葬送」に比べるとはるかに読み易い。
当時も思ったことだが、これはとても深い本だと思う。このたった2冊の中に、ありとあらゆる世界が詰め込まれている。
エリート公務員とその家族、ネット、少年犯罪、被害者家族、加害者家族、あらゆる側面から緻密に物語が紡がれている。
感想は書ききれない程頭に溢れてくるのだが、文章にするのはとても難しい。
一度手に取って読んでみてほしい。
平野啓一郎先生の本は、読む順番を間違ってしまうと、これは無理だとその後諦めてしまう可能性があるが、是非この本を先に手に取ってほしいと私は思う。
私のような、娯楽小説しか読まない人間にも十分に染みたから。
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初、平野作品。長編の上下巻で圧倒的な読み応え。
ストーリー展開よりも人間の思想、行動に重点が置かれ、純文学的な描写が難しいが今まで読んだことのないようなもので新鮮だった。夢に出てくるだろうな…と思ったら本当にでてきて恐ろしかった。
登場人物が次々と壊れていく。
読んでよかったけど、読まなければ良かったとも思えた。
読むのに体力がいります。晴れた日の、日中に読むことをオススメします。