商品説明
30万人を擁する家電王国に君臨し、数多の「神話」に彩られた男。昭和という時代に自らのアイデンティティを重ね、その終焉とともに鬼籍に入った94年の生涯を追う。故郷への思慕、父の没落と家名再興、身内への恩讐、そしてスキャンダル……。新資料と緻密な取材によってこれまでの「定説」を覆す、幸之助評伝の決定版。
著者紹介
岩瀬達哉 (著)
- 略歴
- 1955年和歌山県生まれ。ジャーナリスト。「年金大崩壊」「年金の悲劇」で講談社ノンフィクション賞受賞。ほかの著書に「新聞が面白くない理由」など。
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紙の本
神話のヴェールを剥いだ松下幸之助
2011/07/30 17:18
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:碑文谷 次郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著名人の実像と虚像の落差を知ることは第三者にとって蜜の味がするようだ。本書は、10歳で丁稚奉公に出された少年が、遂には30万人を擁する家電王国の創業者として君臨するまでに上り詰めるサクセスストーリーであるとともに、その成功の陰で、実に人間臭い因縁や怨念が蠢いていた事実を、丹念な取材で白日の下に晒した労作である。
二股ソケットや砲弾型自転車ランプの起業、その総代理店からの補償金要求、ラジオ開発の成功と「真空管」調達問題、GHQによる公職追放、子会社松下電器貿易の密輸疑惑、フィリップとの提携交渉と日本におけるテレビ事業の創設、「熱海会議」における起死回生の販売改革、独禁法違反と不買運動・・・さまざまな局面で獅子奮迅の陣頭指揮する幸之助は、まさに「経営の神様」の称号にふさわしい姿を彷彿とさせる。
その半面で、町工場起業の苦労と喜びを分かち合った義弟井植歳男の別離、元側近部下への徹底した冷遇、69歳での現場復帰、血で血を洗うビデオ戦争、孫正幸に賭けた骨肉の執念、そして30歳年下の「世田谷夫人」とその子供たち・・・これらのエピソードの中にまぎれもなくもう一人の幸之助がいる。
但し、と急いで付け加えねばならないが、本書は松下幸之助のスキャンダルを殊更に追うものではない。小学校の遠足で幸之助生家跡の松の木を観光バス窓外に見て以来、同郷の大先輩である彼の人生の軌跡について、≪書くことが運命づけられている≫と感じた著者が、積年の思いを込めてその94年の全生涯を緻密に辿ったものである。読後、神話の奥から登場した松下幸之助はやはり巨人だったのだなと、印象付けられるのは、そういう著者の、「松下電器やPHP研究所からの協力を得ない」という公正な執筆態度と、何よりも幸之助に魅せられて敬愛する愛情が基底に流れているからだと思う。中立的甘さの中に、苦みも効かせた風味のある蜜の味である。