紙の本
4年の歳月の意味
2011/05/22 20:29
9人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:多川 - この投稿者のレビュー一覧を見る
単純なことを素直に理解するのは意外と難しい。人はどうしても、
誰かの言った言葉、いわゆるレッテル、又聞きをもとにして見てしま
うからだ。例えば、自己責任、というのは元々は金融業界用語で、人
の生き方の基準などではない。
つまり、未だフリーターなのは社会が悪いから。赤木の、こんな単
純な主張が納得出来ない人も居るのは不思議だ。社会が悪ければ、人
の生活も考え方も悪くなる。当たり前のことだ。ただし、環境や個人
差があるから、悪くなる程度が一様ではないだけのこと。
歴史の本を読めばすぐ分かることだが、歴史とは、世の中が悪い、
ならば悪い世の中を改めよう、と考え行動した人達の記録のことだ。
つまり、すべては世の中が悪いから、と分かるところから行動は始ま
る。もちろん、今の世の中に満足している人もいるが、それは変化す
ることに気がつかないからだ。
単純なことの理解が難しい理由はもう一つある。それは、単純なこ
とほど、好き嫌いで決めやすいからだ。認めない、認めたくないとい
う気持であれば、そこから進めなくなる。別な言い方をするなら、本
書を読む人は、自分の気持ちに反すとしても、事実は事実として認め
る度量があるのか、と問われる。問題提起は、単純、つまりカネの問
題。だからこそ、誰もがそこで腰砕けになるのだ。
で、未だフリーターなのは社会が悪いから、もちろんその通り。も
う少し丁寧に言えば、フリーターを生み出し、固定化し、格差拡大さ
せる世の中は悪い。こういう単純なことがわかるのかどうか、なのだ。
赤木とは何者だ、などということは暇なゴシップ好きに任せればよい。
格差等を論じた本はいくらでもある。しかし、わたしは、普通の、
単純な事実を、普通の言葉で語った、ということ、それは誰でも出来
そうでいてイザとなると出来ない、さすがだな、と思う。やはり、誰
かが、いつかどこかで言わなければならなかったことだ。口火を切っ
た赤木は、そのことだけで評価されるべきだろう。もちろん、対策の
提案迄する必要はない。そんなことは他の本に任せておけばよい。
文のスタイルは、何か馴染みにくいが、しかし、分かり難い文では
ない。赤木の不思議な文体は、たぶん何かを象徴している、という予
感がするが、それはいつの日か明らかになるだろう。いずれにしろ、
赤木は、当たり前のこと、普通のことを単純に話しているだけだ。そ
してそれは、著者の意図を超えて、深読みが出来ると言うことになる。
なぜなら、どんな問題も、単純なことから始まるからだ。そのつもり
で意図的に読めば、思わぬ問題の出発点としても読める本だろう。
紙の本
バカは死ななきゃ、直らない
2011/05/24 09:23
15人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
赤木君は中途半端にオツムが良く、そのくせ、自意識、自我が強すぎ、「日本社会という巨大なる福祉システム」に反発し、ドロップアウトした。日本社会の基本は、壮大なる助け合い、平等の精神に貫かれた支え合いを提供する「保険の提供」で出来ている。ただし、この日本社会がもたらす莫大なメリットの受益者になるには、いくつかの条件がある。まず、基本的に自我を押さえ、自己主張をしすぎないこと。日本では、みんな我慢し、他者を必要以上に傷つけないよう、また「たまたまの思いつき」である特定個人がひとり勝ちしたり、親の総取りにならないよう、分け前を均霑する基本原理のもとで生きている。これは一見非常に不公平な構造でもあって、勉強もせず、のんべんだらりと過ごしているプーさんが落ちこぼれないよう、また落ちこぼれても不必要に痛めつけられないよう、人の倍も勉強し、人の数倍も働いている人が、その働きに見合った報酬を得ず、事実上のタダ働きを甘受し、トンマで間抜けな人の分まで働き、社会全体を支える、と、こういう構造になっているのである。だから日本社会は圧搾空気のような緊張感が、実は結構充満している。落ちこぼれには落ちこぼれの不満があるようにエリートにはエリートの不満があるのである。それでも全体としては「日本の為」「社会の為」という思いで我慢し、日々を過ごしている。日本社会の人材のふるいわけは、基本的に学歴で決まる。大学の入試という平等で開かれた競争を通じて人材の優劣をつけ、これをもとに大きなコースの分類がなされる。これは眞に公平で平等なもので、だからこそ、日本では裏口入学は「あってはならないこと」として永遠に指弾されるのである。このみんなが心に不満を持ちながらも我慢しながら生きている日本社会で、たまにこの仕組みに反発し、反抗するものがいる。こういう変わり者に対し、日本は実に冷たい。これは、みんなが我慢して長い長い行列に並んでいる時に、わーわー言いながら列を乱し、横入りしようとする輩に送られる冷たい視線に似ている。この「不逞の輩」が赤木君なのだ。赤木君は、受験社会に反発して高校を中退し、みごとに日本社会からドロップアウトして、四次元空間に彷徨い出た。そして、当然のごとく、誰からも仲間として迎えられず、誰からも相手にされず、みじめな状況になって、「日本が悪い」「社会が悪い」と、自分の行動を棚に上げて、社会に責任を転嫁している。曰く、「この状況を打破するには戦争でもおこして日本社会を滅茶苦茶にするしかない」と。バカも休み休み言えとはこのことだ。赤木君よ、悪いことは言わない。日本に君の居場所は無い。一刻も早く日本を立ち去り、無限の成長が約束された中国なり、広く移民に門戸を開いているアメリカやオーストラリアにでも移住して、新天地を開拓したまえ。そうすることで、君はやがて思い知るだろう。日本社会が如何に優しく、慈愛に満ちた、助け合い、相互扶助の優しい社会であるかということを。そしてその社会への入場チケットを自ら放棄した己の浅はかな行動が、如何に愚かで、高くつくものであったかということを。後悔先に立たずという。一度失ったものは永遠にもとへは戻らない。
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著者の主張には共感を覚える。
「戦争」はともかく、日本の社会制度自体をリセットしなければならないのは確かなのだが、誰もが(私も含めて)それぞれの”既得権益”を手放したくはないだろうしなぁ…。(- -;
難しい問題です。
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タイトルに偽りあり。著者がひっぱたきたいと願っているのは丸山眞男ではない。戦争も望んでいない。
「上の世代は何も努力せず安定した社会的経済的地位を手に入れた」「なぜ私の世代がその甘い汁を吸えないのか」
本書の主張はこれにつきる。
もう少し丁寧に補うと「なぜ私の世代は努力しないと、あるいは努力しても、その甘い汁を吸えないのだ、不公平ではないか」というもの。
こういう若者がいるのだ、と声をあげたこと自体には意義があるが、主張の内容には意義を見出せなかった。嫉妬ねたみひがみが並んでいるだけなのだから。
著者は「エリート層は関係ない」「自分よりちょっと上の安定正社員層を憎む」という。見事に分断統治の手法にはめられている。
三分の理はあるが、抗議する相手を間違っている。
それに加えて気になったのが、抗議の相手が階層だったり地位だったり集団だったりすること。特定の個人や存在ではなくてカテゴリーやジャンルに抗議しているので、顔を持った個人から返事がないのは当たり前。
『論座』に論文が載ったのに反論と噛み合ないのも当然。
残念な著作でした。
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「希望は戦争」以後、何となく気になって、名前を見かける度に、彼の文章は何となく追い、何となく嫌な気分になっていた。なんか嫌。でも嫌いになりきれない、気になるアイツ。
本書を読んで、著者のバックグラウンドや立ち位置、発言の動機を知り、私が感じる「なんか嫌な感じ」の正体も明らかになりました。彼が攻撃しているのは私自身だから。強欲で自分を守る為なら、何の罪もない貧困層を見殺しにすることも厭わない、にもかかわらず、そのような態度を一般的で当たり前の「フツーの人」のものだと信じて疑わない。明日も同じように続く平和を望む善良な市民を気取っておきながら、その実、自分に都合の悪い他人の痛みは無視する、ずるい正規雇用の労働者。あー、耳が痛い。
複雑なのは、自分自身もいつ、非正規貧困層になるかわからんというところです。これだけ不安定な世の中、必死で今の階層を維持せんとし、弱者が這い上がれない仕組みを支持するのではなく、いつなんどき自分が貧困層となってもそこそこ幸せになれるための仕組みを支持するべきなのでは?でも、それって、これまであたかも正しいように言われてきた「自由競争」なんかじゃないような。もちろん戦争でもないような。もっと他の価値観や知恵がなきゃ、どの階層も、もはや救われなんのではないかなあ。
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衝撃うけました。自分はまだまだ甘ったれだなぁと。
しかし、3.11後の政治を新聞で見ていても、これだけのことがあっても政治家は思いやりのないひとなんだなぁと絶望するしかないですね。ここでポカンとしている私も最低なのかもしれない…。と自己嫌悪に陥ってしまう自分がいます。募金以外何もできない自分が。
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エゴの塊。あまりにひどくて読んでいてどんどん落胆していった。せっかくの時間を返してほしい。
そう、世間の視野の狭い大人達に言いたくなる本。ですね。
大人って「最近の日本人はダメになった。」って必死に悲観する。けど、アンケートをとったらこうなるんじゃないかな。
「Q:日本人はダメになっていってると思います? /A:たぶんそうじゃないかな。」「Q2:あなたもそうですか?/A:自分はそうでないけど周りには結構いる。」
その結果、「多分日本人はダメになっていってる。けど自分はそうでない。」という人がほとんどになる。
本当にエゴ。
結局自分本位にしか物事を考えられないんだな。こりゃあ確かに日本人はダメになってるわ。
ただ大人の言い分はこう付け加えられる。「特に若者がダメになってる。嘆かわしい。」
本当に本当にエゴ。
まいったね。
・・・
的な本でした。
若者の僕には痛快爽快な読みものでした。
自分が大人になったら読みなおして、我が振り見直すきっかけになればいいなと思います。
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迫力で押されっぱなしだ。自分の生活確保からの視点では、さもあらんと言う所か。
日本の経済に明るい光を見つけることは困難で、生活に根付いた発言はリアルさを加え、読み初めはどんよりしてしまい、辛かった。自らの論文を解説し、そこに応答した政治家や学者に反論する手法が良いのか、筆者の自虐的なキャラクターの成せる技なのか、進めば進むほど暗くならずに済む。心いれて読める感じだ。
奇しくも作者と生まれはあまり変わらない。私も含めて、団塊Jr世代が割りを食っていることは薄々わかっていた。私はそれを逆手にとるだけの気概を持っているつもりだったが、甘ちゃんだったかもしれない。揺るがない経済階層を感じるにはいたっていなかったのだから。
問題提起が筆者の目的なので、十分に達成されていると感じる。
大きくは高度成長期を支えた資本主義そのものが行き詰まっているし、小さくいえば企業の年次ピラミッド、階級ピラミットのいびつさは今後の日本をどうしようもない所に追い込んで行くだろう。働き盛りの世代を見殺しにするしっぺ返しは大きい。筆者はそういった角度からは訴えてはいなかったけれど。
結局、今後を考えれば、社会は若者を育てなければならないのだから、世代交代は必須だ。子供や孫の顔をみれば思わないものだろうか?
筆者は最低限の金がなければ、子供を可愛いとは言っていられはないというだろう。そう思う。だからこそ、余裕のある所から、取るしかないし、それが富の再配分だろうと思う。
失礼な言い方だが、やはり、システムまでいかなくても、ちょっとした策でも、筆者から自論が展開されれば面白いだろうなと思った。今後に期待してしまうな。
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012059.
弱者は社会が崩壊する夢をみる~赤木智弘『若者を見殺しにする国』
インターネット出身、社会批評に携わる著者は
富裕層、貧困層の二極化が進む一方の「平和」な社会に異議を唱え
戦争によってもう一度世の中がリセットされることを待望する。
いまの世の中では自分たち弱者は生活の向上など望めず、人間としての尊厳も奪われ、
このまま生きながらえても末はホームレスか首を吊るしかない。ならばいっそ戦争でも起きたほうが…。
こんな論旨の「31歳フリーター、希望は戦争」という文章は大きな反響を呼び、職者からさまざまな意見が寄せられたということです。
たしかに暴論といえば暴論にも思えますが、貧困層の苦しみはそこまで深刻化しているのだと著者はいいます。
ジャーナリズムが煽りたてる「俗流若者論」を著者はまず攻撃する。本当に少年犯罪は増えているのか、昔はいまよりも凶悪犯罪が少なかったのかをデータをつかい検証を試みる。
さらに監視カメラによる不審者締め出しにも言及し、
「安定した地位にある層が中高年フリーターやニートなど「うさんくさい」連中の行動を警戒している」と指摘。
著者の持論にはやや私怨がまじっている印象もありますが、同じ弱者の目線から見た実感がこもっています。
朝日文庫刊の本書の冒頭、著者はみずからのプロフィールをこう紹介します。
文化とは疎遠な北関東の小さな町に育ち、社会へ出る頃にはバブルがはじけて就職氷河期、
東京でカルチャーに関わる仕事に就きたくても、地元を出て自立する生活力もなく
アルバイトで生計をたてながら細々とライター活動を続けている…
なんだか僕と境遇がよく似ています(事実、著者は文中で「このような人間はクサるほどいる」と書いています)。
ただ、この著者と僕のあいだに一点ちがいがあるとすれば、著者が現状を悲観的にとらえているのに対し、
僕はわりと現状を楽しんでしまっているという点でしょう。
もちろん年収への不満とか将来への不安はふつうにありますが、それは正社員になれば霧消するというものでもないでしょう。
リストラや倒産の不安は常についまとい、責任はフリーターより重くなる。しかも簡単なことでは辞められないという重圧感。
等々をテンビンにかけて現状もまあ悪くはないと思っているのですが、いつか大きなシッペがえしがくるかもしれませんね…。
最近僕はとある劇団の公演のために芝居の台本を書きましたが、その中で自分をモデルにしたような中年フリーターに
「いいか見てろ。大きな地震が来て世の中の仕組みが全部がらがらと崩れたときには、そのときは俺だっておおいに実力を発揮する。ああ、早くそんな日が来ないかなあ…」
というセリフを言わせました。
もちろんあの震災のあとなので観客にどう受け入れられたか定かではありませんが、
この「地震」と「戦争」を入れ替えれば、僕と本書の著者の考えは非常に近くなるような気もしました。
世の中がいまのままでは一生這い上がれそうにない人間たちは、
硬直した現状に変化を与えるためとあれば、それが戦争だろうが地震だろうがカタストロフを待ち望むのかもしれない。
震災後、著者はいったい何を考えたのか。過激とも思える持論はどう変化したのか。それは文庫版のあとがきで。
http://rcnbt698.blogspot.jp/2012/08/blog-post.html
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非常に面白かった。元々「『丸山眞男』をひっぱたきたい~」を最近(ここ1年くらい?)知って、著者を知って、読もうと思った本。
私は著者よりももう少し下の世代だし、住環境も若干違うけど、共感する部分は多々あった。
憎み散らすことはないと思うけど、でも、ポストバブル世代から搾取して高齢者を養う、都会の金で地方を養う、っていう図式は二項対立を煽ってるように見えるけど、事実は事実。
「俗流若者論」に対する反論?もきちんとデータに基づいた発言をしていて、参考になった。
これの前に読んだシノドスの本は赤木節が全然なかったので、今回のはよかった。
厚みの割に、サクサク読める本です。言いたいことが著書内で何度か重複する部分もあるけど、「それだけちゃんと言いたいこと」ってことが分かっていいと思う。
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http://yasuyukima.typepad.jp/blog/2012/02/the_country_which_kills_young_people.html
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正直な感想は「(ちょっとくどいけど)これだけの文章が書ける人を雇ってくれる職場」がないとは思えなかった。もちろん労働者を階層化してかつては考えられなかった「使い捨て労働者」を堂々と社会システムに組み込んでいる現体制はあまりにひどいとは思う。身勝手な「自己責任論」にも賛成はできないし、戦争になることで一時的に固定化されていた格差が「ガラガラポン」されることは事実だろう。だが、恐らく多大な犠牲を払って格差がなくなっても恐らく10年もすれば元の格差社会に戻っていてしかも戦争前の構造がほとんど維持されたままで再生すると思う。(高齢化などで這い上がれない人はいるだろうから、その点では若い人の方が有利だろうけど・・・)
なんらかなドラスティックな変化が必要なことは筆者が訴えるとおりであるし、それに対して労働貴族に支配されたかつての労働組合がなんの助けにもなっていないのも事実だろう。ただ、筆者は「身近な格差」(正規の職を持ち家庭も持っている普通の人、と非正規労働者の間など)を特に問題視しているが、そこでいがみ合っていたのではピラミッドの上層に安住している支配者層の思うつぼである。
戦争によって丸山眞男をひっぱたくことはできるかもしれないが、ひっぱたいた本人も最前線で最も危険な状況に追いやられているわけだし、そもそもひっぱたく相手が違うだろう・・・