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畏るべき昭和天皇
著者 松本健一 (著)
代表的日本人100人を選ぶ座談会で、昭和天皇を「畏るべし」と評した著者。二・二六事件、第二次世界大戦を経験した人物は、如何なる思いでその座に就いていたのか。北一輝との関係...
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畏るべき昭和天皇
商品説明
代表的日本人100人を選ぶ座談会で、昭和天皇を「畏るべし」と評した著者。
二・二六事件、第二次世界大戦を経験した人物は、如何なる思いでその座に就いていたのか。
北一輝との関係、「あっ、そう」に込められた意味、「天皇陛下万歳」と死んでいった三島由紀夫への思いなど、
今なおベールに包まれた素顔を探る。
日本人の根柢をなす、天皇制の本質にまで言及した、著者渾身の論攷。
著者紹介
松本健一 (著)
- 略歴
- 1946年群馬県生まれ。法政大学大学院修了。作家、評論家、麗澤大学教授。「近代アジア精神史の試み」でアジア・太平洋賞、「評伝北一輝」で司馬遼太郎賞・毎日出版文化賞受賞。
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紙の本
昭和天皇を畏るべき「政治的な人間」として描く試み
2007/12/30 01:15
12人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブルース - この投稿者のレビュー一覧を見る
この年末に、昭和天皇を論じた二冊の書物が相次いで刊行された。一つは、保阪正康氏の『昭和天皇、敗戦からの戦い』、もう一つは松本健一氏の『畏るべき昭和天皇』である。前者は、昭和天皇と皇族方との関係や連合国最高司令官マッカーサーとの駆け引きなどについて論じられている。後者は、様々な史料・記録を基に、昭和天皇の言動を通してその心の襞にまで迫ろうとする意欲作である。率直に言えば、保阪氏の著作は、昭和天皇を礼賛する単なる歴史読物で終わっているのに対して、松本氏の著作は叙述に密度があり、「昭和天皇論の新たな地平を切り開く一冊」と本の帯に謳われているのも頷ける達成度を示している。
ただ、松本氏の今回の著作には、正直なところ違和感を抱いたところもあることをまず言っておきたい。その一つに、著者の天皇の戦争責任を巡るアプローチの仕方がある。著者は、昭和天皇の戦争責任を扱った章で、はっきりと責任があると明言しているにもかかわらず、専ら第一義的な責任を近衛文麿や軍部に帰している。著者はどうやら、天皇は政治システム上、上奏されて来た案件については、異論があろうとも承認する建前になっており、そのような国政上のルールに従っているのであるから実質的な責任は云々できないとする立場にあるように思われる。
しかし、このような見解には、歴史家から強い異論が出されている。その見解に従うと、昭和天皇は、軍事知識や世界情勢に精通しており、そうした観点から開戦から一貫して戦争指導を行い、一説には、悲惨な結果に終わったガダルカナル島奪回作戦や沖縄作戦も天皇の期待に添うかたちで発動されたと言われている。
また、戦争の趨勢が誰の目にも明らかになった昭和二十年初頭に、国の行く末を案じた近衛文麿や側近たちから強く降伏を促されたにもかかわらず、「敵に打撃を与えてからでないとなかなか難しい」として、進言を退けている。この時点で、降伏が決断されていれば、少なくとも三月の東京大空襲、四月の沖縄戦、八月の廣島・長崎の原爆投下、ソ連参戦などの出来事は避けられていたと思うと、昭和天皇の政治責任は極めて重いと言わざるを得ない。
松本氏の著作には、このような重大な問題が充分焦点を結んでいない感があるのは甚だ残念でならない。しかしながら、本書には少なからぬ美点があることも指摘しておかなくては片落ちになるであろう。
その一つを挙げるとすると、昭和天皇を稀に見る「政治的な人間」と捉え、様々な難局に遭遇した際の天皇の言動を側近たちの記録からを詳しく辿り、その果断な政治判断と読みの鋭さを描いていることである。特に、昭和天皇が、二・二六事件・張作霖爆殺事件・柳条湖事件(昭和六年)の勃発時や、敗戦後にマッカーサーとの会見などに際して水際立った対応を取ったことが印象深く論じられている。タイトルになっている「畏るべき昭和天皇」とは、常に醒めた政治的な人間であろうとした裕仁天皇の姿を絶妙に表していると言えよう。
本書は、以上のように問題を含みながらも、昭和天皇の実像に迫ろうとする試みであり、多くの類書の中でも読み応えのある書となっている。また、松本氏の著作の中でも、『評伝 北一輝』と並ぶ代表作と評することができよう。
なお、著者が終章で示した、戦後の昭和天皇を「権力を行使する政治の彼方の虹」とし、民衆の夢と幻想を受け止める慈愛溢れる存在とした視点には、松本氏の個人的な見解が強く反映され過ぎて、正直言って疑問を感じたことを付言しておきたい。