読割 50
電子書籍
ホテル・アイリス
著者 小川洋子
染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、よう...
ホテル・アイリス
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ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)
商品説明
染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ出してくる…。少女と老人が共有したのは滑稽で淫靡な暗闇の密室そのものだった――芥川賞作家が描く究極のエロティシズム!
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紙の本
抑圧されていてもあふれる生々しい若さ。
2011/11/09 19:00
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:更夜 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本を読んでから、もう、3日経つのですが、この物語、だんだんじわじわと心の中に
その存在感を広げていくような、心を持っていかれるような気分になります。
もしかしたら、三日後の今ではなく、一年後の感想というのも十分考えられる、激しくて、穏やかで、
退屈で、平凡で、うしろめたくて、喜びに満ちていて、悪意と好意がまるでメジャーではかったように
きちんと配列されている物語。
主人公、マリは今、どうしているのだろうか。
この物語では17歳だけれども、今、いくつだろうか。
しあわせになったのだろうか。
誰かと出会いがあったのだろうか。
今もホテル・アイリスに閉じ込められているのだろうか。
私はマリのことばかり考えてしまいます。
主人公、マリは、母親が経営するホテルで働いています。
高校を中退して、ひたすらホテル・アイリスという海辺のさびれた街のホテルで働いている。
ホテルには色々な客が来るけれど、マリは誰とも親しくならない。
あまりにも母親の抑圧がひどすぎるから。
そこで客として問題を起こした40歳以上年上の男性と出会い、母の目をしのんで会いに行く、というものですが、
なにしろ、マリは、とらわれの身です。
あからさまなことは、書かれていないのですが、母親がマリの長い美しい髪を毎日、丁寧に
梳き、結いあげ、その髪型が少しでも乱れることを許さない。母がマリの髪にさわるところが
異様にたくさんでてきて、それだけで母親に締め付けられているマリの髪の毛が美しいだけに痛々しいのです。
高い塔の上に幽閉されたラプンツェル姫のようなマリ。美しい長い髪を持つ幽閉されたマリ。
海辺の向こうには、ほとんど無人島の島があり、マリが出会ったその男性は、そこでロシア語の
翻訳の仕事をしている、という。
朝からホテルで働き、自由時間は全くなし、マリの美しさを自慢するけれど、母親は決して
マリを「許して溺愛はしていない」
自慢すればするほど、こんな美しい娘を持っている自分がすばらしい、と公言しているだけです。
母親はマリの自由など考えない。
母に嘘をついて、ホテルを束の間ぬけだして、逢瀬を楽しむというより、だんだん中年男性との性の秘儀のようなものに、
暗い喜びを見出していくマリ。
男性と出会う時にときめき、やよろこびではなく、なんともいえない「快楽」をすでに感じている
というのがわかるその生々しい若さ。
書きようによっては、煽情的にもとれる人間関係を小川洋子さんは、あくまでも淡々とした
そして、ぶれない感情をしっかりとした描写で描き出します。
そのぶれのなさは、読んでいて安心感を覚えるほどであり、誰よりもマリを必要とし、
マリを大事にしていた、妻を亡くした中年男の穏やかさと激しさの両極端が振り子の針が
振れるように動いてもその要となる部分は「マリが必要だ。マリは宝物だ。」
静かに心のひだにすべりこんでくるような、ひそやかなささやきがいつまでもいつまでも
海の波の音のように響く物語です。
電子書籍
じっとりとした読み心地
2016/12/20 23:20
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ポテト - この投稿者のレビュー一覧を見る
小川洋子先生の、温度や空気や匂いを感じられるような描写が好きです。この一冊も、丁寧な描写が堪能でき、良かったです。