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最終章の苦笑の効用が拾い物。ついつい人を恨んだり、憎んだり、問題点を周囲のせいにしてしまう。するとそのうちに自分が不幸になっていくことは経験上感じる。人を呪わば穴二つということです。
そうした気持ちに陥りそうになったとき、”釈然としない気持ちと引換に自分の脆さや厄介さを「苦笑を交えつつ」眺めるための「練習をしている」と心得ること。”、憎しみや恨みを苦笑という形に変換することで、自分の気持ちを客観的に眺め、昇華させるということかなと。
敵討ちを通じた心の変遷を描いた「恩讐の彼方に」や、古今東西の人の恨みや憎しみを扱った作品の引用がたくさんありました。
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しつこい人と出会ってしまったら、自分自身の人を恨む気持ちに折り合いがつかなくなってしまったら――――。
春日武彦先生が提示するのは「苦笑」というソリューションである。
「自分が恨みを深く抱いたり復讐を誓いたくなるような状況に陥った際、わたしは何人かの人びとのことを思い浮かべてみるのである。その人たちは有能で心が広く魅力的で、腹が据わり、少なくともわたしの目から見ればどんな苦境にもスマートに対処していける。そんな知人や、かつて出会ったことのあるそのような人物を想起してみる。そして彼らだったらこの不快な状況をどんな具合に扱うかと考えてみるのである。
おそらく彼らは表面的には淡々としていることだろう。そこでわたしは彼らに直接尋ねてみる、「大変ですねえ。ムカつくでしょう?」と。すると彼らは、おそらく苦笑してみせるのではないか。「いやあ・・・」と、懐の深さを実感させてくれるような「素敵な苦笑」を浮かべてみせるに違いないのである。」(本書p.175-5)
処女作『ためらいの倫理学』で内田樹さんが提示した「ためらい」にも似た、見事に成熟した知見だと思う。ぎこちない、でも素敵な苦笑のできる大人になりたいと思った。
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私を激しく勇気づける一文があった。読んでよかった。
その一文とは↓↓↓
人間は平等であるとされるが、下卑た人間、魂の汚れた人間は確実に存在している。
この文章の何が私を勇気づけるのか。それは秘密。
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副題に"江戸の仇をアラスカでうつ人"とあります。仇討ちに代表されるような恨みつらみを晴らす行為はしつこさという、ともすれば病気の範疇に入りかねない危うさをはらんでいます。
春日先生は臨床で見られる光景や報道された事件を引き合いに出しながら、登場する人物像を解説します。
また豊富な読書量からあらすじを述べて場面を引用することも多いので、読んだことのない本を知る機会にもなります。実在の人物から架空の人物まで人間ウォッチングが詰まった内容になっています。
その中で臨床経験から述べている次の一説が興味を惹きました。
…精神科医の臨床経験から述べると、自縄自縛で自分を不幸にしていくタイプの人がいる。彼らには「自分は間違っていない」という信念がある。論理的で理屈っぽく、何事も収支決算の帳尻が合うことに固執する。被害的で自分は損ばかりしているといった感情のもとに思考を進めがちで、また自尊心が高い。…自分は間違ってないモードへ常に気持ちを設定しているので、すぐに「許せない!」と苛立つ。あんなことをするなんて信じられない、と憤る。
…ストレスを溜め込む。ときには当てつけに近いことをあれこれと試み,しかし大概独り相撲に終わってなおさら苛立つ。自分は誰からも理解されないと「拗ねる」つまるところ、常に自己愛が傷ついている。…との下り。
思い当たる節に気づきます。自分も少なからず‥周りにも‥!
そして、強迫神経症(何度も手を洗わないと気がすまない等)を呈する人は一見穏やかソフトな物腰であるが、実は怒りや攻撃性を胸に押し隠しているといったタイプが多いとも述べています。あくまで我慢しているので鬱屈したエネルギーを安全な形で(無意識に)鎮めたいと考え、強迫症状という無意味な馬鹿げた「儀式」に拘る。との説明もありました。
世の中、恨みつらみで仇討ちをするまでに至らなくても、こういう精神性を持ち合わせている人や場面を味わうことは、当たり前というくらい多いような気がします。その時に先生がいうように自分を客観視して"苦笑"出来るような余裕が持てれば違うのでしょう。
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「しつこい人」はどうして「しつこく」なるのか。その原因みたいなものを知りたくて、この本を手に取ったのだが、答えは全く得られず。残念!
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サブタイトルがナイスですよね(笑)。
内容は「しつこいヤツ」の行動原理について――
ということで、確かに前半は面白いし、
ここしばらくの著作がなんとなく毒気控え目だったのに比べて、
ちょっと初期の辛口な勢いが戻ってきたかな(^_^;)
なんて思いながら楽しんで読み進めていったんですが……
終盤がどうにも説教臭くって残念でした。
そんな風に軽く苛立ってしまうのは、
他でもない私自身が結構しつこいヤツだから、
という自覚はありますけど(苦笑)。
やっぱり、個人的には、
ヒトに迷惑かけたり甚だしい不快の念を催させたり
しておきながら、
しれっと涼しい顔で生き続けている輩には
鉄槌が下ってほしいと思うのであります。
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前半の、妙ちきりんな事件コレクションのような章が、それ自体はものすごく不幸であるのに、同時におかしみを覚えてしまう。今の笑いは不謹慎であったかなと思いつつページを繰る。世の中はそういう不条理に満ち溢れており、だからこそ怒りや恨みをこじらせて症状として表出してしまうことが避けられない人というのは一定数存在するのだろうな。であればそれらの安全ないなし方を体得するに越したことはないよね。苦笑で済むなら安いもの。
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精神科医である著者が人間のうらみや復讐心理について、自身の体験、小説、ワイドショーなどから例を引き解説している。
客観的に見ればうらみ心とか復讐心は、身勝手な自惚れ・自分は間違っていないモード・自己愛などの価値観から発せられるもので、自分自身を観察しそれを「苦笑」してしまうことが解決の一歩だとしている。
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「しつこさ」に目がいって通読。
著者の読みやすい文章にのっていってスラスラ読めた。
テーマは「恨み」。
いやいや、別に誰も恨んではございません。
ただ、「恨み」という感情は誰にだってある。
僕にもある。
この「恨み」との付き合い方が知りたくてね。
主に文学作品『恩讐の彼方に』などのテキストや実際に精神科医としてかかわった人たちとのエピソードから、「恨み」に関して分析。キーワードは「不条理」と「被害者意識」。つまり、不条理な事柄に遭遇してしまった人は、芽吹いた「被害者意識」にせっせと肥やしとやって、やがて「復讐」へと感情を募らせていく。
この「復讐」。ドラマのように、いやドラマであっても、カタルシスを味わえるものではない。むしろ、虚無感に苛まされるだけ。では、どうすればいい??
著者は、「苦笑」を提唱する。そういう恨みに出遭いそうな出来事があった時は、「苦笑い」。もしくは、自分が尊敬する人を想像して、「この人ならばどう思うかな」と思い、きっと「受け止める」と思い、自分の気持ちを落ち着かせる、という薦め。もし、尊敬する人が「恨めー恨めー」としきりに言うのならどうする?「苦笑」した唇の上がり具合が半端ない時はどうする?と、解決策には??がつくが、総論としてはおもしろい。ただ、文章がスラスラとしていて、サスペンスのようなネタも入っているので、読みふけて精神の世界に迷い込まないように注意は必要。
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淡々とした語り口が読みやすく、想像通り精神科医って冷静・客観的なのだかなあと感じた。
実際に出会った患者や小説中の説話をふんだんに使用しているから、わかりやすい。
特に主張したい内容があるでもなく、「恨み」に関する様々な側面を照らしている本という感じ。「恨み」とは現実とフィクション、正常と異常の境界に位置するものであり、誰しもが抱くもの。たいへんシンプルなようで、単純には言い表せないもの。って感じかな。
この複雑さについての言説が興味深かった。恨みを抱く人の全てが実際的な復讐の達成を目的としているわけではなく、自己正当化を繰り返しながら現実に向き合わないでい続けるパタンもあるという。これは納得だなあと感じさせられる。恨みの形骸化は一種の自己防衛機能ともいえるんだろうな。
恨みの本質には自己愛や自尊心といったものがあり、恨みとは関係の問題のようでいて、個人の問題でしかないということが学べた。
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第五章P140〈「そんなに死にたいのなら、ほら、今すぐ死んでみろよ」と言い返すわけにもいかず、(中略)とにかく相手をしなくてはならない、といったケースである。〉
P143〈自殺というのは実に陰険な仕返しということになる。自己完結しているかのようでいて、周囲へのマイナスの影響力は絶大なのである。そのあたりを直感的に見越して「死んでやる!」と喚くわけなのだろうから、まことに彼ら自殺宣言者たちは厄介な存在ということになる。〉
いずれも本文中からの引用である。
帯裏の著者略歴によれば、現役の精神科医であるらしい著者がこんなことを書いていいのか、他人事ながら心配になる。
この方の書かれた本は、もう読まない。
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強迫スペクトラムの文献を探してたら目があって。
全然違うテーマだったけど面白くて一気読み。さすが春日氏。
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復讐に燃えた人を説得するのは難しい(というより不可能だ)。復讐には理由があり、当人は正当な事をしているのだという気持ちがある。自分のやる事は正しい、悪いのは相手だと思い込んで知る。不幸は不条理だから、理由もなく襲いかかることがある。それを、不幸にさせたのはお前だと恨み、復讐心を持つのは、かえって恨みの呪縛で自らを不幸にしてしまうとだけは気づいて欲しい。
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文章が上手く読みやすい。様々な文学作品が症例で出てくるのでとても分かり安い。
「苦笑」が大事。確かに不思議な感情だ「苦笑」は。