投稿元:
レビューを見る
半ばナナメな気分で手に取ったが、面白かった。特に「日本では女装者/トランスジェンダーに対する差別はほぼない」という視点に立っているところ。プロテストの本じゃないところに好感をもった。また女装者≠女性ではない、と明示しているところ。トランスにはトランスなりの魅力があるのだ。だからこそ「パス(女性として通用する)/リード(男であることが見破られる)」という二項対立の強化を避けている。パスするのは本人かいかに女性になりきるかではなく、存在する環境や相手の視点によるところが大きい。トランスジェンダーはホモフォビアが強く、ゲイはミソジニー傾向がある、という指摘にも納得。
投稿元:
レビューを見る
著者の三橋順子さんは女装者で、自らの女装姿に対するナルシストである。(ぼくは一枚を除いてはあんまりきれいとは思わなかったが、三橋さんの写真をおかずにする人もいるらしい)三橋さんは女装者として夜の世界に活躍しただけでなく、日本では数少ない女装史の研究者であり、お茶の水大の講師もしているし、井上章一さんたちの日文研の研究会にも参加している(『性の用語集』講談社新書が出ている)。女装というと、ぼくが82年に中国へ行く前に突如として現れた松原留美子という人がいる。なにかのコンクールでまんまとまわりをだましてミスなんとかに選ばれた人で、帰国するといなくなっていた。(写真集はまだネットで手に入るようだが)女性できれいな人はいくらでもいるが、女装者の魅力は、それがあくまで男性だからだ。だからといって歌舞伎の女形には惹かれない。このへんが不思議だ。女装史というと、一般には女性の服装史の意味でとられることが多いが、本書はあくまで男性にとっての女装を歴史的にまた、彼女?の豊かな社会体験を通して書いたものであり、内容の濃いものになっている。しかし、この世界は複雑だ。まず、性同一性障害というのは、この範疇ではない。体が男性の彼女たちは、たまたま男に生まれたのであって、実際は女性である。そういう人たちが今風俗以外の世界で活躍しだしたことはすばらしいことだ。ゲイというのは男性しか愛せない男性のことだが、この人たちは必ずしも女装に憧れるのではない。憧れる人たちは女装ゲイというらしい。新宿でも二丁目はゲイの世界で、かれらはここに女装者たちがはいってくるのを好まないそうだ。女装者たちが集まるのは新宿でも歌舞伎町だという。さらに女装愛好者の中もいろいろあって、本書では、それを細かく分析している。
投稿元:
レビューを見る
2008,三橋順子,「女装と日本人」講談社現代新書
日本で、古代よりどのような場面で、どのような人が女装を行ってきたか、社会はそれを、どのように受け止めていたか、というところが序章。そこから、近世、近代、現代と時間をたどっていく。
勉強になったのは、西欧諸国以外の世界では、かなり女装の男性が活躍している、ということ。西欧では、宗教(キリスト教)によって異裝者が弾圧されてきた、ということ。日本の古代は広く女装(異性裝)が行われてきたが、明治期以降の西欧医学の導入で、「変態性欲」とみなされ、「風紀を乱す」として規制され、アンダーグラウンド化した、ということ。とくに、異性裝者(もしくはホモ・セクシャル)に寛大だと思っていた西欧社会に対する認識は、180度変わった。
こうした歴史の流れを本書に沿って読み進むと、確かに筆者が豊富な経験をもとに主張するように、男性・女性の2元論は極端に見える。とくに、「男性が表現する女性の妖艶さ」という表現には、異性裝者に間近で遭遇した経験もないのに何故か納得できた。
コミュニティによって、あるいは、共同幻想によって性別が規定される、という視点も興味深かった。「あなたが男性なのは分かっているけれど、俺にとっては女」という、女装者とともに、対峙者も一緒にトランスジェンダーする、という認識には始めて触れた。
「曖昧な性」という、終章での著者の思想は、本書を読むまではおそらく極論に見えた。しかし、本書を読み終えた後ではそうはいかない。男/女を極めて強力に規定する社会の極端さがはっきりするからだ。
投稿元:
レビューを見る
◆「女装者」というマイノリティをとらえた「日本文明論」
かつての研究では性別越境者全般の当事者は「観察される側」の存在でしかなく、その姿は非当事者である「研究者」の目を通してかかれてきた。 これは少数者である当事者側からかかれている。当事者が一般という客観的視点で研究成果を公表するというのは研究者のあり方としては「ハードプロブレム(難問)」に属する。この本は「女装家」という主体者である著者が「研究者」という客観的視点で自らが存在する日本社会、日本社会に存在する「女装する」自分のあり方を「過去」という歴史資料と「現在」というフィールドワークを通して「日本文明論」として一般に提供するものである。
詳細な書評はこちら。
【書評】三橋順子 著 「女装と日本人」
http://d.hatena.ne.jp/stshi3edmsr/20080928
投稿元:
レビューを見る
稚児とか男色についての考察がすごい。男色がゲイではないという考え方に感動。西洋文化が入ってきてここらへんの独自文化がなくなったのは残念だなあと思います。
投稿元:
レビューを見る
日本のなかで広く容認されている、女装者の姿に迫った本。
ニューハーフが外を歩いても安全なのは、日本とタイだけだそうだ。
それを歴史的背景から説いており、とても興味深い内容になっている。
なにより著者自身が性的越境の女装者なので、一つ一つに説得力もあり、体験談も楽しく読める。
投稿元:
レビューを見る
ヤマトタケルから、はるな愛まで、日本の性別越境文化の歴史をたどった初の日本女装文化史。
10年間の調査・研究をベースに、渾身の力をこめて執筆した私の最初の単著です。
手にとっていただけたら、うれしいです。
--------------------------------------------
【内容】
ヤマトタケルの神話、中世の女装稚児、歌舞伎の女形、江戸の陰間、現代のニューハーフ……。
なぜ私たちは性別を越えたものに心ときめくのでしょうか?
“女装”を軸に日本文化史を読み直します。
女装の建国英雄ヤマトタケルから、ネオンきらめく新宿女装コミュニティまで、魅惑?の時空旅行をお楽しみください。
【目次】
は じ め に
序 章 日本人は女装好き?
第一章 古代~中世社会の女装
1 女装の建国英雄ヤマトタケル -日本神話の女装観 -
2 双性の巫人 -弥生時代の女装のシャーマン -
3 「ぢしゃ(持者)」 -中世社会の女装巫人-
4 女装の稚児 -中世寺院社会における女装の少年-
5 中世の芸能と異性装 -稚児と白拍子-
第二章 近世社会と女装
1 歌舞伎の成立 -異性装者へのあこがれ-
2 歌舞伎女形の意識と生活 -平生を、女にて暮らす-
3 陰間と陰間茶屋 -江戸時代のニューハーフ-
4 とりかえ児育と市中の女装者
第三章 近代社会と女装
1 文明開化と異性装の抑圧
2 女装と犯罪イメージの結合
3 異性装の「変態性慾」化
4 抑圧の中を生きぬく
第四章 戦後社会と女装
1 女装男娼の世界
2 ゲイバー世界の成立
3 女装芸者の活躍
4 性転換女性とブルーボーイ
5 ゲイバー世界の分裂
6 ニューハーフ誕生
7 アマチュア女装者の登場
8 新宿女装コミュニティの形成
9 商業女装クラブの出現
第五章 現代日本の女装世界 -新宿の女装コミュニティ-
1 順子の生い立ち -新宿まで-
2 ネオンが似合う「女」になる
3 新宿女装コミュニティの性別認識
4 女装コミュニティの人々 -女装客と男性客-
5 女装コミュニティのセクシュアリティ
第六章 日本社会の性別認識
1 「女をする」ということ
2 「女扱いされる」ということ
3 「女」扱いから「女」錯覚へ
4 「日本人の女ではない」ということ -性別認識と民族認識-
5 性別認識と場
6 身体を「棚上げ」できない場
7 「女見立て」のセクシュアリティ
最終章 文化としての女装
1 女装文化の普遍性
2 トランスジェンダーと職能
3 なにがトランスジェンダー文化を抑圧したか -宗教規範の問題-
4 性転換する神と仏 -日本の宗教の場合-
5 ふたたび「日本人は女装好き」 -性別越境者の魅力-
お わ り に -トランスジェンダーを生きる-
投稿元:
レビューを見る
前半の「女装と日本人」の部分は面白い。
でも女形が顔を隠さなくちゃいけなかったのって女装差別じゃなくて役者(芸人)差別じゃなかったっけか。
笠かぶれ条例は男形にも適用されていたような…
後半はつらい。男らしいというかお坊ちゃんぽいというか。軽くミソジニーとホモフォビアを感じる。
馬鹿な女より女装者のほうが上(男だし)!とか、ホモなんかじゃないんですヘテロなんです!というタイプの言い分をマイルドにしたような(そういうセリフが書いてあるわけではない。あくまで印象)
それでいて自虐的というか卑下しているように感じる部分もある。
たとえば女装者と女装者好きの男性の関係を擬似ヘテロと繰り返す辺り。
「ホモセクシャルではなく擬似へテロ」という区別の説明なんだろうけど、私には「ヘテロになれないヘテロ未満」と言っているように見えてしまう。
ナチュラルに自分が下だと思っちゃう感じ。
「男>男´(女装)>女」とか「ヘテロ>ヘテロ´(女装者と女装愛好者)>同性愛」という序列を刷り込まれたまま意識してない(もしくは払拭できていない)ように思える。
日本はトランスに寛容な国だという主張にもそれは感じる。
そんなことないよ。日本が寛容なんじゃなくて、他が酷すぎるだけだよ。日本だって十分やさしくない。
トランスを見ても暴行する人が少ないのはトランスに優しいんじゃなくて暴力(というよりもめごとを起こす人)に対する目が冷たいからだと思う。
異物とは目を合わせないのが基本だからわざわざ叩きにいかないだけだ。
で、女装とセクシュアリティに関する部分。
ここは歴史的にどうのっていうより著者自身の経験が多分に混ざっているせいもありそうだけど、なんかものすごく「ごっこ」だよなと思う。
女ごっこで男女の恋愛ごっこ。
女に夢見る男同士で男女ごっこやってりゃそりゃ一番平和でいい。
過剰な夢(それを女は偏見と呼ぶんだけど)を共有できて、お互いそれをやりたいなら付き合わされる女がセクハラ被害に合うこともないしみんなハッピィわーお最高。とか思ってしまう。
いやこの人は女装者を自認していて「女装」を語っているから、この人の立場の語りとしてはこれが正しいんだと思うけど。
あと性同一性障害について、正面から批判している部分はいいけど、それ以外の隠せなかったのか毒を混ぜたのか微妙なラインのトゲトゲしさが嫌だ。
それだけ嫌な思いをしたんだろうなとも思いつつ、なんだか悲しくなってしまった。
投稿元:
レビューを見る
ヤマトタケルの神話、僧侶と女装の稚児の恋、歌舞伎の女形、江戸の陰間茶屋、夜の新宿ネオン街……“女装”を抜きに日本文化は語れない。
タイトルに惹かれて手に取りました。
わかりやすい話の進め方でした。
ただ、学校で読んでいたので、春画が出てきたページには焦った。
投稿元:
レビューを見る
ヤマトタケルは何故女装をしてクマソ兄弟を襲ったのか、という話から始まり、「女装」という文化がいかに日本に古来から存在し、またどのように変遷していったのか。第3の性が存在しえたことは「和の思想」に繋がっていくことと思われるが、それゆえ明治維新後の西洋文化流入により分断の危機に襲われる。アンダーグラウンドかしていく中で、いかに存続していったか、また認められていったか。作者自身「女装者」ということもあり、生々しい証言なども交えながら、実態を解説してくれている。
下手な官能小説を読んでるよりも、よっぽど興奮します。稚児の話や陰間の絵は、なかなか淫猥で良い。
投稿元:
レビューを見る
[ 内容 ]
ヤマトタケルの神話、僧侶と女装の稚児の恋、歌舞伎の女形、江戸の陰間茶屋、夜の新宿ネオン街…“女装”を抜きに日本文化は語れない。
[ 目次 ]
序章 日本人は女装好き?
第1章 古代~中世社会の女装
第2章 近世社会と女装
第3章 近代社会と女装
第4章 戦後社会と女装
第5章 現代日本の女装世界―新宿の女装コミュニティ
第6章 日本社会の性別認識
終章 文化としての女装
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
投稿元:
レビューを見る
女装を歴史観点からと著者本人の観点から見た本。
卒論の参考にもさせてもらったけど、扱わなかった部分のほうが面白い。
は~、みんなこうやって女装してるのか…。
著者本人の写真も結構載ってて実感する。
んで、最後のほうに書いてあったけど。
著者は自分のことを「性同一性障害」ではなく「あいまいな性」としている。
女装するけど性転換手術も戸籍転換もしない。
無理やりどちらかにつくんじゃなくて、中間地点を選んでる。
医者側からすれば「中途半端な君を治してあげようと
せっかく手を差し伸べてるのに拒むなんてばかなの?」というのは
ただの押し付けであって「偏見・差別」なんだと。
自分の考え=他人の考えではないのだ。
投稿元:
レビューを見る
女装したヤマトタケルのクマソ討伐の逸話にはじまり、江戸時代の陰間・女形、明治以降の近代化と女装に対する世論の変化、そして新宿のコミュニティに代表される現代の女装文化の発展など、自信も女装家であり性社会史研究者でもある著者が日本の”女装史”を紐解いています。写真・新聞記事・絵画など図版も豊富で、わかりやすい一冊です。”女装”という隠された日本文化について、手軽に知ることができる良書。
投稿元:
レビューを見る
気になるとこだけ拾い読み。性別のなんたるかみたいな話がおもしろかった。
稚児のところと陰間のとこは衝撃絵図すぎて凝視した。凝視しないと意味わかんなかった……江戸はすごいなぁ。
投稿元:
レビューを見る
日本人は女装者に寛大だということが、歴史的背景+著者目線で書かれていました。
日本人に生まれてきたことを、ちょっとだけ誇りに思いました。
それにしても、ベッドシーンの描写をした絵画は衝撃的でした。こういう作品が存在することを初めて知りました…!
とりあえず印象的だったことは、鶏姦って痛そうだなということです(*_*)