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真の「現実主義者」明石康の軌跡-交渉術はテクニックではない、アートである
2010/02/19 18:11
9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
1990年代以降、頻発する国際紛争の最前線で、調停者の立場で当事者としてコミットしてきた明石康。本書は、ユーゴスラビア問題とサッカーを中心に取材活動を続けてきたジャーナリスト・木村元彦が、よく準備し煮詰められた的確な質問で突っ込んで聞き出した、国際調停の現場で本当にあったこと。
カンボジア、ボスニア(旧ユーゴ)においては国連事務総長特別代表として、スリランカでは日本政府代表として調停にあたった明石康の話からは、もちろん極秘事項については触れられていないだろうが、ウラ話も含めて実に興味深いエピソードの数々が披露されている。紛争当事国でリーダーシップを発揮する政治指導者(・・「独裁者」というのは、明石氏もあとがきでいうように、表現としては少し過激だが)のナマの人となりや言動も伝わってきて、読んでいて非常に面白かった。
さまざまな制約条件のなかで、現場リーダーがいかにその時々で最善の意志決定を行うか、グローバル組織における現場と本部との関係、限りなく偏向した欧米マスコミ報道にどう対応したか・・などなど、国際機関に勤める人間以外にも興味深い内容だ。
国際紛争の調停者として活躍した日本人・明石 康は、良き調停者は、まず何よりも「良き聞き手」(グッド・リスナー)たれと繰り返している。交渉術についても、テクニックというよりもアート(・・このコトバにはもちろん”術”という意味もある)であるといっている。ソマリアにおける調停が失敗した理由の一つが、欧米流の黒白ハッキリさせる交渉術が現地では嫌われたからだと指摘されるとき、なるほどと深く納得させられた。
国際社会で自己主張することは重要だが、日本人のよき特性である人間関係構築を活かしていくべきだ、という明石氏の主張には、長年国際調停の最前線で活躍してきた人の発言だけに耳を傾けるものがある。
真の「現実主義者」明石康の軌跡をたどった本書は一読の価値がある。
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国連事務総長特別代表としてカンボジア、ユーゴスラヴィアで
和平交渉にあたった明石康氏の交渉術、とあるが、
実際には「交渉術」というようなハウツー本ではない。
もっと生々しい、人間同士のギリギリのやりとりが語られている。
知らなかったが、明石氏のやり方は欧米では
元アメリカ国連大使ジーン・カークパトリックに
ヤスシ・アカシという人物は災禍だった。国連の歴史にも特筆される大災禍だった。
アカシのためにボスニアでの平和維持活動(PKO)は歴史上でも最も効率の悪い軍事行動となってしまったのだ」
と非難されるなど極めて評判が悪かったらしい。
だがそれはセルビア人=絶対悪として空爆を主張したアメリカ、
NATOの側からの一面的な見方であったように思う。
ああいう状況ではおそらく、誰もが被害者であり誰もが加害者で
ありうるという、相対的な見方が必要だと思う。
だからこそ明石氏は悪の権化とされたミロシェビッチとも
何度も直接会い、交渉を続けたのだ。
その後、イラクやアフガニスタンにおける国連軽視の
アメリカ主導による軍事制裁ありきの政策をみると、
明石氏のようなやり方のほうがいくぶんマシだったような
気がしてならない。
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「いかにも日本人っぽいふにゃふにゃした暖簾に腕押しみたいな奴だなぁ。」
明石さんをそんな風に思っていた時期が私にもありました。
私は海外のメディアに叩かれまくる彼しか知りませんでした。
しかし彼は、骨も筋もあるとんでもない調停者だったのです。
他者の間に入って「調停」を行うのに
変な先入観や正義感などがあってはいけない。
彼は意志と知恵と成し遂げている。
そして自分の行ってきたことを「常に最善だった」と胸を張っていえる。
間違い無くかっこいい。
生きた人間の姿がそこにあった。
弱腰でもなんでもない。信念と責務を全うする男の姿だ。
ただ、惜しむらくはこのタイトル。
内容が全然「独裁者」との交渉とは関係ないのだ。
明石さんは誰も「独裁者」として見ていないのだから。
こればかりは編集者の勇み足、ちょっとやり過ぎだ。
国連で要職を務めあげた男の生の言葉です。
国際社会に関係がある人も無い人も、一度は読んでほしいもの。
末尾の言葉
「このごろ、日本を覆っている活力のなさと内向きの志向を私も心配している。突破口はあるはずなのに、生ぬるい心地よい悲観の中にひたっているように見える。もっとアジアと地球全体を見すえた積極的な思考が生まれてよいのにと思う。」
まさしく、まさしくその通りだと思うのです。
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何事についても、感じたことを率直に言うこと、ただし言い方には気をつけるべきでしょう。
ニュートラル(中立)よりもインパーシャル(不変性)という表現が好きです。フェアに、客観的、公正に見ればどういう行動をとるべきか、ということが重要です。それは何を地点Aと地点Bの真ん中とは限らないわけです。
我々は、同時に、犠牲者でもあり加害者でもある。
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ボスニア、カンボジアでの内戦調停の経験のインタビュー。タイトルのようなハウツー本ではないが、明石さんの信念が伝わってくる。
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* 私は敵を想定しない
紛争調停や平和維持のために行動しているからこそ、敵を想定しない交渉が生まれる。当事者同士は複雑な利害関係で動いており、譲れない点も多く一見欧米のメディアのように善悪二元論を持ち出す方がわかりやすいのだろうが、それでは力関係で物事が動いてしまう。平和を一時的にもたらすのではなく、長持ちさせるためには、当事者たちの納得が必要。信頼の構築には一般的に長い時間が必要だと思うが、それを一年半程度で成し遂げる明石さんはすごいと思う。
* 明石さんがなぜ信頼を獲得できたのか
* 相手を悪者として扱ったりせず、常に中立の立場にたって対話した
* 時間があるときは個人的にあったり、食事をしたり、いろんなチャネルを使う
* 時間がないときはなりふりかまわず必死に(声涙ともに下る)訴える
* 利害関係の外にいる人間のそんな姿が当事者たちの心を売ったのではないだろうか
しかし、明石さん自身がモチベーションをよく高いレベルに保ってこれたものだ。
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[ 内容 ]
冷戦後、世界の安全保障の枠組みが激変するただ中で、カンボジアPKOやボスニア紛争の調停をはじめ、国連が主導した一九九〇年代の平和活動を指揮した日本人がいた。
もっとも困難な立場に立たされた交渉人―明石康は、シアヌーク、ミロシェヴィッチ、カラジッチといった現代史に名を残す政治家・ナショナリストたちと、どのように対話し続けてきたのか?
バルカン半島の現場を熟知するジャーナリスト木村元彦が、一年間にわたって連続インタビューを敢行。
誰よりも苛烈な現場を潜り抜けてきたミスター・アカシの交渉テクニックに迫る。
[ 目次 ]
反抗児
初の日本人国連職員
国連的アプローチ
文民統制
カンボシアPKO
ボスニア
人を見る目
食事術
スリランカ問題
スリランカ和平調停の裏側
職業としての交渉者
[ POP ]
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☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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日本人初の国連職員になった明石康さんの対談集?と言えばよいのかな?タイトルに交渉術とありますが、あとがきでも記されているように、具体的な交渉術が書かれている本ではないです。強いて言えば、先にこちらが心を開き、相手の心をひらかせるのが交渉術になるのか?と感じた。まぁ、当たり前と言えば当たり前。ただ、立場上この当たり前の事を出来ないことが世の中往々にしてあります。この立場を作れることこそ、本人の実力であり、交渉術に繋がるのでしょう。
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正直、期待外れ。
明石康ブームに乗っかって、急きょ出してみた感が否めない。
緒方さんの本と同じようなインタビュー形式やったけど、インタビュアーが偏見もってる感じがして、明石さんに対しても好感は持てなかったな。
明石さんの「交渉術」ってよりも、単なる小話。
彼の思考もわかりにくいし、すごい表面的な話が多かった。
そっから読み取れって話なんやろけど、ホンマに事実の羅列と、明石さんの自己肯定。
最後の一章だけは読む価値がある内容やったけど、それも深みはあんまり・・・
あとがきには明石さん自身が
「国連で働いていた時期やその後の自分の行動について、説明するのをあまり好きではないし、口ごもってしまう。こうした説明は、とにかく自己弁明になってしまったり、時には自己宣伝に堕してしまう恐れがある。とにかく潔くない。」
と語ってる。
本人ですらそう感じてたんやったら、読む側はどうしろと・・・(笑)
とりあえず、あんまみんなにはオススメしない一冊。
読み直すことも、ない気がする。
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この中に出てくる人物も事件も、「あー、聞いたことある」という認識しか持てない程度の知識しかない。
これは、自分の中に眠らせておき、何かの折に思い出し、内省するような本なのだと思う。おこがましいとは思うが。
ハウツー本ではないし、その手の本によくあるお為ごかしたトーンもない。言葉そのものは、両者ともとても平易。
否定ばかりを繰り返していたら何も始まらないよ、というのを思い出させてくれる。もっともこの人たちの言葉はもっと現実的だけど。
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いわずと知れた、国連事務総長特別代表。
この人がいれば、世の中のすべての仲介がうまくいく。ような気がするほど、超人的な駆け引きと気遣いで、仲介を進める。
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国連事務総長特別代表などを歴任し、紛争の調停を行ってこられた明石康さんの「交渉術」を、本人へのインタビューを通じて明らかにしていく。
明石さんの述べる「交渉術」は一見当たり前のことのように思われ、画期的なものではないかもしれない。しかし、決して自分にとって無意味なものでもない。自分が実際に何らかの交渉の場に直面する度に読み返してみる、その価値は充分にある内容だと思う。
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シアヌーク、ミロシェヴィッチ、カラジッチ、プラバーカラン・・・このような独裁者と交渉をしてきた明石さん。その交渉結果に批判があるにせよ、その行動力はすごいと思います。
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明石康氏へのインタビューをジャーナリストの木村元彦氏がまとめたもの。
カンボジアやユーゴスラビア、スリランカの和平に努めた経験が語られている。
題名から何か奇をてらう特別な交渉術があるかと思いきや、そのようなものはなく、ひたすら理性的に交渉をする様が描かれている。国際社会で「独裁者」と言われる人との交渉でも、明石氏には相対者を「独裁者」と思うようなことはない。
相手がなぜこういう行動をとるのか、何を考え、何を懸念し、何を望んでいるのか、そういうことに対する洞察を持つことが説得力には不可欠であり、それは相手が誰であろうと変わらない。
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カンボジア、ユーゴスラビア、スリランカのそれぞれで、国連又は日本を代表して紛争の解決や平和の構築に尽力した明石康氏へのインタビューをまとめたもの。
「あらかじめ敵を想定しない」氏の不偏的な姿勢、想像力や感受性、共感力をもって自己抑制を利かせながら相手と接していく姿が、調停者としてあるべき姿を示しているように感じた。