紙の本
西欧式「世界史」の起源探求
2004/01/19 15:48
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:鍼原神無〔はりはら・かんな〕 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「世界史」は、古代ギリシアを前史としローマ時代に誕生した、と著者は説きます。
著者の言う「世界史の誕生」って出来事は、「諸民族の歴史が、ある統一的な観点から構成された歴史が書かれたこと」と換言できるでしょう。
いわゆる古典古代から近代西欧に至る時代の画期ごとに、どんな読者が想定された「世界史」が、どんな世界像と時間観念を伴って叙述されたか。このポイントを押さえて「西欧式世界史の形成史」を素描した本が、『世界史とヨーロッパ』です。
“素描”と書きましたけど、論の運びは丁寧なで、時として一般向け概説書で見られるハショりすぎも少ない。要所を押さえた大きな歴史のアウトラインが信頼感の持てる筆致で“素描”されています。
アタシは、本書を読んで1970年に刊行された、中公新書『西洋と日本』(増田四郎、編)に収録されている、西欧中世史の故・堀米庸三さんによる『ヨーロッパとは何か』を思い出しました。実は十数年ぶりに再読もしたんです。
こちらの小論で、堀米氏は「ギリシア・ローマの古典古代史はなぜヨーロッパ史の第一章をなすか」との問いをたて、次のように考えを進めています。
アタシなりの要約になりますけれど。中世西欧社会の自己形成は、地中海世界の歴史を、古典古代として自らの前史にせざるを得ない必然性を持っていた。と、堀米氏は説いています。
「すべての歴史は現代史である」とはよく言われることです。
この歴史の基底問題を、西欧史について考えてゆくための戦略図を描いたような小論が、堀米氏の『ヨーロッパとは何か』なのですけれど。
岡崎勝世氏は、講談社現代新書での同著者前著『聖書vs.世界史』で整理された、西欧式世界史というコンセプトの起源が、より広いパースペクティヴの内で探求されています。
アタシたちが、知らずに前提に置きがちな、西欧式世界史というコンセプトの特性を起源に溯って点検する。そんな基底的問題の具体的素描が、アタシのように専門研究者でない読者にも咀嚼可能な型で提供されているのです。
著者の後書きによれば「戦後日本における世界史を加えてはじめて、本書のテーマに関する作業は完結する」とのこと。
西欧史を、アタシたち日本人にとっての現代史として読む、そのように歴史を考えるためのさらなる探求が期待されます。
もっと言えば、専門研究者でない読者が、「イスラムの世界史」や「中国の歴史」について自分なりに考えようとするときにも、有力な補助になる歴史的思考を期待できます。
この本や『聖書vs.世界史』同様、一般向け概説書版での完結編公刊を待望しています。
紙の本
ギリシア以来のヨーロッパの世界歴史論を紹介
2003/11/20 20:10
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
トインビーの世界史を読んで以来の歴史論、というような印象である。ギリシア以来のヨーロッパの世界歴史論を紹介している。自分達の世界(ヨーロッパ)と他の世界(アジア、アフリカ)をどのように捉えていたか、を年代順に解説している。学校で教わる世界史とは違う世界がある。欧米におけるキリスト教の世界観がいかに圧倒的であったか。ギリシアやローマの世界観が、現代の欧米社会にもどこまで根強く残っているか。今まで知らなかった、興味深い視点がある。創世紀に基づく普遍史などは知らなかったし、アメリカのSFに出てくる政治体制に帝政が多いのは、ポリュビオスの政体循環論によるものらしい、とまで、私は推論してしまった。マルクスの唯物史観にしても、改めて理解できたところがある。歴史学も歴史と文化の産物である。西欧中心の世界史の視点の変化発展と問題点の一端が、垣間見えた。
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「歴史」を相対的に見ること 我々が親しんでいる「歴史」や「世界史」というものは、事実を列記した確固としたものとして存在しているのではなく、そこにはさまざまな時代にさまざまな解釈がなされた、その結果の集大成なのである。本書が扱う歴史は主に西ヨーロッパ人から見た歴史観で、世界最古の「バビロニアの世界図(前600)」から説明が始まる。バビロニア人の世界(そこにはバビロニアしか存在していない)を受け継いだものがギリシア人。ホメーロスの『オデュッセイア』が有名。
各時代の歴史認識の変遷やそれに関わる聖書や、中国、イスラム帝国の問題などどの問題をとってもとても興味深い。後半はマルクス、マックスウェーバーなども出てきて問題領域がかなり広がっている。西ヨーロッパを中心にした世界観に長い間なてきたヨーロッパ人が、横柄なのもうなずける。彼らは数千年の歴史を経て優勢思考を生みつけられた。
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高校のとき世界史の最初の授業で、先生が「われわれが今から学ぼうとしているのはヨーロッパから世界をみた歴史だということを念頭においておいて」と言っていた。そのときからずっとぼんやりとではあるがその意識を持って世界史をみていたけれど、この本を読んだときはっきりとそれが理解できた。
昔のヨーロッパの人(という言い方は厳密には正しくないが)がどのように世界をとらえていたか、地理的にそして時間的にその変遷を理解できる。たぶん高校のとき世界史が好きだった人はおもしろく読めると思う。個人的には教父アウグスティヌスが果たした役割がいかにヨーロッパに影響を与えたかが興味深く思った。
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歴史の事象の変遷をついて書いた本は数多くあれど、世界観・歴史観・歴史学そのものの変遷についてをわかりやすく書いた本はあまりありません。これはまさにそれらをわかりやすく書いてくれた一冊です。これは「歴史の父」と呼ばれたヘロドトスから始まり、『神の国』でお馴染みのアウグスティヌス、近代歴史学の父ランケ、20世紀でもっとも影響力があった思想家カール・マルクス、偉大な社会学・経済学者であるマックス・ウェーバー、「世界システム論」のウォーラーステインまでの歴史学の変遷を書いた本です。歴史学の変遷について、手っ取り早くそして、わかりやすく書かれている良い本でオススメだと思いますので是非ご一読を!!最後に西洋人がいかに「驕る民」ということがよくわかる本でもあります。
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ヘロドトスからウォーラーステインと書いてあるのに、ウォーラーステインは数行だけでした。
世界史ではなく、世界史解釈の歴史?みたいな本。
大学生になった世界史の必要性を痛感したために読んだのだけれど……。
世界史解釈の本ではなく、世界史の本が欲しいです(笑)世界史分かってないと分からないです。
やっぱり新書ですませようなんて考えを抱くのか間違っていますね。
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アテネ辺りから近代までの西洋人の視点・歴史観なんかをキリスト教感の変遷(カトリックとプロテスタントとか)とか、聖書の捉え方の観点から書いた本。
4章の科学革命による諸変化、啓蒙主義的歴史観、ロマン主義とナショナリズムなんかはかなり分かりやすく書いてあったYO。
序盤の聖書とか、その辺は興味なさ過ぎたんであんま印象にないです、ごめんなさい。
それでも丁寧に分かりやすく解説してくれる良書であることは間違いない、基礎教養にどうぞ。
近代の章だけでも読む価値あると思います。
大学の図書館から借りて読了。
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ヘロドトスの時代から始めて、歴史がどのようにとらえられ、叙述されてきたのかを、当時の世界観や歴史観をもとに述べている。個人的には、日本における戦後歴史学の流れをもっと詳しく知りたかった。『世界史とヨーロッパ』なので書いてないのも当然ですが・・・
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[ 内容 ]
「世界史」はどのように創られたのか。
キリスト教的歴史観の成立と変遷、国民主義的歴史の誕生など、西欧的世界観・歴史観を根本から考える。
[ 目次 ]
第1章 ヨーロッパ古代の世界史記述―世界史記述の発生(歴史観の世界観的基礎;古代的歴史学・世界史像の特質)
第2章 ヨーロッパ中世のキリスト教的世界史記述―「普遍史」の時代(歴史観の世界観的基礎;中世的歴史学・世界史像の特質)
第3章 ヨーロッパ近世の世界史記述―普遍史の危機の時代(歴史観の世界観的基礎の変化;プロテスタント的普遍史の発生と年代学論争)
第4章 啓蒙主義の時代―文化史的世界史の形成と普遍史の崩壊(歴史観の世界観的基礎―「科学革命」による諸変化;啓蒙主義的歴史学・世界史像の特質)
第5章 近代ヨーロッパの世界史記述―科学的世界史(歴史観の世界観的基礎;ヨーロッパ近代における歴史学・世界史像の特質)
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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ヨーロッパ世界が世界史を著す過程について論じた本。著者の前著『聖書vs世界史』よりも一般向けの内容となっている。
古代には”アジア”、”ヨーロッパ”、”リビア”(アフリカ)という世界の三区分(ヘロドトス)、「人間の本性が同じである限り、過去に起きたことはまた将来にいつか起きる」という円環的な時間観念(トゥキュディデス)、自分たちの世界の外にはバルバロイや化物がいるという”化物世界誌”という思想体系が生まれる。この間には”自由”を享受するヨーロッパと専制君主に”隷属”させられているアジアという対比の構図が生まれ、後世に影響を与える。
ローマ帝国崩壊を経て中世には普遍史が確立し、ルネサンス、大航海時代には転換期を迎える。ニュートンが人間を神の似姿から自然体系の一員として見なし、物理学における絶対的時間という概念を発見して以来、文明や進歩の美名の下に植民地主義を肯定する風潮が生まれる。モンテスキューはアジアが未だに専制政治の下停滞しているのは風土によるものだ、としている。
19世紀にランケが登場することで、史料批判に基づく近代歴史学が確立する。また、マルクスは唯物史観に基づき、歴史は資本主義段階を通じて人類を解放する過程であると主張する。
このレビュー自体、あまり纏まりがないが、歴史というものは過去の人間が未知の人、モノ、考え方に直面したときに取った対応の過程を記したものであるという認識を改めて確認することになった本だった。
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難しい話だが、おぉ〜という部分が多い。キリスト教でがんじがらめにされていた、ヨーロッパの歴史学者たちが、中国の歴史の古さに出会ったときの衝撃と困惑を想像するとおもしろい。
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有史以来のヨーロッパにて、時代時代で世界史がどう描かれどう捉えられてきたかが書かれている本。
歴史に疎いせいもあると思うが、宗教(キリスト教)的な思想、オリエンタリズム(西洋中心思想)など、「そうなのか」と思わせる部分が多々あり面白かった。
世界史、つまりは世界という物が時代時代のヨーロッパでどう捉えられ来たのか、そしてそれが現在の思想にどうつながっているのかがコンパクトにまとめられた良書。
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「世界史」史の本。
ヨーロッパで語られた「世界史」は、それぞれの時代でどういう認識で語られたのかを、古代ローマから現代まで眺める。
最近は、古代ローマの凋落以後、ヨーロッパでは文明が崩壊し、インド・中東・中国などの中心に対してヨーロッパは周縁だった、と言われている。キリスト教文化圏が息を吹き返したのは15世紀、もしくは18世紀以後で、それ以前のヨーロッパを描くときには、気をつけないと「創られた伝統」になってしまう。
古代ローマの世界地図には、同時期に勃興していた中国などは記載されておらず、陸をぐるっと取り囲む海は「オケアノス」と言われていて、ああ、これがアレクサンダー大王が目指したオケアノスで、アレクサンダー大王の時代の世界観だったのだなぁ、と納得した。
中国・インド・イスラム帝国などの世界観などの手引書も読んでみたいと思った。
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歴史学の歴史。これまでいかほどの変遷を経て、今の「世界史」に至ったのか、興味深く読んだ。
ヨーロッパ中心史観には他地域への蔑視が含まれ、問題があることは容易に分かるが、そこを克服していく世界史の記述がどう行われていくべきか、今後学んでいきたい。
また、個人的にはキリスト教の歴史で、常に最後の審判=終末が間もなくだという期待のようなものがあったことが興味深かった。仏教の末法思想との関連も探ってみたい。つまり、人間(思想家、宗教家)は、ある種の「終わり」や「大きな区切り」を歴史に求めるものなのか、という点だ。
ウォーラーステインについては、ほとんど触れていない。その点でサブタイトルはミスリードだ。今、歴史学がどういう地平にあるのかも知りたいところだ。
・キリスト紀元が一般化するのは10世紀末ぐらい。
・古代の場合、市民にとっての実用性が目指されたために一定の科学性が生まれたとすれば、中世の場合は、聖職者や神学者たちが神の栄光を示すことを目指したために科学性の後退をもたらした。
・16世紀、メラヒントンの時代に大学に歴史講義が創始された。
・普遍史(キリスト教史)の立場からすれば、中国史の古さの問題は脅威だった。
・新旧論争は、ヨーロッパ人の歴史意識の転換点になった。ルネサンス以来、古代を評価していたが、この論争で近代を古代より高度な文明と捉えた。ここに貢献したのが科学革命=啓蒙思想だった。
・啓蒙主義(量的進歩論)は革命をもたらしたが、ロマン主義(発達段階論)は理論体系をそなえた初めての保守主義。神、理性ときて、根拠としての歴史がきた。
・ランケ学派=史料批判。十九世紀ドイツの歴史学。
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古代世界においては、円環的時間が当然視されていた。歴史はその通り繰り返すと信じられていた。
古代では「怪物」が信じられ、アウグスティヌスも「神の国」の中で怪物について論じられている。
中世的普遍史の完成者オットー・フォン・フライシックの祖父こそ、カノッサの屈辱を経験したハンリヒ4世。
アウグスティヌスらカトリックたちはギリシャ語聖書や七十人役を中心に歴史を考えていたが、宗教改革後プロテスタントはヘブライ語聖書中心主義となり、年代計算も異なるようになった。