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たまごを持つように
著者 まはら三桃
手の内は「握卵(あくらん)」。自信が持てず臆病で不器用な初心者、早弥。ターゲットパニックに陥った天才肌、実良。黒人の父をもち武士道を愛する少年、春。弓も心も、強く握らず、...
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商品説明
手の内は「握卵(あくらん)」。自信が持てず臆病で不器用な初心者、早弥。ターゲットパニックに陥った天才肌、実良。黒人の父をもち武士道を愛する少年、春。弓も心も、強く握らず、ふんわりと握って。たまごを持つように弓を握り、手探りで心を通わせていく中学弓道部の男女3人。弓道への情熱、不器用な友情と恋愛。こわれやすい心がぶつかりあう優しい青春小説。
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紙の本
悩ましくも楽しき弓
2009/07/06 00:07
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
書名からはわかりにくいのですが、本書は弓の小説です。和弓といっても、その存在を「知らない」という人はいないのでしょうが、実際にやった/見たという人となると、かなり少ないのではないでしょうか。さらに、弓を扱った物語となるとぐっと少なくなるようです。小説はもちろん、マンガ、アニメ、映画まで、主人公や登場人物が弓道部だ、という設定のものはそれなりにあるようですが、弓そのものを正面から扱ったものは数少ないようです。本書は、そんな貴重な物語の1つなのです。
九州のとある中学校弓道部を舞台に、自信がなかなか持てない早弥、天才肌ながらもスランプに陥る実良、黒人を父にもつハーフの少年・春の同学年トリオを中心に、かれらの2年生から3年生までを描いていきます。彼らのまわりには、1年先輩の由佳、顧問の澤田先生、指導をする坂口先生といった先輩・大人が配され、静かに物語が進んで行きます。公式戦には他校の弓道部員もからんできます。もちろん、こうした試合だけではなく、ふだんの部活動の様子も丁寧に描かれています。他の「スポーツもの」にひけをとらない物語の世界といえましょう。
ちなみに、タイトルの由来は、弓の持ち手である左手(弓手といいます)の握り方からきています。「卵中」と指導されるのですが、あたりや体のバランスなどを大きく左右します。悩める主人公早弥は、思わず実際の卵を握りだします。「その手もあったか」と微笑ましくなります。
ところで、ふつうのスポーツものでは、やはり試合が物語のアクセントになります。しかし、弓の試合シーンには、サッカーやバスケットボールといった団体戦ほどのドラマティックな派手さはなく、剣道や柔道のような対人競技のような目前の相手との息詰まる駆け引きが描けるわけでもありません。あらためて弓というものが、静かな、そして、自分との孤独な営みであることを意識させられます。弓の物語が少ない一因かもしれません。こうした性質から、禅と比較されたり、精神統一の必要性がことさらに強調されているような気がします。弓道ガールズ&ボーイズの諸君、でもそれは違うんだよね。ぼくらがやりたかったのは、禅なんかじゃなくて弓なんだ。この物語は、そんな気持ちを登場人物たちが再確認する物語、と言い換えられるかもしれません。
「きゃん、ぱん。」
本書では弓の弦と的に当たった音をこう表現しています。最初はなじめないのですが、物語の深まりとともに、懐かしくもいとおしい音になっていきます。著者は児童文学で賞をとったということで、本書もヤングアダルト向けにも見えますが、元弓道部だったあなたにも読み応えある1冊、といってよいでしょう。