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電子書籍
幸田露伴と明治の東京
著者 松本哉
明治を代表する文豪・幸田露伴の汲めども尽きない面白さは、いまなお新鮮であり、なんとも切ない懐かしさを覚えるものだ――。本書は、代表作『五重塔』の舞台となった日暮里の谷中霊...
幸田露伴と明治の東京
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幸田露伴と明治の東京 (PHP新書)
商品説明
明治を代表する文豪・幸田露伴の汲めども尽きない面白さは、いまなお新鮮であり、なんとも切ない懐かしさを覚えるものだ――。本書は、代表作『五重塔』の舞台となった日暮里の谷中霊園、生誕の地である現在の上野アメ横、人生の半ばを過ごした向島、隅田川近辺など、露伴ゆかりの地を訪ね歩き、作品の読みどころを紹介。学歴とは無縁、独学で一時代を築いた「明治の教養人」の魅力にせまる。文章と風景画で綴った新しい文学案内の書。
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紙の本
解読の見事さと尺度の相違
2003/12/20 19:43
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:脇博道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、永井荷風に関する軽妙なエッセイである「永井荷風ひとり暮し」
や「荷風極楽」の著者が、幸田露伴に真正面から取り組んだ力作である。
まず、露伴の代表作のひとつである「五重塔」を精緻に読み解く事から
本書は始まる。著者が言及している通り、この作品もいまや日本文学の
古典的名作として、名前は知られているものの、現在において広く読ま
れているかといえば疑問であるという記述には首肯出来る訳であるし、
いささか古めかしい文体や、無名の職人と有名な職人の意地を賭けた相
剋という一寸単純と思われる構成も、精読すれば、露伴の希有な才能全
開の文体や比喩の妙技や、複雑な心理劇の展開が、この作品を名作たら
しめているという事を、著者は見事に解読している。
露伴が、作家になる決意を固めて、北海道から東京まで、途徹もない行
脚を行なう(唐突ではあるが、小生はここで映画監督のヘルツォークの
氷上旅日記、を想起した)「突貫紀行」についても、その道中を美しく
イラスト化した図版と共に、その行為が如何に凄いことであったかがよ
く感じられて興味深い訳であるし、この短文を読むために著者自身も如
何に奔走したかが伝わってくる。そして露伴の実質上のデビュー作であ
る「露団々」についての記述は、本書の白眉といっていいと思われる。
ここでもイラストによる初版本の美しさや日本的かざり文字の面白さが
開陳されていて(これもイラストのうまさが一役買っている)視覚的に
も楽しめる。
さて、上記は本書の一部であり、総合的にも著者の露伴に肉迫しようと
するモチベーションがとても伝わってくるのであるが、どうしても背後
に見隠れするのは、著者が敬愛する荷風との比較と感じられる記述であ
る。荷風が露伴に敬意を抱いていたという事実は、勿論著者も書かれて
いる訳であるが、概ね同時代に生きた文学者とはいえ、露伴と荷風は、
明らかに、文学に対する指向性も、両者のライフスタイルも異なった作
家である。些末事に言及して恐縮ではあるが、露伴の釣りという趣味を
語る際に、根岸会、という同行の士たちとの交遊も言及してしかるべき
と思うし、露伴の幻想釣り文学の傑作である「幻談」にも触れて欲しか
ったと感じた次第である。更に、露伴が育成した娘君の名女流作家幸田
文さんについても、勿論本書の主題ではないとしても、荷風と幸田文さ
んの邂逅の場面だけを抜き出して、幸田文さんを登場させたりするのは
如何なものか? 幸田文さんから逆照射するだけでも露伴の偉大なる人
間像は浮かびあがるのであるから。
著者が、露伴を非常によく読み込んで本書を書いたことは伝わってくる。
であるならば、ここはひとつ、荷風を登場させずに(露伴と荷風、とい
う比較論として書くことも可能であったと思うし、その方がいっそのこ
と両者の相違が、著者独自の視点で明確になったと思われる)露伴一筋
で貫き通して欲しかったと感じた次第である。
苦言を要してしまったが、著者の露伴に関する探索の見事さには多大の
敬意を表すると共に、本書をとば口として、希有の文豪、幸田露伴が再
び広く読まれることを切に願う次第である。