紙の本
モーパーゴの筆がさえわたる一冊
2010/08/11 07:01
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のはら そらこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
新米記者レスリーのところに、世界一有名なバイオリン奏者パウロ・レヴィにインタビューするチャンスが舞いこんできた。先輩記者はレスリーに「プライベートな話題はだめ、とくに、モーツァルトの件についての質問はだめ」とアドバイスする。
緊張して「モーツァルトの件には質問をしません」などと口走ってしまったレスリーに、バイオリン奏者パウロは、「秘密は嘘と同じだと言う人もいる。とうとうその嘘をやめるときがきたようだな」と、心に秘めてきた物語を語り始める。それは、彼が9歳の時はじめて両親に明かされた、ユダヤ人強制収容所での物語だった。
作者はあとがきで次のように書いている。
「第二次世界大戦中ナチスの強制収容所に入れられていた人たちの苦しみや悲惨さは、私たちにはなかなか想像できません。ナチスが行った犯罪は、あまりにも極悪非道なので、ふつうの人の理解を超えているからです。」
収容所での話になると、いつもわたしは目と耳をふさいでしまう。その悲惨さにとても耐えられないのだ。
この物語は、新米記者がバイオリン奏者に話を聞き、その話の中で、子ども時代のバイオリン奏者に両親たちが語るという入れ子の形にして、生々しさを消し、おもしろい読み物にしたてて、読みやすくしている。ガス室、遺体焼却場といった言葉はでてくるけれど外側から書かれ、血なまぐさい描写はなく、美しい言葉で静かに語られる。そして、モーツァルトが流れる。
しかし、だからといって、シビアな出来事を甘く塗りなおしているわけではない。むしろ、明るく軽やかなモーツァルトの調べとの対比により、人の悲しみ、苦しみが、いっそうひしひしと伝わってくる。
収容所で囚人たちのオーケストラによりモーツァルトを演奏されていた。ナチスに選ばれた才能ある囚人たちが、演奏させられていたのだ。多くのものがガス室へつれていかれるなか、好きな音楽ができるのはとても運がいいことだった。すばらしい音楽をつくりあげるのは、喜びや生きる糧でもあった。けれども、その音楽の使われ方は、このうえなく残酷なものだった。オーケストラ団員たちは歓びの音楽を奏でながら、心は悲しみに沈み、苦しみにもだえた。
こうした彼らの葛藤と苦悩をモーパーゴはくどくどと説明せず、事実と情景、物語の設定と構成であらわし、読むものの想像にまかせている。そしてわたしちの心には、マイケル・フォアマンの美しい挿絵とともに情景が鮮烈に映しだされ、オーケストラ団員たちの複雑な心情が、ずしりと重く心にのしかかってくる。
モーパーゴの筆がさえわたる一冊だ。
紙の本
受け継がれていく戦争というもの
2010/08/16 20:14
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:プラチナ若葉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
モーパーゴがまた一冊戦争について深く考えさせられる本をだした。
世界的に有名なバイオリニスト、パオロ・レヴィにインタビューした若い新聞記者が、緊張のあまり口を滑らせて、してはいけない質問をしてしまうところから物語が動き出す。
戦争を直接体験したわけではないパオロは、父が音楽を捨てた理由、母が音楽に深い愛着を持つ理由を、偶然出会った師匠と両親を引き合わせることから知る。そしてその秘密は幼いパオロに決してモーツァルトを演奏しないと決心させるだけの影響を与える。
しかし、最後まで父との約束を守りきったパウロはまた新しい世代に自分に伝えられた真実を伝えるという新しい決心をするに至る。
戦争の物語、といえば、今までその語り手自身が戦争の当事者である場合が圧倒的である。しかし、この物語は体験を伝えていくという点に着目しているところが新しいところである。
この物語は戦争が風化した時代に風化した場所に語られる、新しい形で戦争を語る可能性を秘めた作品である。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぽんぽん - この投稿者のレビュー一覧を見る
絵本?になるのかな。
だけど、ナチスの収容所での悲しい記憶…。
すぐに読めたが、戦争のことを考えさせられるお話だった。
投稿元:
レビューを見る
ある気難しいヴァイオリニストが新聞のインタビューに対して初めて語った秘密の話。
秘密とは言い変えたら嘘、という言葉が印象的でした。
優しくて淡い色彩の絵も素敵で、ヴェネツィアに行きたくなりました。
投稿元:
レビューを見る
パオロの父さんはバイオリニストだった。でも今はバイオリンを弾かないし、そのことを話題にすることさえ嫌っていた。なぜ? そんなある日、パオロは道でバイオリンを弾いている人に出会い、バイオリンを教えてもらうことになった。父さんに内緒でレッスンするうちに、その人と父さんの秘密とのつながりが明らかになって…。
ホロコーストの辛い記憶。それを超えていく音楽の力。フォアマンの描く美しいヴェニスの景色。全てが一つになって心に暖かな音色を響かせる。
投稿元:
レビューを見る
モーツァルトの件については質問してはいけない。世界的に有名なバイオリニストにインタビューすることになった私に、上司はそう言った。プライベートについても質問していけないと言われ、一体なにが…と思うが、そんなことがあったとは。戦争の真実を正しく伝えていくことは大切なこと。世代を超えて語り伝えられていってほしい。パオロ少年はバイオリンの奏でる音楽によって、失われたものを取り戻し、再生への道を歩んでいったのだろう。父母から伝えられた音楽とバイオリン。それは戦争の記憶を保ちながら、次の世代へと伝わっていってほしい。
投稿元:
レビューを見る
きれいな表紙に惹かれて手に取り裏を見たら全く違う雰囲気の絵で、どんな話かは大体想像がつきました。
これからも伝えていき、知ろうとしなければいけない事なんだなと思います。
『私が作家になったきっかけは、こんなことがあったからです。それは・・・。
私が新米の記者だった頃、怪我をした上司の替わりに、有名なバイオリニストのパオロ・レヴィへのインタビューを任されました。上司の言いつけは「絶対にモーツァルトについて聞かないこと」。理由は誰も知らないけれど、うっかり聞くとインタビューは中止になるから。
でも私は緊張のあまりインタビューの最初に「モーツァルトについて聞かないように言われているのでお聞きしません」と言ってしまいました。
レヴィ氏は私を追い出さず「ひとつの物語をしてあげよう」と子供の頃の思い出を話してくれたのです。』
これは絵本ですが文章が多いので、挿絵が多い短編小説といった趣でした。
そして作者の思い出話から入り、パオロ・レヴィの子供の頃の思い出、それはパオロの両親とバイオリンの先生の悲しい体験に繋がるという、絵本としては複雑な構成になっています。
この本の文章がすらすら読める子供以上でないと理解は出来ないと思います。
音楽には何の罪もなくてもあまりに辛い記憶に繋がっていると、それを封印しないでは人は生きていけません。この話には特定のモデルになっている人はいないようですが、パオロの両親のような人はきっとたくさんいたのでしょう。
ナチスはモーツァルトをそのような形で使っていたのですね。
レヴィ氏がインタビューの最後に「私」に言ってくれた演奏会。きっとその時皆の魂が開放されただろうと思いたいです。
投稿元:
レビューを見る
挿絵がカラーできれい。まるで絵本のよう。
ヴェニスに住む世界的に有名なヴァイオリニスト、
パオロ・レヴィにインタビューできるという
幸運を手にした新米の記者が上司に言われたこと。
「モーツァルトの件についてだけは質問
してはいけない」
しかし、うっかりそのことに触れてしまった記者に
対し、彼は思いがけない物語を語りだす。
音楽を利用してナチスの収容所で繰り返された
悲しい残酷なこと。それでも音楽は人の心を
救っていた。短い話だが、静かな悲しみと明るい
余韻を残してくれる。
投稿元:
レビューを見る
音楽とは、人間であり、記憶であり、心そのものだ、
そんなことを再確認させてくれる物語。
<あらすじ>
ある若いジャーナリストが、上司の代わりに急遽著名なヴァイオリニストにインタビューをすることになった。ただし、上司によると「モーツァルトの件は決して聞いてはいけない」モーツァルトの件とは?ヴァイオリニストの人生に光と影を投げ掛けた、彼の両親から、師匠から受け継いだ記憶とは?じっくり腰を据えて読むべき本、それでいて爽やかな読後感すら感じる、蒼い街ヴェニスを舞台とした名作。
投稿元:
レビューを見る
世界的に有名なバイオリニスト、パオロ・レヴィはモーツアルトの演奏はしない、話しもしない。
それは何故か。
かつてナチスの強制収容所に集められ、強制的にモーツアルトの演奏をさせられていた両親と恩師たちの過去が、静かに語られた。その傷はそれぞれに深く刻まれていたのだ。
投稿元:
レビューを見る
軽いクラシックの可愛らしいお話かと思って読んだのだけれど、
全然そんなことないお話だった。
って、どこまで、このお話の核心についた書き方をしていいのか、
全く分からない。
『サラの鍵』を思い出したお話だった。
おりしも、ちょうど、そのようなテレビ番組をやっていたようで、
本当に思えば思うほど、苦しい。
こういうことがあったということを忘れずに、
そして、常に関心を持つ事が、、重要なのかなぁ。。。
【5/25読了・初読・市立図書館】
投稿元:
レビューを見る
音楽はどうしたって癒えそうにない悲しみや苦しみから、再生する助けになってくれる、かも。
プリーモ・レヴィ
速記
『サラの鍵』
投稿元:
レビューを見る
高学年むけ。世界的に有名なバイオリニストのインタビューで、今まで彼が語らなかったモーツァルトを弾かない理由についての告白。内容はホロコーストです。
投稿元:
レビューを見る
ナチス絡みの話だということは知っていたので、もっと暗い重い話だと思っていたが、そこまでツライ物語ではなかった。レヴィは父親が亡くなってようやくモーツァルトを弾けるようになったわけだけれど、どんな想いを込めてヴァイオリンを弾いたのかな。曲目は何だったんだろう。
「秘密は嘘と同じ」という言葉がなんだか胸に響いた。
投稿元:
レビューを見る
そこには音楽があったんだ。
すばらしい演奏が終わるとさっさとステージを下りてしまう演奏家がいた。
拍手を受けるのは、音楽そのもので演奏家ではないと言っているかのように…。
ナチスの強制収容所が、囚人の中から音楽のできる者を選んでオーケストラで演奏をさせたという事実。
演奏する者にとっては、それが生きのびる唯一の道だったという事実。
その演奏は、収容所に到着したばかり者たちの気持ちを落ち着かせるために行われ、オーケストラの前を並んで歩かされた者たちのほとんどはガス室に送られたという事実。
そんな つらくて苦しい状況で演奏させられた音楽家たちは、どんな気持ちでいたのだろうか。
『モーツァルトはおことわり』
原題“The Mozart Question”
マイケル・モーパーゴ(作)
マイケル・フォアマン(絵)
さくまゆみこ(訳)
岩崎書店 2010.7.