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永遠も半ばを過ぎて
著者 中島らも
ユーレイが小説を書いた? 三流詐欺師が写植技師と組み出版社に持ち込んだ謎の原稿。これが文壇の大事件に……。2004年に52歳の若さで逝去した中島らもさんが遺した傑作。19...
永遠も半ばを過ぎて
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永遠も半ばを過ぎて (文春文庫)
商品説明
ユーレイが小説を書いた? 三流詐欺師が写植技師と組み出版社に持ち込んだ謎の原稿。これが文壇の大事件に……。
2004年に52歳の若さで逝去した中島らもさんが遺した傑作。1997年には、本作を基にした映画『Lie Lie Lie』(監督・中原俊 出演・鈴木保奈美、豊川悦司、佐藤浩市ほか)も公開。
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紙の本
『名前』を求めて放浪する物語
2003/07/07 14:16
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:べあとりーちぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る
電算写植オペレータの波多野善ニ。一(にのまえ)食品工業株式会社代表取締役(実は詐欺師)相川真。文芸新社編集者の宇井美咲。三人の名前を集めると「真・善・美」となるけれど、もちろん三人ともそんなものとは縁遠い。ついでに言えば三人とももう取り立てて若くもなく、それぞれちょっとばかり人生にくたびれている。
そんな三人がひょんなきっかけで結託し、「幽霊が書いた文学」を上梓することに相成った。幽霊の文学なんて文壇に対する詐欺みたいなものだったが、そこにはもう一段階、ダメでもともとの大勝負が仕掛けてあったのだ——。
おもしろうて、やがてかなしき。
中島らも氏の著作を読むと、いつもこの言葉を思い出す。別に悲しい物語ではなく、結末がハッピーエンドであっても、必ず読後感にはそこはかとない哀しさと寂しさが付きまとう。らもワールドの魅力のひとつである。
それはおそらく、登場人物の中にいつもぽっかりとした寂しさが巣食っているせいだ。登場人物の中に、らも氏自身の中に、そして読者たるわたしたちひとりひとりの中に。みんな一見満ち足りて、恵まれているとさえ言える暮らしを送っているのに、何かが足りないのだ。そんなことを口に出したら甘えているみたいに見えて悔しいし、第一恥ずかしくてとても言えないのだけれど。
常日頃、自分の探しているものはある一冊の書物ではないか、と筆者は感じている。その一冊があれば他にはもう何も要らないような、音楽的な言葉と霊感に満ちた究極の書物。その一冊に出会いたくて、次から次へと飽きもせず本を読んでいる。自分の中にあるぽっかりとした部分を、「永遠の書物」ならぴったりと埋めてくれるような気がして、探しつづけずにはいられないのだ。
永遠も半ばを過ぎた。/わたしとリーは丘の上にいて/鐘がたしかにそれを告げるのを聞いた。
静謐で美しいこの文章で始まる劇中書物「永遠も半ばを過ぎて」には、「永遠なる書物」のエッセンスが詰まっているように思える。登場人物のひとり、評論家の平沢先生がこの本を「名前=第一の矢=つまり言語を探して旅する無言の旅を、岩や木や人の語るさまざまなアフォリズムが足跡付ける、霊なき時代の美しい一冊」だと評価する。
背つぎクロス装函入り美装本と、装丁もシンプルながら上品で凝っている。クロスは黒で箔押しのタイトルは銀。たぶん版面は波多野オペレータが夢見たような、ビブリオグラフィに基づいたもっとも美しく見えるレイアウト。どうだろう、手にとってみたくはならないだろうか。この理想の本の手触りや匂や姿を、涼やかで予言的で美しい物語を、楽しみたくはならないだろうか?
文藝春秋から出ていた中島らも著の単行本版「永遠も半ばを過ぎて」は、劇中書物の「永遠も半ばを過ぎて」をそっくり真似していた。同じ姿をしているのに、究極の「永遠の書物」はほんの端っこしか読めないのがもどかしくて、でもその端っこだけでもいいから味わいたくて、筆者は何度でもこの本を開いた。
文庫版「永遠も半ばを過ぎて」では、理想の書物はカバーの写真に納まっている。さらに一段、入れ子の奥に引っ込んでしまった訳だ。むごく感じるけれども、もしかしたら手触りや見た目が限定されないぶん、より理想に近づいたと言えるかも知れない。
ともあれ、おもしろうて、やがてかなしきらもワールドと、「永遠の書物」の誕生を同時に楽しめる物語は他にはない。一人でも多くの読者に、このふたつの魅力をどうか堪能してほしい。
紙の本
初めて孤独の意味を知る
2001/02/28 16:28
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つる - この投稿者のレビュー一覧を見る
「孤独というのは妄想だ。孤独という言葉を知ってから人は孤独になったんだ。同じように幸福という言葉を知って初めて人は不幸になったんだ。」
「人は自分の心に名前がないことに耐えられないのだ。そして孤独や不幸の看板にすがりつく。私はそんな簡単なのは御免だ。不定形のまま混沌として、名を付けられずにいたい。どうしてもというなら私には一万語くらいの名前が必要だ。」
登場人物の女性はそんなふうに思っている。この人が私の心に深く残っている。とても魅力的だと思う。そしてこの人が最後に恋をして、そして初めて自分も孤独の意味を知るだろうと覚悟(期待)する。
とても聡明な女性だと思う。
なかなか良い本だった。