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迷えるウクライナ 宗教をめぐるロシアとのもう一つの戦い
著者 高橋沙奈美
ウクライナとロシアの歴史は複雑である。両国は千年以上にわたってキリスト教の一派である東方正教という信仰を共有してきた。ソ連崩壊後、ウクライナは独立国となったが、宗教の世界...
迷えるウクライナ 宗教をめぐるロシアとのもう一つの戦い
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迷えるウクライナ 宗教をめぐるロシアとのもう一つの戦い (扶桑社新書)
商品説明
ウクライナとロシアの歴史は複雑である。
両国は千年以上にわたってキリスト教の一派である東方正教という信仰を共有してきた。
ソ連崩壊後、ウクライナは独立国となったが、
宗教の世界では依然としてロシア正教会の管轄下にあった。
2022年のウクライナ侵攻後、ウクライナでは正教会の独立を求める動きが激しくなり、
ロシアとのつながりを維持しようとする親露派との間で混乱が起きている。
戦争が終結したとしても、独立派と親露派の激しい対立は、
ウクライナを分断させるものにもなりかねない。
なぜロシア正教会はウクライナの正教会の独立を認めないのか。
ロシア正教会の背後にいるプーチンが固執する「ロシア世界」とはなにか。
いま、ウクライナで何が起きているのか。ウクライナの正教会はどこに向かうのか。
本書ではウクライナとロシアの絡み合った関係を、
キリスト教東方正教を立脚点として解説している。
同時に西洋のキリスト教とは異なる東方正教会の教えや
東方正教会全体の歴史をも概観することで、
コンスタンティノープルvsロシアという対立軸のような、
日本の報道だけでは知りえない世界の新たなとらえ方を提示する。
著者は正教徒にして、現代ウクライナの公共宗教を専門とする
高橋沙奈美・九州大学大学院人間環境学研究院講師。
状況が刻々と変わるなか、今、ウクライナの宗教界で起きていることを、
平和への祈りを込めてリアルタイムで描き出した日本では初めてとなる報告である。
はじめに
第一章 東スラヴにおける東方教会の歴史と特徴
第二章 「未来より不確かな過去」―ロシアとウクライナの正教会の歴史
第三章 神の死、祖国の死―ソ連体制下のウクライナの正教会
第四章 ロシア正教会と「ロシア世界」の文明観
第五章 ウクライナの正教会
終章 割れた洗礼盤
あとがき―記憶すること、祈ること
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扶桑社新書式「真実」かと思いきや
2023/05/05 14:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
扶桑社新書なので、岩波文庫の「春香伝」すら読んだ事がないらしい宮脇淳子式の「真実」かと思いきや、なかなかにしっかりとした本だった。ウクライナの宗教を扱った一般書はあるかどうか分からないが、単純な「支配者たるロシア・ソ連」対「被支配者たるウクライナ」といった二元論でない事に好感が持てる。ロシア帝国が単なるロシア人の国家でなく、ツァーリを中心とした諸民族の国家だったのは、マンネルヘイム元帥が帝政時代のロシア軍の将軍だった事を想起すればいい。ソ連も少なくとも出発点は大ロシア主義を否定した「国際主義」を掲げた体制だ。
著者はソルジェニーツィンからロシア研究に入って共産主義時代にラーゲリがあったソロヴェツキーで正教会の洗礼を受けたとあるから、生まれながらの正教会の信者ではないわけだ。正教会の用語を多用しているのは、いつも使っているからだろうが、一般の読者には馴染みがないだろうか。
1941年6月22日の戦争でドイツ軍占領下のウクライナで教会が再開されたとある。当時のウクライナを支配していた国家弁務官のエーリヒ・コッホにとって、ウクライナはユダヤ人は「絶滅」して「劣等民族」は搾取すべき土地に過ぎないはずだ。ローゼンベルクの東方占領地省とは不仲というから、コッホの部下で、ある程度ウクライナについて知識がある人が立案したはずだ。ドイツ軍が教会を再会した事がソ連での宗教の生き残りの分岐点となったにしろ、ロシア正教会はウクライナの教会にとって新たな支配者であり、同時にロシア正教会の存続にとって必要な存在となったのは皮肉な話だ。
ロシア正教会の総主教をはじめとする人々がKGBのエージェントである事は知られているが、ウクライナの教会にも同じような立場の人はいるはずだ。