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この旅館の若女将は本の放つにおいに悩まされ読むことができないという特異体質の持ち主。
どんな本なのかも知らないのに旅館を訪れた悩めるお客に最適な本を選びそしてその本の感想を語らせることで気付きを与える。
不思議な力を持つ若女将の振る舞いや接客が品良く変にキャラ立ちしていないのが好印象だった。
どの章も素晴らしかったけど最終章での展開と結末は正直ここまで心打たれることになるとは思いもしなかったので驚いた。
作中に登場する本も読んだうえでもう一度読み返したい。
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凧屋旅館の若女将、丹下円。
旅館にある海老澤文庫から選ぶ古書は、彼女が宿泊客と同じ匂いがすると感じる本。そしてその本は、今求めているものがなにかを教えてくれる。5冊の本に導きだされた答えが、新しい一歩を踏み出すために必要なものであり、それぞれのこれからがよい方向に向かうことを願った。5冊めでは、海老澤文庫がどういうわけで凧屋旅館にできたのかなどがわかる。読み終えて、はじめの「序」をもう一度読むと感慨深かった。
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めちゃくちゃ面白い小説でした!
古書を収めた文庫を併設する老舗旅館の若女将である円が、訪れるお客様に同じにおいを纏った文豪たちの小説をおすすめするという物語で、章ごとに1冊の小説が1人のお客様に読まれ、そのお客様の抱えている悩みや問題が晴れ、前に進んで行く・・・
という、よくあるほっこり系のいいお話で、更に川端康成をはじめとする文豪たちの小説にその方の人生を照らし合わさって凄く面白いなと思いながら読み進めていたら、なんと、それだけじゃなく、まだその上を行く作品でした。
そして、本というものをとても敬って描かれ、本の尊さをより深く感じた作品でした。
登場した5冊の本を知らなくても面白く、というよりはそれらの本を読みたくなりまさした。
***ここからネタばれ***
凧屋旅館、丹下家の歴史が明かされていくという、後半はまるでミステリーを読んでいるかのようでした。まさか円のひいおじいさんがこんな秘密を、罪を抱えていたなんて、丹下一家にこんな歴史があったなんて、こんな風に繋がっていくなんて、驚愕でした!第1章(1冊目)のお客様で、円に川端康成のむすめごころをすすめられた葉介が、凧屋旅館の文庫の持ち主であった海老沢さんの孫だったなんて!思いもしませんでした。
円達と一緒にすべてを知った、海老澤呉一の息子であることが判明した葉介のお父さんさんが、円のおばあさんである女将に「どちらさま?」と聞かれ「兄さんだよ」と返答し、さらに女将が「にいさん、凧屋旅館へようこそいらっしゃいました」という場面は、頬に涙がつたいました。久しぶりに持った感情でした。
5冊目の夏目漱石の「こころ」が、こんな風に重ねられるなんて、なんていう表現力なんだろうと、著者である名取佐和子さんに感動と尊敬を抱きます。
近い内に「こころ」を読もうと思います。
以前から読みたいなと思い、自分に文学作品は読めるのかな?と、読むタイミングを見計らっていたのですが、読みたい思いが強くなりました。
いやぁ・・・
本当に面白い素晴らしい作品だった・・・
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最近、ブックホテルや書店に宿泊とか、わたしにとっては夢のような場所がある。
いつか泊まってみたいと思う。
まずはそれを、本で体験!!
この作家さんの本を読むのは、二冊目。
凧屋旅館には、読書スペースがあり、宿泊中本が貸してもらえる。
若女将は、その人にあった本を、本の匂いとお客様の匂いで選ぶ。
若女将から渡された本を読んだお客様が悩みを解決して日常に帰っていく。
なかなか読み進めない。
そういえば、前もそうだった。
読みにくいんだった、今回は途中で読むのをやめてしまった。
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戦前から続く老舗旅館・凧屋の名物は、様々な古書が揃った文庫があること。
そこの若女将は、本のにおいに敏感すぎて、ただの一冊も読み通せたことがことがないが、客には同じにおいのする書物を勧める。
大抵の客はその書物を読むことで、抱えていた思いの出口を見つけ、喜んでくれる。
不思議な感覚でもあるが、今の自分にはどんな本をすすめてくれるのだろうか?と思ったりした。
確かにその時々で影響を受ける書物があるかもしれない。
この物語も悩みを抱える人に寄り添い、心が晴れるような書物をすすめている。
しかし、最後の五冊目は若女将の人生にまで関係する内容だったのに驚くとともに、ときおり祖母が出てきていたのに納得できた。
ーーー祖母は小説が好きで、作り話のなかにときどき覗く本当を探してる。ーーー
私も小説を読んでは、そのなかに自分と共感するものを探しているのかもしれない。
一冊目〜川端康成『むすめごころ』
小学校からの腐れ縁の三人の恋愛事情…葉介の普通じゃないは、今、みんなにとって案外普通かも。
二冊目〜横光利一『春は馬車に乗って』
則子は、長年夫婦を続けてきたが夫と過ごす毎日に疲れ果てていた。そして夫をちっとも愛していないことに気づいた。
三冊目〜志賀直哉『小僧の神様』
亡き妹が遺した息子の母となったが、彼の個性に何度も振り回される。あの子を引き取らない選択をした親族より、あの子を虐待していた妹夫婦より、一番あの子を傷つけてしまうのではと思う。
自分を放り出したりせず、寄り添ってくれているのは伝わってると…
四冊目〜芥川龍之介『藪の中』
卒塾旅行で四人の少年たちの引率で来たのは塾長の息子。
彼らと塾長の溝は何故⁇その真相がわかったとき。
真実は人の数だけある。
五冊目〜夏目漱石『こころ』
2回目の来訪となる葉介と一緒に葉介の父親が『こころ』を寄贈しようと持ってきたのだが、それは海老澤文庫にあるべき同じ蔵書印のあるもので…。
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本が読めない若女将が客と同じにおいを纏った小説をおすすめしてくれる。
客はその本から何かを感じ取りそして自分自身と向き合い、自分の生き方を見つめ直すきっかけとなる。
1冊目、川端康成『むすめごころ』
男友達に秘めた「想い」を抱く青年。
2冊目、横光利一『春は馬車に乗って』
夫と夫婦生活を続けることに疲れてしまった中年女性。
3冊目、志賀直哉『小僧の神様』
亡くなった妹夫婦の息子を引き取り育てている女性。
4冊目、芥川龍之介『藪の中』
アルバイト先の塾の生徒である4人の男子中学生を引率してきた男子大学生。
5冊目、夏目漱石『こころ』
この旅館の若女将・円とその祖母の話。
最後は思いがけない展開でなかなかヘビーでした。
この中ではこころしか読んだことなかったけど、いろいろ読んでみたくなりました。
こんな旅館あったら行ってみたいな。
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久々の名取さん。
「金曜日の本屋さん」シリーズが好きだった。
今回も、本と小さな事件のからむミステリー。
いや、今回の方が事件は複雑、大事だろうか。
古書の文庫をもつ故に、文庫旅館の異名をもつ凧屋旅館。
その若女将が円だ。
本から発する不思議な匂いを感じてしまうので、
自分は読めないのだが、
その客に必要な本を文庫から薦めることができる。
本の力を信じるからこその小説。
ああ、わかる、わかる、その感覚はよくわかる。
もしもこんな旅館があるのなら、
私もぜひ泊まりたくなる。
何を見せつけられるのか、ちょっと怖いけれど・・・
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古い文庫が有名な凧屋旅館に泊まる人達の話。よくある癒し系の話かと思ったら全く違った。
過去の名作の本歌取りみたいな点も頼しかった。つながる最後の場面には感想を言う事さえ憚られた。ミステリとも読めるし昭和文学の誘いにも受け止めた。
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海沿いに建つ創業90年を超える凧屋旅館が舞台の連作長篇。この旅館には昭和初期までの作品を集めた文庫があり、宿泊者はその蔵書を自由に閲覧することができる。そして自分は本が読めない体質だという若女将は、宿泊者に“おすすめの本”を差し出し、読後に内容を聞かせてほしいと言う……。
どこかで読んだような設定と、同じような構成に「またか」と思ってしまったが、読み進むうちに確かな違いを感じた。そして読後には、読書という行為の素晴らしさを実感した。
ちなみに登場する5冊のうち、芥川の『藪の中』と漱石の『こころ』しか読んでいなかった(-_-;)。
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凧屋旅館が舞台となる話
若女将円さんが宿泊者に薦める本は的確であった
もし、わたしが泊まったらどんな本を薦めてくれるだろうか
円さん自身が本が読めない理由や海老澤文庫の成り立ちなど解き明かしていくのも面白かった
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終盤でなるほどこうきますか!という展開に。
淡々と進むのかなあと思っていたからびっくり。
個人的に、則子さんをひそかに応援してた(◍•ᴗ•◍)
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霧島の旅行人山荘や、黒川温泉ののし湯、等は、本やレコード、CD等がある空間が設えてある。経営者は、街から離れた旅館故、コンサートに行くとか、大きな書店で本を選ぶとか、出来ないだろう。それ故に自分の為、子供の為それらを買い求め、文化的な物に触れようとするのだろう。旅人に、それらに触れる場所を提供してあり、心地良い空間が誂えてある。そんな旅館は、造り等もてなしに遊び心がいっぱいで…。また、そんな旅館に出会いに行こうっと。まぁ、この作品にある文庫部屋とは、まるで意味合いが違うけどね。
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海を思わせる青色の表紙。本棚を背に立つ女性と"文庫旅館"の文字に興味をかき立てられた。
夏の甲子園。「八月十五日、正午」に響くサイレンの音。序章ですぐ本の世界に引き込まれた。
曽祖父に本読みをせがむ女の子はなぜ本を読むことができないのか…
「別に悪い人間といふ程のものもゐないやうです。大抵田舎者ですから。」
暗誦される一文が大きな意味を持つことが後に明かされていく。
〈老舗「凧屋旅館」の若女将がすすめる本には、訪れる客と同じにおいがする〉
本好きにはたまらない設定で、しかもその本が"文豪の古書"となればページをめくる手も自然に速まる。
川端康成、横光利一、志賀直哉、芥川龍之介、夏目漱石
一冊目から三冊目までは、穏やかな海に立ち上がってくる波を感じる。
においに敏感な若女将から今、必要とする客に手渡される一冊の本。
四冊目の『藪の中』、そして海老澤文庫に置かれていなかった五冊目へと物語の移行がとても見事だった。
さらりとした終わりを迎えるだろうとの予想をはるかに超えるもう一つの物語。本の繋がりが明かしていく"血のつながり" に心を揺さぶられた。
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名取佐和子の文庫旅館で待つ本はを読みました。
若女将の円が居る凧屋旅館には、文庫が置いてあるレトロな部屋があり、訪れるお客さんに若女将がお勧めの本を伝えます。
5話構成です
次が読みたくなる本です。
一冊目は川端康成のむすめごころ。
二冊目は横光利一の春は馬車になってです。
三冊目は志賀直哉の小僧の神様
四冊目は芥川龍之介の藪の中
五冊目は夏目漱石のこころです。
こころは高校の教科書に出てきました。
最後に若女将の円が本の匂いで読めない真相も分かります。
映画になってほしい本です。
お勧めの一冊です。
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時間の単位が”読んだ本”。そんな人生っていいな。
目次ごとに自分が感じたこと。
一冊目
自分の”普通”を知ること
二冊目
自分に真心を
三冊目
不完全で愛おしい“神様”
四冊目
人は矛盾なく沢山のタグをもつ
話の中核となる夏目漱石の”こころ”。
中学の教科書に載ってて、当時、物語を覆う言いようのない暗さと救われなさ(その時の感覚)に嫌悪感さえ覚えたのを記憶している。
(前半で”こころ”がこの旅館に所蔵されてないと知りちょっとほっとしたが、やはり違った)
もう殆どあらすじは覚えてないが、今回この本に出てきて当時の感覚が生々しく蘇ってきた。きっと心がえぐられ過ぎて13,4歳の私には受け止めきれなかったんだろうと思った。(中学教科書に載せるのはなかなかの勇気か?笑)でも今読むと救い(もしくは赦し)はあるのかも。当時何故そこまで嫌悪したのか自分を知るために読んでみるか。
五冊目で、それまでに登場した人や出来事が全て繋がっていく。
昔から好きな曲の歌詞が自然と浮かぶ。
光と影と表と裏
矛盾もなく寄り添っているよ
できれば後世に禍根は残したくないけど、今起こってるどうにもならないことも先送りして時間をかけることで赦されることもあるのでは。
最後の一文が素晴らしい。
「雲のない青空は澄み渡って高く、すべての誤りをそのままの形でやわらかく包む広さがあった。」
自分も、世の中も懐深くなりますように。
この一冊で、私が読書が好きな理由を教えてもらった気がする。
「作り話のなかにときどき覗く”本当”を探してるの。」
久々に読書に没頭できて満足。