寝ぼけ署長 みんなのレビュー
- 山本周五郎
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紙の本寝ぼけ署長 改版
2008/07/20 10:55
敗戦後まもない作品なのに、内容に古さを感じないのは「ねぼけ署長」待望の気持ちがあるからか。
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ねぼけ署長こと五道三省による10編の事件簿だが、罪を憎んで人を憎まずという警察署長の事件解決に安心させられるというか、人としての道を教えられたというか、「良かったなあ」という充足感で満たさせるものだった。
読み始めの第一編目、すっきりとしない結末に少しばかりいらだちを覚えるが、なにか次には意外な面白さがあるのだろうと期待を抱いて読み進む。これまた肩すかしを食らったような読後感が残る。
そういった期待感と軽い失望の繰り返しが続き、いったい何なのだこの小説は、と思っているうちに、「ねぼけ署長」のペースにはめられていっている。極悪非道の悪人でもない限り、善良なる庶民に救いの道が用意されているところに読み手が逆に救われている。
そして、名もなく貧しい庶民の味方である「ねぼけ署長」が最後に庶民に吐いた言葉は絶望に近い言葉だが、それも「ねぼけ署長」のテレであり、男の美学であるところが格好良いと思わせてしまう。貧しい庶民にとっては裏切りの言葉だが、それはそれで「ねぼけ署長」の次に赴任してくる警察署長への配慮でもあるのだろう。
時代は戦後間もない混乱期だが、ある意味、「三丁目の夕日」のように人情が倫理感である時代を表わしている。内容に古さを感じず、むしろ、今でもこんな「ねぼけ署長」がいたならばどんなに良いだろうと思わせるものだった。
「自然に悪魔が出現してくれる社会や組織は健全である」という言葉があるが、「ねぼけ署長」がその悪魔の役回りを演じながら、社会を健全に保っているのではとも思ったりもした。
最終章の「最後の挨拶」では、事件簿らしく乱数表を使った解決の糸口が出てきて逆にとまどったが、ものの見事に書き手山本周五郎の術策にはまって気持ちがよかった。
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