オタク市場の研究 みんなのレビュー
- 野村総合研究所オタク市場予測チーム
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紙の本オタク市場の研究
2005/11/05 03:33
「新しいオタク像」に市場の露払いの意図は有りや無しや。愛好家には踊らされない自覚も必要か。
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:光森長閑 - この投稿者のレビュー一覧を見る
空前のオタクブームの中、遂にこうした本まで出版されるようになった。しかもいい加減なサブカル本ではなく、執筆は野村総研というマーケティングの専門書である。圧倒的な仕事には敬服するしかない。実際この方面の事業に携わる人には役立つ内容も多いだろう。
本書はオタク市場の分析が狙いであり、「オタク」の内面性の評価などはしていない。緻密な研究は素人が口を挟めるものではないし、異を唱えるつもりも毛頭ない。
ただ、これだけ研究し、ビジネスのヒントを提示しているのだから、「オタク」という存在を現在マーケットはどう見ているのか、そしてどうしたいのかを知るには絶好の文献と言える。その行方に最も影響を受けるのは趣味に親しむ人たちであり、その一人として意見を述べる権利もあると思う。
本書は「オタク」を非社会性や特異な身なりなどの一般的なイメージではなく、「対象を限定せず、こだわり分野への消費形態と心理性向」を持つ人たちと再定義している。だから旅行やファッションなど、従前からの特徴的な「オタク」像とはかけ離れた趣味を持つ人も含んでいる。
”上限”はそうとして”下限”はどうか。本文中具体的な記述はないが、帯に「『アキバ系』ではない新しいオタク像を提示」とあるところを見ると、負のイメージは「アキバ系」「萌え」といった人たちに一身に引き受けてもらって排除し、その上で良質な「オタク」像を新たに構築したい意志があると見ていい。
このことは正しい。オタクブームだからといってその非社会性まで容認されたわけではない。
されど、そのスタンスはどこまで貫徹できるのか。項目中私の分かりうる「芸能人オタク」に関して言えば、あまりにさらりと書かれているが、その人物像は物欲に執着し芸能人を妄信するだけの存在であり、真っ当なファンとは程遠い。本書言うところの「アキバ系」そのものである。これでは逆に「アキバ系」に免罪符を与えているようなものである。
「オタク」は「アキバ系」ではない、と謳いながら、その実「アキバ系」をも取り込めるロジックになっている。なぜ殊更「オタク」の定義を変えなければならないのか。「オタク」「アキバ系」の後ろ暗さを消し、金儲けしたい人が大手を振って参入できるよう露払いする動機が本書にあるのではと勘繰ってしまう。
そのことに悪意はないのだろうし、経済を介し事象と向き合う姿勢も極めて真摯である。だが、その真摯さがかえって怖い。経済を錦の御旗にしてしまうと、中にいる人が見えなくなり、歯止めが利かなくなる。前述の「芸能人オタク」をさらりと書けるのも、異様な実像には目をつぶり、”きれいな”経済効果だけを切り取れるからだろう。善意だからといって清濁一緒くたにされてはたまったものではない。
愛好家の側も自戒したい。地位の向上や理解の促進は経済という他者の手を借りる問題ではない。ましてや現在のオタクブームは棚ぼたであって自助努力ではないし、ブームの力を借りなければ定着できないようではあまりに心もとない。市場規模も金儲けしたい人にだけ関係ある話であって、愛好家には何の意味も持たない。
模型業界の雄、海洋堂社長の宮脇修一氏も新聞のインタビューで「今は『電車男』などでさらなる追い風が吹いているように見えますが、オタク的には『ぬるい』。オタク文化のバブルで、いつかストーンと落ちます」と語っている。
オタクブームに気を良くしているばかりでは不用心だ。趣味に専心していたつもりが、知らぬ間に踊らされる子羊になってはいないか点検したい。ひとかどの愛好家なら容易に取り込まれる対象にはなるまいという気骨も欲しい。時流に振り回されることなく、かといって勿論社会に背を向けるのではなく、実直に趣味を全うするのが愛好家には一番であるし、結果世間にも認知される王道なのだろうと思う。
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