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紙の本
二十世紀の原罪物語
2002/07/23 00:29
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ケルレン - この投稿者のレビュー一覧を見る
伝統を誇る有名出版社の資料室で、就任して間もない社長の死体が奇妙な姿で発見される。ダルグリッシュ警視長のチームが捜査を開始すると、解雇を通告された従業員の自殺、内部の仕業と思われる嫌がらせや作家とのトラブルがあったことが明らかになる。社長は古い経営体質を強引に変えようとしていたため、多くの人間から反感を持たれていたのだ。
殺人事件の舞台となる出版社の建物は、テムズ川畔にヴェネツィア様式で建てられた豪華な館で、細部にまで至る過剰な装飾の描写が、時代に取り残された出版社の状況を浮きたたせている。さらに、非効率的ではあっても古いものを守ろうとしたり、伝統的な宗教観から逃れられずに悩む登場人物の姿とも呼応し、殺人の動機に繋がる出来事を少しずつ暗示していく。P・D・ジェイムズらしさが存分に発揮された、二十世紀版の原罪物語といえるだろう。
もう一つの読みどころは、出版界を描いているため、様々な作家像が出てくることである。今では人々の記憶から忘れ去られた高名な詩人、才能の枯渇気づきながらも現実を認めることのできない推理作家、大型新人としてデビューしながら後が続かず、奔放な生活の果てに病に倒れる小説家、そして詩人としてのダルグリッシュ。それぞれの心情の吐露や創作姿勢の描写には、P・D・ジェイムズから見た作家という職業や創作に対する考え方が表れているように思う。