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商品説明
一筋縄ではいかない激しい時代・昭和。時代と人間をリアルに写しつづける写真家の作品と生き方を重ね合わせて、大きな時代のうねりの中に明確なかたちを示す一つの昭和像を描く。『日本フォトコンテスト』誌の連載を単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
岡井 耀毅
- 略歴
- 〈岡井耀毅〉1933年生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、朝日新聞社に入社。『週刊朝日』副編集長、『アサヒカメラ』編集長等を経て89年フリーに。著書に「母の初恋」「瞬間伝説」など。
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紙の本
無頼派文士の肖像写真を後世に残した写真家の全人生
2000/07/10 20:49
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投稿者:佐山一郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この大部の書は銀座「ルパン」での太宰治と織田作之助、書斎の坂口安吾などのポートレートで知られる写真家、林忠彦が生きた時代の記録である。
代表作を持つ写真家が確実に少なくなっている。しかも「写真機王国」日本は、「写真家王国」とは決して言えないアイロニカルな状況だ。誰もがカメラを持てるようになれば、当然のように写真家に対するリスペクトは失われる。いっぽうの写真家たちも、差異化をはかることの難しいいまに対してあまり自覚的とは言えない。まともな写真集、写真論の出版も80年代ほど盛んではない。
そんな現状を踏まえるたびにますます林忠彦のような写真家が気になる。しかし大正7年生まれの彼はもうこの世にいない。90年12月に肝臓がんのために72歳でこの世を去っている。先人の業績を跡付けたのは、70年代後半以降の『アサヒカメラ』編集長として知られた岡井耀毅氏だ。亡くなるまでの親交についてはとくに第9章「林忠彦と私」に詳しいし、そこから読み始めてもよいだろう。
圧巻はやはり第4章「焼け跡・闇市のカストリ時代」だ。敗戦直後の解放感覚を強烈に発散する生態ドキュメンタリー・スタイルが昭和21年の暮れから翌年にかけて確立されたことがじつによく分かる。その時、林忠彦は29歳だった。
「皮ジャンパーで立て膝の奔放で野卑ともいうべき戦前にはまったくみられなかったタイプの無頼の作家のいまにも動き出すような一種異様なポーズのポートレート。その一枚に、戦後の混沌とした社会風俗のなかを不敵に闊歩する反俗作家の風貌がありありとにじみ出ていた。酒場「ルパン」の雰囲気を十二分にあぶり出したなかに作家がクローズアップされているような写真はそれまでになかったのだ」〔同第4章より)
しかしそれは食うか食われるかの決闘的写業によるものではなかった。言葉もろくに交わさず偶然撮れてしまったことや、死後の文学的栄光に支えられていることを林忠雄は気恥ずかしく思っていたという。充実感があるのはむしろ乱雑な座敷書斎のなかで執筆する丸眼鏡の坂口安吾のポートレートだったのではないかという推論も当を得ている。3点セットという言い方では品位を欠くが、たしかにセットで考える必要があるし、このあたりがプロ、アマ問わずの写真の難しさと面白さなのだろう。
林忠彦の仕事は膨大で、『カストリ時代』や『日本の作家』だけの写真家ではない。著者は林忠彦全集を刊行すべく全生涯にわたる撮影フィルムを検討しつつあるという。時代と人間とのかかわり合いの凝縮という古くて新しいテーマに誠実だった写真家は、素晴らしき触媒たる編集者にも恵まれたようだ。(bk1ブックナビゲーター:佐山一郎/評論家 2000.7.11)