紙の本
随筆を読む楽しさ
2006/04/22 18:38
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ろこのすけ - この投稿者のレビュー一覧を見る
中谷宇吉郎は「雪」博士として世界的に有名な物理学者である。また大学時代の恩師寺田寅彦からの学問的影響と文筆活動の衣鉢も受け継いだ名随筆家でもある。
本書は名著「雪」(岩波新書)をはじめとし「中谷宇吉郎随筆選集」(朝日新聞社)などの作品から編者が選び抜いた作品40篇。(編者は寅彦、宇吉郎、両者の影響によって科学を志した中谷門下の一人でもある研究者である)
解説に寄れば本書は「宇吉郎が楽しんで書いたと思われる作品。世代を越えて人に語りかけてゆくもの、時代の記録として残すべきもの」を選んだ由。
大きく四つに分けられていて、(一)「雪」に関するもの。(二)宇吉郎の自伝的作品。(三)寺田寅彦に関する作品。(四)科学的な考え方について。
どれも名品であるけれど、中でも「宇吉郎が楽しんで書いたもの、寺田寅彦がらみ、科学的な考え方、「雪」の結晶」などをすべて盛り込んだ作品「南画を描く話」が楽しく出色。
宇吉郎は敬愛する寅彦から多くのことを影響された。その一つが油絵。寅彦の油絵をみた宇吉郎は羨ましくなって自分も描くことにした。
(十枚ばかり描いて寅彦先生の所へ持っていくと『ふうん、およそ油絵というものを少しでも習った人ならば、こうは描くまいという風な具合に描いてあるね。なかなか面白い』と褒められた)とある。
この一文から寅彦と宇吉郎の人物像が想像できる。寅彦は果たして褒めたのであろうか?
宇吉郎は「褒められた」と解釈。勇気百倍「ルンルン」する宇吉郎。ユーモラスで何とも楽しい師弟関係が浮かんでくる。
次ぎに宇吉郎がこだわるのは「墨」。
寅彦の「墨流しの研究」で培った研究をここでも発揮。篆刻家から唐墨を借り日々熱中。
すっかりこの名墨に惚れ込んでしまった宇吉郎は返す時に「女房と別れるよりもつらい」と書いて返却した。
しかし、その後どうしてもこの名墨が欲しくなった宇吉郎は「一世一代の名文」を書いてついに入手。
さ〜て、「女房と別れるよりもつらい」の一文よりもさらにすごい極めつけの「一世一代の名文」とはどんなものだったのだろうか?
かくの如く本書はどの篇をとっても気取らない文と温かな人柄がにじみ、随筆を読む楽しさ、滋味を堪能できた。
また日常生活の様々な現象を偏見なく科学する事の大切さを書いた「立春の卵」や、「今日直面している多くの困難は大半がわれわれ自身でもたらしたものだ」という「硝子を破る者」の随筆は時代を超えて「平常心を失わない精神」への警鐘であり鋭く読者の心を揺さぶるものである。
科学する心は日常から生まれることを平易な文で書いたこの随筆集はまさに恩師寺田寅彦の衣鉢を受け継いだ名随筆といえるだろう。
随筆を読む楽しさ、滋味をたっぷり味わうことができた。
紙の本
この師匠にして、この弟子あり
2013/03/02 20:17
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Tucker - この投稿者のレビュー一覧を見る
雪の研究と「雪は天から送られた手紙である」という言葉で有名な著者の随筆集。
大きく分けて
・雪の研究に関する話(こぼれ話的なもの)
・趣味・日常の話
・寺田寅彦(著者の師にあたる人物)の思い出
・科学随筆
から成る。
著者の師匠にあたる寺田寅彦はユニークな発想を持つ物理学者でありながら、随筆の名手としての顔も持っていた。
寺田寅彦は夏目漱石に俳句を習っていた、という経歴の持ち主。
「我輩は猫である」にいつも妙な実験をしている物理学者、水島寒月という人物が登場するが、この人物のモデルこそ寺田寅彦だと言われている。
師匠が自分の専門以外にも俳句をたしなんでいたように、弟子の著者も南画(水墨画のようなもの)を趣味としていたり、科学随筆を書いたりして、正に「この師匠にして、この弟子あり」という感じがする。
(南画を書く事についての随筆も収録されている)
本書の中、師の思い出についての随筆の中で「茶碗の湯」という師匠の有名な科学随筆に触れ、その内容を絶賛しているが、著者自身の科学随筆もかなり面白い。
特に印象に残ったのは「地球の丸い話」「千里眼その他」「立春の卵」の3本。
「地球の丸い話」は観測の精度についての話、残り2本はタイトルから想像がつくかもしれないが、ある種の「熱病」についての話で、現在も(おそらく将来も)同じような話には事欠かないだろう。
冒頭に挙げた「雪は天から送られた手紙である」という言葉。
最初は雪を詩的に例えたものとばかり思っていた。
が、「雪」(本書とは別の著作)を読むと、文字通りの「手紙」という意味で使っている事が分かる。
それによると、雪の結晶の形は上空の気温によって変わってくるらしい。
そのため、雪の結晶の形を調べることで上空の気象状態が分かるので「手紙」と言っていたのだ。
師匠の寺田寅彦も知り合いの地質学者を訪れた時、「石ころ一つにも地球創世の秘密が記されている。我々は、その"文字"を読む術を知らないのだ」という旨のことを言ったのが、随筆に残っている。
また「茶碗の湯」では茶碗から立ち上る湯気をダシに気象現象などを子供向けに解説している。
身近な現象の中にこそ、大きな自然の謎を解くカギがある。
しかも自然は、その謎を隠しているわけではなく、常に語りかけているのに人間の方がその言葉を理解することができないでいる、という考え。
そんな師匠の影響を受けたからこそ、「雪は天から送られた手紙である」という言葉に繋がったのだろう。
惜しむらくは、あまりにキレイにまとまりすぎたため、自分のような勘違いをする事がありえる、という点か・・・。
ちなみに、マイケル・ファラデー(電気分解の法則や電磁誘導の法則で名を残す)は「ロウソクの科学」で1本のロウソクが燃える現象をダシに子供向けに化学を解説している。
もし寺田寅彦や中谷宇吉郎がファラデーと会ったら、かなり話が盛り上がることだろう。
「一は全、全は一」
というのは「鋼の錬金術師」(荒川弘)で出てきた考え方だが(どうやら一神教にもそのような考え方があるらしいが)「一」から「全」を想像するのは、かなり難しそうだ。
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中谷宇吉郎は、雪氷学を確立した人物です。彼の随筆はウィットに富み、わかりやすく奥の深い科学エッセイのほか、生涯の師と仰いだ寺田寅彦の思い出、自伝的スケッチなどが盛り込まれています。小さいけど大切なことを見逃さない彼の話は、現代でも学ぶところが多いと思います。
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雪の研究で有名な中谷先生の随筆。しっかりと筋道のたった語り口は、ヘタな文学者のエッセイよりも読みやすい。
しかし、ついついおにぎりの話に心惹かれてしまうのは、食いしん坊の性です。
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図書館で借りた。
雪の研究で有名な著者の随筆集。
霜柱の研究が書いてある自由学園学術叢書第一を
解説というか本人の驚きを表現している部分が
とても面白い。研究の要旨を説明しつつ本人の
感想等が混ぜ込んであって、一緒に読んでいる
気分になれる。
ヘッケルの『宇宙の謎』に木を見て森を見ずの話が
載っているかどうか確かめたくなった。
戦争中や直後の研究事情についても話があり、雰囲気が掴める。
『赤い鳥』に科学教育の文章が載っていることを初めて知った。
天災は忘れた頃来るの由来が驚きだった。
『雪華図説』『北越雪譜』に興味がわいた。
立春の卵は立つ、ことから始まり、卵は立つものだ、と
検証していく様は面白い。随筆をすべて読みたくなる。
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中谷宇吉郎氏といえば「雪」の研究で有名ですね。そのままズバリのタイトルを冠した岩波新書の「雪」は、ファラデーの「ロウソクの科学」にも比肩する素晴らしい著作だと思います。
さて、本書は、その中谷氏が書き連ねた随筆の中から40編を選び採録したものです。学者として寺田寅彦門下でもある中谷氏は、やはり随筆の名手でもありました。
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請求記号:ナカヤ
資料番号:010750081
寺田先生はよく、「相手の人の身になって考えなくちゃ」と言われたものです。
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もう一冊の「雪」と一緒に、石川県の「雪の科学館」で購入。
作者の真摯な人柄が全編にあふれていて、読んでいて気持ちよい。
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今朝の名古屋季節外れの雪
最近読み終えた『中谷宇吉郎随筆集』がとても良かった。
「雪は天から送られた手紙である」の言葉や名文家としても名高い博士の随筆は雪及びに科学に対する情熱愛情に満ち溢れている。
・「霜柱の研究」について
・日本のこころ
・地球の円い話
はとくオススメ。
子供のころにこのような素敵な先生に出会っていたら、理系の道を選んだろうと思わせる。
好きなことを早くに見つけ、それをやり続けた人生は幸福であったとする書きぶりは
Jobs' Speech @ Stanford University
'You've got to find what you love,' Jobs says
と共通。素晴らしい。
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基礎研究者にエールを送りたくなるエッセイ集です。
このエッセイ集では、ぜひ「霜柱の研究」と立春に卵が立つという話の「立春の卵」、地球は回転楕円体だけれど実はまるいと答えるのが一番正しいという話「地球の円い話」を読んでもらいたいです。
詳しくは http://d.hatena.ne.jp/ha3kaijohon/20120501/1335851863
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優れた研究論文は探偵小説のようにスリリングで魅惑的なのだと、『「霜柱の研究」について』と『「茶碗の湯」のことなど』を読んで思った。
女子学生による研究と物理学の恩師による研究を、新鮮な驚きとともに読み進める著者の視点がとても良い。
以前、中谷宇吉郎の雪の科学館でご本人のパネル写真を拝見して、キラキラと目の綺麗な人だと感じたことを思い出した。
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雪の研究と「雪は天から送られた手紙である」という言葉で有名な著者の随筆集。
大きく分けて
・雪の研究に関する話(こぼれ話的なもの)
・趣味・日常の話
・寺田寅彦(著者の師にあたる人物)の思い出
・科学随筆
から成る。
著者の師匠にあたる寺田寅彦はユニークな発想を持つ物理学者でありながら、随筆の名手としての顔も持っていた。
寺田寅彦は夏目漱石に俳句を習っていた、という経歴の持ち主。
「我輩は猫である」にいつも妙な実験をしている物理学者、水島寒月という人物が登場するが、この人物のモデルこそ寺田寅彦だと言われている。
師匠が自分の専門以外にも俳句をたしなんでいたように、弟子の著者も南画(水墨画のようなもの)を趣味としていたり、科学随筆を書いたりして、正に「この師匠にして、この弟子あり」という感じがする。
(南画を書く事についての随筆も収録されている)
本書の中、師の思い出についての随筆の中で「茶碗の湯」という師匠の有名な科学随筆に触れ、その内容を絶賛しているが、著者自身の科学随筆もかなり面白い。
特に印象に残ったのは「地球の丸い話」「千里眼その他」「立春の卵」の3本。
「地球の丸い話」は観測の精度についての話、残り2本はタイトルから想像がつくかもしれないが、ある種の「熱病」についての話で、現在も(おそらく将来も)同じような話には事欠かないだろう。
冒頭に挙げた「雪は天から送られた手紙である」という言葉。
最初は雪を詩的に例えたものとばかり思っていた。
が、「雪」(本書とは別の著作)を読むと、文字通りの「手紙」という意味で使っている事が分かる。
それによると、雪の結晶の形は上空の気温によって変わってくるらしい。
そのため、雪の結晶の形を調べることで上空の気象状態が分かるので「手紙」と言っていたのだ。
師匠の寺田寅彦も知り合いの地質学者を訪れた時、「石ころ一つにも地球創世の秘密が記されている。我々は、その"文字"を読む術を知らないのだ」という旨のことを言ったのが、随筆に残っている。
また「茶碗の湯」では茶碗から立ち上る湯気をダシに気象現象などを子供向けに解説している。
身近な現象の中にこそ、大きな自然の謎を解くカギがある。
しかも自然は、その謎を隠しているわけではなく、常に語りかけているのに人間の方がその言葉を理解することができないでいる、という考え。
そんな師匠の影響を受けたからこそ、「雪は天から送られた手紙である」という言葉に繋がったのだろう。
惜しむらくは、あまりにキレイにまとまりすぎたため、自分のような勘違いをする事がありえる、という点か・・・。
ちなみに、マイケル・ファラデー(電気分解の法則や電磁誘導の法則で名を残す)は「ロウソクの科学」で1本のロウソクが燃える現象をダシに子供向けに化学を解説している。
もし寺田寅彦や中谷宇吉郎がファラデーと会ったら、かなり話が盛り上がることだろう。
「一は全、全は一」
というのは「鋼の錬金術師」(荒川弘)で出てきた考え方だが(どうやら一神教にもそのような考え方があるらしいが)「一」から「全」を想像するのは、かなり難しそうだ。
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雪の研究で有名な物理学者、中谷宇吉郎の随筆集。一般的な科学者のイメージとは程遠い、親しみを感じさせる文章は夏目漱石の友人でもあった師匠、寺田寅彦の影響だろうか。師の訃報や弟の早逝に対する言葉はやはり悲しみの色が隠せないが、全体として時代や科学に対する暖かくも誠実な眼差しを感じさせ、戦後に関する言説は現代にもなお通用する。特に、科学が難解になる程その誤用が氾濫する「知の欺瞞」的な問題意識を昭和30年代の頃から持たれているというのは驚きであった。科学を愛し、文化を愛した人の言葉は、こんなに優しくも突き刺さる。
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第45回天満橋ビブリオバトル テーマ「花火」で紹介した本です。
https://www.facebook.com/bibliobattle/photos/a.674907549228113.1073741827.322792657772939/766985513353649
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素晴らしいの一言.研究者ならば必読の書であろう.
研究についての心構えや,科学とはなにかという問いかけ,また,教育についても考えさせられる短編を多数読むことができる.